【AJCC】馬場状態の見極めが鍵 稍重までならモリアーナ、さらに悪化するならマイネルウィルトス
山崎エリカ
ⒸSPAIA
逃げ~好位までが有利な舞台
タフな馬場でネコパンチが大逃げした2013年こそハイペースが発生しているが、過去10年でハイペースになったことは一度もない。そのうち半数は極端なスローペースで決着している。これは前半で急坂を上るコース形態によるものが大きく、基本的にペースが上がりにくい。
このため過去10年で逃げ~好位が9勝、追込が1勝。2着は先行~好位が5回、差し、追込が5回。展開上は前に行く馬が有利だが、馬場の内側が悪化することで、外からの差し、追込が決まっている場合が多い。AJCC当日はタフな馬場が予想されるが、少頭数で逃げ馬不在だけに、過去の傾向通りになる可能性が高いと見ている。
能力値1~5位の紹介
【能力値1位 ボッケリーニ】
重馬場で行われた京都大賞典の2着馬。その前々走は6番枠から好スタートを決めてハナをちらつかせ、外のアフリカンゴールドらを行かせながら内に切って好位の最内を追走した。道中は前にスペースを作り、中団に近い位置で進め、3角手前から徐々にスペースを潰して進出し、4角ではプラダリアの後ろで我慢。直線序盤で3列目からプラダリアの内から並びかけて2列目に上がった。ラスト1F地点でやや詰まったがすぐに外に出して、最後はプラダリアとの叩き合い。クビ差で敗れたが、3着ディープボンドを3/4馬身離しており、十分な強さは見せた。
タフな馬場だったが、開幕週で前後半5F61秒6-59秒8とかなりのスローペースで、内と前が有利な流れ。本馬は芝2400mならゲートも二の脚も速く、楽に前の位置が取れる強みがあればこそだが、ここでは好位の内々とかなり上手く乗られている。
前走のチャレンジCも4番枠からまずまずのスタートを切って、外のベラジオオペラを行かせて中団中目を追走。道中は中団馬群の中目で我慢し、3角では内目からベラジオオペラをマークしながら仕掛けを待つ形。最後の直線で進路を内に切って最内のスペースを拾い切って2列目まで上がり、ラスト1Fでそのまましぶとく食らいついて外のベラジオオペラに並びかけてハナ差2着だった。このレースでもペースがそれほど上がらず、直線序盤で仕掛けを待たされる馬が多かった中で、3~4角の内目からスムーズなレースができていた。
本馬はここでは能力値1位。また2022年1月のAJCC以降、GⅠ以外の重賞レースでは複勝率100%。重馬場の前々走で自己最高指数を記録しているように、時計が掛かる馬場も好ましい。ただし、今回は大外12番枠。基本的には前々走のように最短距離を立ち回りたい馬だけに、この枠は好ましくないだろう。ここでの破壊力がないので重い印は打てないが、連下には加えておきたい馬だ。
【能力値2位 マイネルウィルトス】
デビューからしばらく脚を溜める競馬で伸び悩んでいたが、2020年4月の飯盛山特別(1勝クラス)では先行策から圧勝。スタミナ豊富なところを見せた。その後、極悪馬場の新潟芝2000mで行われた2021年福島民報杯でも大差勝ち。同レースは1番枠からまずまずのスタートを切って好位直後の最内を追走していたが、そこから徐々に位置を上げ、4角では2列目。直線序盤で中目に誘導すると他馬が次々とバテて失速していくなか、最後までしぶとく粘り続け、2着馬に1秒8差つけた。
ソーヴァリアントが抜群の決め手を見せた2021年のチャレンジCや、上がり3Fタイムの1~3位の馬が上位を独占した昨夏の新潟記念のように、芝2000mで極端に上がりの速い決着になると崩れるが、重馬場だった2022年の函館記念でも2着に善戦しているように、上がりの掛かる決着なら芝2000m戦でも通用している。
本馬は豊富なスタミナの持ち主。近走も超高速馬場のアルゼンチン共和国杯や、ステイヤーズSでも善戦して好調なだけに、レース当日に極悪馬場まで悪化するようなら独走する可能性もある。仮にそこまで悪化しなかったとしても、中山芝2200mなら向正面で位置を押し上げられるぶん、上位争いに加わる可能性が高い。馬場が悪化すればするほど好ましく、不良馬場なら本命候補だ。
【能力値3位 チャックネイト】
一昨年の春にノド鳴り手術をし、そこから復帰すると右肩上がりで上昇。前々走では六社S(3勝クラス)に出走。9番枠からやや出遅れたが、そこから中団の外目まで挽回して追走した。道中も淡々とした流れのなか、中団の外目を追走し、前のワイドエンペラーの外から直線へ。序盤でジリジリ先頭列まで上がって、ラスト2Fで外から伸びてきたエンドウノハナと併せてしぶとく伸び、内から上がった2頭もクビ差で振り切った。
さらに重賞初挑戦となった前走のアルゼンチン共和国杯でも3着と好走。4番枠からまずまずのスタートを切って、そこから押していったが、外の各馬を行かせて、最終的には中団馬群の中目を追走した。道中も中団中目で前のグランオフィシエの後ろで我慢し、3~4角でワンテンポ仕掛けを待って、4角出口で外に誘導。序盤は進路がなく、さらに外に誘導したが伸び始めが地味で、ラスト1F付近ではまだ3列目辺り。ラスト1Fでようやく伸びてヒートオンビートと同着の3着となった。
