【秋華賞回顧】過酷な流れに動じぬ精神力、操縦性際立ったチェルヴィニア ルメール騎手の完璧なレース運びもカギに

勝木淳

2024年秋華賞、レース結果,ⒸSPAIA

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内回りがポイントだったチェルヴィニア

チェルヴィニアがオークス、秋華賞の二冠を達成した。秋華賞創設後の記録ではメジロドーベル、カワカミプリンセス、メイショウマンボ、ミッキークイーンに次ぐ5頭目。三冠完走での達成は3頭目。桜花賞二桁着順からの二冠達成はメイショウマンボ以来11年ぶりのことだ。

その桜花賞はアルテミスSから阪神JFをパスして中22週での出走であり、結果としてこの使わない選択が二冠につながった。桜花賞は13着と見せ場はつくれなかったが、これも臨戦過程を踏まえれば、と割り切った一戦。順調に調整さえできればその力は世代上位だという陣営の自信というか見立てがあってのことで、実際にその通りの結果となった。

信念をもってことにあたる。木村哲也調教師が普段から心がけている言葉が浮かぶ。昨年、イクイノックスで世界ナンバー1の座を手にした木村厩舎は今年、JRA32勝(10月14日終了時点)。昨年同時期と同じペースで勝ち星をあげる。常に淡々とやるべきことをやる。木村調教師は変わらない。

チェルヴィニアの母チェッキーノは師が尊敬する藤沢和雄元調教師が管理したハッピーパスの仔で、フローラSを勝つなど3勝。オークスはシンハライトにクビ差及ばなかった。その産駒は2022年藤沢師の引退により、木村哲也厩舎に預託された。初仔ノッキングポイントも新潟記念を含む3勝なので、チェルヴィニアは一族初の4勝目を秋華賞であげた。母は中山2勝だが、兄や自身はこれまですべて東京か新潟で勝利をあげており、弟アルレッキーノも同じ。左回りの長い直線を得意としており、今回は京都内回りがポイントだった。

だが、終わってみれば、余計なお世話。変則的な流れでも、淡々と追走し、勝負所できっちり末脚を繰り出した。やるべきことをやる。師の信念を体現する走りだった。無駄なことはしない。そんな姿にイクイノックスが重なる。力を出し切れば勝てる。同世代の牝馬同士なら、その域に到達した。その先を期待したくなるのは当然だ。


完璧だったレース運び

それにしても、牝馬同士とは思えない過酷な流れになった。GⅠにふさわしい底力勝負はみていて力が入る。演出したのはセキトバイースト。ローズSではマイペースの大逃げで3着に入り出走権を手にしたが、今回はそれを超える意を決した逃げだった。序盤600m34.5は目立って速くはないが、600m標識通過後から11.3-11.3-11.7-11.6と速かった。息を入れたい中盤が速ければ、ついてくる馬はいない。前はバラバラ、後ろに大集団ができる隊列によもやと思わせた。

だが、ここから12.2-12.7。さすがにセキトバイーストも苦しく、追いかける先行勢にも辛かった。追う後方の大集団も当然、内回りを意識し、早めに動かざるを得ず、最後は底力勝負に。確固たる実力がなければ、直線で脚を残せなかった。勢いよく内を伸びたミアネーロも最後は止まった。ラスト200m11.8を耐えられる持久力と我慢強さが試された。チェルヴィニアを含め、最後まで伸びたボンドガール、ステレンボッシュは世代最上位クラス。古馬と戦える手ごたえを得た。

チェルヴィニアとこの2頭との差は位置取りや進路なども大きい。いつでもどこからでも動けるポジション運びはさすがルメール騎手。ゴールまで完璧なレースであり、それを実行できるチェルヴィニアの操縦性も評価ポイントだろう。前後半1000m57.1-1:00.0のタテ長隊列という動きにくいレースだからこそ、チェルヴィニアのレース巧者ぶりも際立った。むしろ東京や新潟より締まった流れになる内回りの方が良いようにさえ思える。


適条件で狙いたい伏兵陣

2着ボンドガールは折り合いと距離を念頭に今回も待機策。直線は外からよく伸びた。流れも向いたが、この形で勝ち切るには直線が短すぎたか。近走は中距離挑戦のため、追い込みに徹してきたが、マイルあたりならもう少し攻めた競馬ができるはず。母コーステッドはダノンベルーガ、コスタレイと中距離型が目立つものの、そこはやはり父ダイワメジャー。マイル前後がベストだろう。淀みない流れでみせた末脚はマイラー資質の高さの裏返しではないか。適距離に戻った今後が楽しみだ。

3着ステレンボッシュはチェルヴィニアの背後、外目にポジションをとりながら、3~4コーナーで前を行くチェルヴィニアにベストポジションをとられてしまった。さらに、外に出そうにもコガネノソラなどがいて、スペースがなく、やむなく内へ切り返して追い込んだ。内回りでこの進路変更は痛く、伸び脚が目立っていただけにもったいなかった。

3番人気クイーンズウォークはゲートでチャカつき出遅れ。さらに緩まない中盤で上がっていくなど、乱れたリズムを取り戻せなかった。今後、ゲートに課題はあるものの、今回は力を出していない。また、好位から粘って4、5着だったラヴァンダ、クリスマスパレードは流れを考えれば大健闘。決して内回りで恵まれた好走とはいえない。広いコース向きのラヴァンダ、中山が得意なクリスマスパレード。どちらも適条件なら狙いたい。

2024年秋華賞、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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