【札幌2歳S回顧】短距離血統の2頭でワンツー マジックサンズ、アルマヴェローチェともに見どころあり
勝木淳
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バレークイーン一族とキズナ産駒
北海道シリーズの総決算は秋、そして翌春に向けて年々、重要性を増す2歳チャンピオン決定戦。重馬場で迎えた開催最終週の芝は開幕当初のような高速馬場ではなく、適度に時計を要し、スタミナと持久力に傾く。GⅠで必ず問われる要素であり、本格派になる素養がみえてくる。
今年の勝ち馬マジックサンズは、4コーナーで外から2番手まで押し上げ、早々に先頭に立ち、アルマヴェローチェの急襲を封じ込んだ。2歳にして粘り強い走り。本格派コース決定といえる。
マジックサンズはバレークイーン一族の出。母系を見るとダービーを3戦目で勝った天才フサイチコンコルドの名がある。その弟には皐月賞馬アンライバルドもいて、クラシックを目指すにあたり、バレークイーン牝系は必ずとりあげられるようになった。
バレークイーンを母にもつフサイチミニヨンの仔アンブロワーズは父フレンチデピュティであり、中距離をこなしていい血統だったが、2戦目に函館2歳Sを勝った。つづく阪神JF2着と好走したものの、桜花賞14着から長いスランプに陥った。ここからアンブロワーズの血は仕上がり早という印象にかわった。その娘コナブリュワーズも短距離に強く、いつの間にかバレークイーン一族であることを忘れそうになる短距離、速攻型に塗りかえられていった。
マジックサンズは仕上がり早の中距離タイプであり、バレークイーン一族の進化版のようだ。短距離に寄った母系に中距離適性を注いだのは父キズナからだろう。3歳世代絶好調のキズナはジャスティンミラノが母の父ダンチヒ系エクシードアンドエクセル(短距離GⅠで2勝)であり、短距離の血と相性がよく、母系のスピードと自身の適性を掛け合わせたような産駒を送る。
アンブロワーズの適性を引き出し、そこに自身の距離適性と持続力を注いだのがマジックサンズ。この世代もキズナから目を離せない。配合の妙でキズナのイメージを一変させたノーザンファームはさすがの一言。すでに2025年に向けて逆算をはじめているだろう。
牡馬相手で健闘したアルマヴェローチェ
この日の札幌は週中、そして当日の雨によって終日重馬場。洋芝の道悪は一気にタフな状態になる。人気のアスクシュタインがダッシュ力の差で先手を奪い、前半1000m1:01.1は平均ペース。先行勢は力がなければ残れないが、差し馬も確かな脚力がなければ太刀打ちできない流れとなった。
後半800mは12.1-12.6-12.2-12.4。中盤も緩まず、かつ、マジックサンズが先頭に並んだ地点でギアがひとつあがった。レース上がり37.2、マジックサンズの上がり36.6も目立つ記録ではないかもしれないが、外からひとまくりを決めた内容は濃い。皐月賞馬で今夏、札幌記念2着ジオグリフのイメージに近い。ジオグリフが勝った札幌2歳Sは良馬場で時計が出る馬場だった。
マジックサンズにハナ差まで迫ったのがアルマヴェローチェ。同じような位置からレースを進め、勝負所はひと呼吸おいてインに飛び込んできた。横山武史騎手らしい仕掛けが光った。とはいえ、こちらは牝馬。前走新馬は逃げてマイペース。今回は中団から仕掛けを待つ形と対照的なレース振りにセンスを感じる。
こちらも母系に短距離馬サクラバクシンオーの名があり、レイズアンドコール、ラクアミとスプリンターが続いた一族。父ハービンジャーは短距離馬ツルマルワンピースとの間にグランプリホースのブラストワンピースが出た例があるように、短めの血統からスピードをもらうとおもしろい。
アルマヴェローチェはこの2戦は稍重、重なので道悪への適性も感じる。道悪に強い牝馬はマリアライトやレイパパレ、クロノジェネシスと牡馬との戦いで真価を発揮するイメージがある。牝馬同士の軽いレースになった際、取りこぼす可能性はあっても忘れないでおきた一頭だ。
3着は1番人気ファイアンクランツ。マジックサンズやアルマヴェローチェをターゲットに仕掛けていったがひと伸び足りなかった。母カラフルブラッサムは1、2着の母とは異なり中距離タイプで、やや晩成のきらいがあった。併せ馬で遅れるなど調教でも無理をさせておらず、現時点での完成度の差も感じる。堀宣行厩舎はこういったタイプを大成させる手腕に長けており、長い目でみよう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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