【東京新聞杯】前手薄のスロー想定、重視したい先行力 強み活かせるセオが本命候補
山崎エリカ

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逃げ馬不在で先行馬も手薄
東京芝1600mは向正面の奥からスタートし、3角までの距離は542mほど。Uターンコースで直線が長いため、逃げ馬多数で前半から競り合えばハイペースにもなるし、隊列がスムーズに決まればスローペースにもなる。
ただし、東京新聞杯は短距離路線組が出走してくることが少ないため、過去10年でハイペースになったことは一度もない。一方、2016年と2017年はかなりのスローペースで逃げ切りが決まっているが、この2レースは14頭立て以下かつ逃げ馬不在だった。
多頭数の年は逃げ馬不在でも平均ペース前後で決着していることが多いが、今年は逃げ馬不在に加えて先行馬も手薄。これならばややスローペースとなり、先行馬が有利になると見る。
能力値1~5位の紹介
【能力値1位 ブレイディヴェーグ】
デビューから中距離路線を使われ、一昨年のGⅠ・エリザベス女王杯を優勝。ここでは1番枠からアオって出たが、すぐに立て直して好位の最内を確保。3~4角で最短距離を通し、直線で徐々に馬場の良い外に誘導しての勝利だった。
ただし、このレースは鞍上の進路取りが完璧で、昨秋に行われた府中牝馬Sや富士Sを下回る指数での決着だった。
強かったのは、長期休養明けで優勝した2走前の府中牝馬S。ここでも5番枠からやや出遅れたが、促して中団やや後方からの追走。向正面でスペースを作り、3~4角で中団列が広がっていくなか、中目から徐々に前との差を詰めながら外に誘導して直線へ。
序盤で追われると、伸び始めは地味だったが、ラスト2Fで一気に伸びて2列目まで上がる。ラスト1Fで抜け出して1馬身1/4差で完勝した。このレースはコンクリート馬場でややスローペースだったが、ラスト1Fで加速して差す非凡な末脚を見せた。
府中牝馬Sの内容からもっと距離が長いほうがいいと見ていたが、前走はマイルCSに出走。末脚不発で4着に敗退した。
外差し有利の馬場と展開だっただけに、2番枠からいっそ後方付近まで下げ切って、大外一気ならもっと上の着順が狙えていた可能性もある。ところが、珍しくスタートが決まったことで中途半端に位置を取りに行ってしまい、それが敗因のひとつとなってしまった。
この後はドバイターフも見据えており、京都記念との選択でこちらに出走してくるようだが、逃げ馬不在かつ先行馬も手薄の状況で末脚に懸ける競馬だと届くかどうか……。かといって、位置を取りに行けば追走が忙しく、マイルCS同様に末脚が甘くなってしまう可能性が高い。ここは評価を下げる。
【能力値2位 ジュンブロッサム】
昨年の富士Sを休養明けで勝利した馬。ここでは16番枠から五分のスタートを切り、軽く促して中団外目を追走。道中はコントロールしながら中団外目で進め、3~4角でペースが落ちると前のパラレルヴィジョンを追い駆けて直線で外に誘導した。
直線序盤で同馬に並びかけると、ラスト2Fで一気に伸びて先頭列付近。ラスト1Fで一緒に伸びてきたソウルラッシュを競り落として1馬身差で完勝した。ソウルラッシュは次走マイルCSを勝利。相手は本番に向けての叩き台だったにせよ、同馬を相手に末脚の違いを見せつけたことは評価できる。
昨夏の関屋記念では、トゥードジボンがかなりのスローペースで逃げ切ったなかで3着好走。6番枠から出遅れて後方2列目の最内という致命的な位置から、3~4角で外に誘導し、直線でも良く伸びて3着争いを制したように、まさに末脚一閃、といったタイプだ。
前走のマイルCSでは10着と崩れたが、これは休養明け好走後の反動。出遅れて後方から位置を挽回し切れず、3~4角で馬場の悪化した最内を通らざるを得なくなったことが大きい。
本馬は出遅れ癖があり、テンの脚も速くないので今回も後方からの追走になるだろう。よって展開に恵まれない可能性は高いが、昨夏の関屋記念よりはペースが上がると見ている。後方勢で最先着するのは本馬である可能性が高く、要注意だ。
【能力値3位タイ ジオグリフ】
2022年の皐月賞を制して以降は成長力が見られなかったが、昨年の札幌記念では2着に健闘した。2番枠から好スタートを切り、外のアウスヴァール、ノースブリッジを前に入れる形で上手く3列目の最内を確保。道中は単騎で逃げるノースブリッジとのスペースを広げ、3~4角で最短距離から間隔を詰めて4角出口で前2頭の外に誘導した。
直線序盤ではノースブリッジに離されたが、ラスト1Fでしぶとく伸び、同馬を1馬身3/4差まで追い詰めた。昨年の札幌記念当日は異例の超高速馬場で、レースはややスロー。そんななか、最短距離を走れたことが好走要因だが、ここで自己最高指数を記録している。
前走のBCマイルは札幌記念と同様に3列目の最内で進め、3~4角で最短距離を通して4角で仕掛けたが、直線序盤で苦しくなって5着敗退。しかし、ここは札幌記念好走後の疲れ残りの一戦。かなりのハイペースとなった中で、上手く最短距離を通せてはいるが、レースの流れに乗り過ぎた面もあった。
