【チャレンジC回顧】“フロックではない”ラヴェルが完全復活 成長曲線と厩舎の努力が合致しここから最高潮へ
勝木淳
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矢作厩舎の信念と血統
先日のエリザベス女王杯で2着だったラヴェルが正攻法で重賞2勝目。前走は人気薄での激走だったが、決してフロックではなく、きっちり次戦につなげて復調を証明した。リバティアイランドが同世代の牝馬で唯一先着を許した存在であり、能力があるのは間違いない。だが、阪神JFでの11着から長いトンネルに入る。
真の要因は陣営に聞かないと分からないが、外野はどうしたって成績を急落させた牝馬を評価できない。こういった成績の牝馬は思いのほか多く、たいていは浮上のきっかけをつかめずに終わっていく。
牝馬は本能で走るといわれる。グランアレグリアやアーモンドアイが長くトップ戦線で結果を残してきたのは、その能力値もさながら、最後まで競馬に前向きな本能に敏感だったことが大きい。サラブレッドの本能とは、危険をいち早く察知し、逃げること。これを競走に応用したのが競馬だ。本能が強い牝馬は一方で、なにかのきっかけでそれが切れてしまう。切れた糸は簡単には修復できない。
だからこそ、ラヴェルの復活は大きい。さすがは矢作芳人厩舎。その能力を信じ、必ず、再び結果を残せる日がくると確信をもって、ラヴェルと向き合ってきた。信念をもって柔軟に選択を重ね、模索に模索を重ね、復活に導いた。牝馬の復活は厩舎力の賜物といえよう。
姉ナミュールももどかしい成績から4歳秋に大輪を咲かせた。母サンブルエミューズの成長曲線と厩舎の愚直な姿勢がようやく合致する時期を迎えたということだろう。父キタサンブラックもその産駒イクイノックスも古馬になり、ポテンシャルを結果につなげられた。チャレンジC勝利はラヴェルにとって次へ進むきっかけでもあった。
馬名の由来でもあるフランスの作曲家モーリス・ラヴェルといえば、管弦楽の魔術師と呼ばれ、代表曲にバレエで有名な「ボレロ」がある。最初から最後まで同じリズムが繰り返され、メロディにスネアドラム、フルート、クラリネットと次第に楽器が重なっていき、単調なリズムに音の色を重ね、厚みをもたせていく。最後は多くの楽器によって大編成を形成し、メロディはたちまち迫力あるものに変わり、最高潮へ。最後の盛り上がりにたどり着く過程を味わう楽曲だ。
ラヴェルの競走生活はまさに「ボレロ」のように、ここからクライマックスを迎える。その壮大さを楽しみたい。
ラヴェルの目立つ脚力
さて、レースは29年ぶりに京都で行われた。暮れの京都開催は1990年以来34年ぶり。体内に競馬カレンダーが仕込まれているファンにとって違和感だが、これは関係者にもあったりするのか。
ベラジオオペラが制した昨年のチャレンジCは、レース自体が後半1200mすべて11秒台というハイレベルなラップ構成だった。京都開催の今年も前半1000m通過58.4と速く、バビット、アウスヴァール以下好位勢も互いにプレッシャーをかけ合い、先を急ぐ競馬になった。後半1000mは59.8。好位勢は後半、ギアをあげようにもあがらなかった。
中団にいたラヴェルが直線で抜け出すと、ラスト400mは11.6-11.8。中団より前、勝負圏内で流れに乗ってレースを進めたライバルたちとは脚力が違った。ラヴェルの末脚が目立ったレースといっていい。馬群で我慢し、気持ちを切らさずに走れたのは厩舎の工夫の結果だろう。京都の内回りらしい極端なペースアップがない競馬だったが、元々の内容を振り返れば、ギアチェンジにも対応できる。好走する幅が広がれば、勝つチャンスも増す。これが収穫だ。
2着ディープモンスターは外から追い込んできた。今夏、自力勝負ができる手応えを感じたものの、折り合いを欠いた前走を踏まえ、再び溜める競馬へ。先行勢が厳しく、流れが向いたために、2着にきたが、上がり600m35.0はラヴェルと同タイム。決して鋭く伸びたというわけではない。自力で勝ちにいけないと、なかなか勝利は遠い。まくりなど、大胆な策がほしい。
3着エアファンディタもまた流れが向いた一頭。長期休養明けからなかなかきっかけがない状態だったのを踏まえ、あえて後方で脚を溜める競馬で突破口を開こうとした作戦が当たった。これを契機に再び上向きになるか。今後に注目だ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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