今回は遠征後に立て直されての一戦。皐月賞馬でもあるように本質的には中距離向きだが、ここは逃げ馬不在で先行馬も手薄な一戦。紹介する能力値5位以内の馬ではもっとも前の位置で戦える優位性があるだけに、対抗に推したい。
【能力値3位タイ ウォーターリヒト】
3歳春シーズンは皐月賞、NHKマイルCとGⅠで結果を出せなかったが、秋に復帰するとキングカメハメハM(3勝クラス)とキャピタルS(L)を中団、後方からメンバー最速の上がり3Fを駆使して連勝。すると、前走の京都金杯でも2着に善戦した。
前走は大外16番枠から五分のスタートを切り、促して後方の外からの追走し、徐々に内に入れて3角へ。3~4角では後方の内目からじわっと押し上げ、中団中目のスペースを拾って直線へ。直線序盤で外に誘導し、しぶとく伸びながら4列目付近まで上がると、ラスト1Fでも伸び続けたが、勝ち馬サクラトゥジュールにはクビ差届かなかった。
その前走は時計の掛かる馬場で、ややハイペース。大外枠としてはかなり上手く乗られていたが、馬自身も最後までしぶとかった内容は評価できる。ここへ来て地力をつけている4歳馬でまだ成長の余地はあるが、今回は前走ほど展開に恵まれない可能性がある。
また、今回は本馬を手の内に入れている田辺裕信騎手ではなく、菅原明良騎手に手が変わる点もやや不安。同騎手は前の馬とのスペースを上手く作れず、ペースが上がらないと包まれたり、詰まったりして仕掛けが遅れるシーンが見受けられる。展開と鞍上を加味して、評価を下げたい。
【能力値5位 オフトレイル】
昨年のラジオNIKKEI賞の覇者。ここでは5番枠から出遅れて最後方からの追走となると、道中は淡々と流れていたが、向正面では一列前のサトノシュトラーセが捲る展開に。
同馬に抵抗する馬も複数いたなか、ワンテンポ待って3角手前で中目に誘導。4角で5頭分外を回るロスがあり、直線序盤でもまだ中団、ラスト1Fでも先頭との差がかなりあったが、しぶとく伸び切ってアタマ差で勝利した。
ラジオNIKKEI賞の1走前、白百合Sではかなり掛かってしまい、どんどん位置を上げるスムーズさを欠く競馬となり、ラスト1Fで甘さを見せて2着敗退。その敗戦から、折り合い重視で乗られたことによる優勝だった。
本馬は気性面の観点から近2走は芝1400mのスワンS、阪神Cを使われ、外差し有利の馬場と展開に恵まれて2、3着に好走。しかし、ゲートが下手でテンの脚も遅く、本質的には短距離向きではない。
気性面と距離適性のバランスを考えれば現状はマイルくらいがベストの感があり、ここはスムーズに折り合っての上位争いを期待。重い印を打ちたい。
前へ行けるセオが穴候補
セオは4走前の都大路S(L)で、今年の中山金杯覇者・アルナシームに勝利した馬。このレースでは6番枠から五分のスタートを切り、押してハナを主張したが、内からアウスヴァールが絡んでくると、これを行かせて2番手の外で折り合った。道中かなりのスローペースだったが、コントロールしながら2番手の外を維持した。
3~4角では持ったままアウスヴァールにプレッシャーをかけ、4角で並びかける。直線序盤で追われるとすっと伸びて2馬身半差リード。ラスト1Fでやや甘くなってアルナシームに迫られたが、余裕を持って1馬身1/4差で勝利した。
3歳時の中山芝1800m・1勝クラスではレーベンスティールを相手に逃げ切り、京都芝1600m・2勝クラスでは昨年の関屋記念2着馬であるディオを相手に逃げ切った実績もある。本馬は古馬になって以降、2番手に控える競馬でも結果を出しているが、前に行って持久力を生かしてこそのタイプだ。
都大路S勝利後の中京記念、カシオペアSは2桁着順に敗れているが、そこから立て直された前走の京都金杯では4着に善戦。2番枠からまずまずのスタートを切ってハナを主張したが、外からセルバーグに競られ、3角で下げきって同馬の外に誘導した。
3~4角では再び楽な手応えで同馬に並びかけ、直線序盤で先頭に立つ。後続を離しにかかったが、ロジリオンに並ばれ、ラスト1Fではやや甘くなって外差し勢に屈する形でクビ+クビ+1馬身差でゴールした。
京都金杯はやや時計の掛かる馬場でペースもそこそこ速かったが、そんななか前に行って最後までしぶとかったことは評価できる。逃げ馬不在、先行馬手薄のここならば大外16番枠でも1、2番手には行けるだろう。前走より楽なペースになりそうなことから、本命も視野に入れたい。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ブレイディヴェーグの前走指数「-21」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.1秒速い
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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