重馬場もこなせるし、この距離にも問題がない。エンジンのかかりが遅いので、重馬場で前がペースを引き上げてくれれば漁夫の利を得られる可能性はある。しかし、逃げ馬不在かつ前半で急坂を上る中山芝2200mで、そこまでペースが上がるようには思えない。近走の勢いもあるが、前走で自己最高指数を記録したあとの一戦となると不安のほうが大きい。
【能力値4位 モリアーナ】
一昨年6月の東京芝1600mの新馬戦では、好位からの競馬でラスト2F11秒0-11秒1の強烈なインパクトを残して勝利した馬。新馬戦では大物感漂うレースをしていたが、昨春はクイーンCで2着ドゥアイズにハナ差先着されたことで桜花賞出走を逃した。しかし、前々走の紫苑Sでは嬉しい重賞初制覇を達成した。
その紫苑Sでは2番枠からまずまずのスタートを切ったが、すぐに抑えてリズム重視で控える形。前半から逃げたフィールザオーラがペースを引き上げたことで、隊列が縦長となり、後方2、3番手からの追走になった。3~4角では前にいた馬たちが苦しくなって減速してきたが、それでも本馬は前からかなり離された位置。3~4角の内目から4角で中目を縫って上がったが、直線序盤ではまだ中団列。ラスト1F地点では先頭のヒップホップソウルとの差が約6馬身はあったが、それを一気に詰めて半馬身差で完勝した。
前走の秋華賞は前後半5F61秒9-59秒2のかなりのスローペースでやや出遅れ。後方の最内で我慢し、3~4角の最内から中団まで上がっていく競馬。展開が向かなかったのもあるが、脚を溜めながらも直線でやや伸びを欠いたのは、休養明けで好走した反動によるものだろう。今回はそこから立て直されての一戦で、巻き返す可能性がかなり高い。
今回は少頭数で逃げ馬不在。勝ち負けを意識する場合は、ある程度は前の位置を取る必要がある。3歳秋になって成長力を見せたとはいえ、2歳時の阪神JFでかなりのハイペースを先行して大敗しているように、前の位置を取りにいって良い馬ではない。それでも、馬場が悪化しても末脚勝負なら通用するだろう。不良馬場ならマイネルウィルトスを本命にしたいが、稍重くらいなら本馬を本命にしたい。その中間的な馬場だと取捨選択が難しいので、極端な馬場になってほしい。
【能力値5位 カラテ】
昨年の新潟大賞典をGⅠ通用レベルの指数で優勝した馬。同レースは2番枠から五分のスタートを切って、そこから楽に先行したが、外のセイウンハーデスが大逃げ体勢だったため、好位の内目に収めて追走した。3~4角でも我慢させ、3列目の内で直線へ。序盤で馬場の悪い最内から徐々に中目に誘導しながら2番手に上がり、ラスト2Fで追い出されると粘り込みを図るセイウンハーデスとの一騎打ちとなり、これを3/4差で制した。
当時は極悪馬場で3角5番手以内馬4頭が11着以下に崩れたなか、5番手から優勝したのが本馬であり、3着には8馬身以上の差を付けている。つまり、セイウンハーデスと本馬のスタミナが勝っていたということ。本馬は長らく追走が忙しい芝1600mを使われ、能力の高さで東京新聞杯を制したこともあったが、中距離を使われてスムーズにレースの流れに乗れるようになり上昇した。
不良馬場で高指数を記録しているように、道悪巧者でパワー型。今回の条件は向くし、穴人気するのは理解できる。しかし、道悪での激走の疲れで新潟大賞典後はスランプに。マイル重賞でも通用していたように、それなりにスピードがあるので、高速馬場の芝2000m、2200mでも崩れるような馬ではない。今回はそこから立て直されての一戦。休ませたことで立ち直っていたとしても、スタミナが不足する長期休養明けで道悪をこなすのは難しく、ここは評価を下げたい。
穴馬は道悪巧者で前へ行ける強みがあるショウナンバシット
ショウナンバシットは3歳時に若葉S勝ちの実績がある馬。同レースでは8番枠からやや出遅れたが、そこからじわっと先行。超スローペースでレースが流れる中、3番手の外まで上がって、道中は折り合いに専念した。3~4角でも徐々に進出して楽な手応え。2列目で直線を迎えると、そこからじわじわ伸び続け、ゴール寸前で逃げ馬を捉えてハナ差で勝利した。
タフな馬場で行われた3歳1勝クラスでは、2番手から最後の直線で早め先頭に立って1馬身3/4差で勝利。同じくタフな馬場の皐月賞でも後方外から位置を押し上げて5着に善戦。このように、スタミナはあるが決め手不足なところがある。皐月賞以降は超高速馬場のワンペースで位置が悪くなって崩れているが、道悪の少頭数で先行できるここは、展開に恵まれる可能性が高い。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ボッケリーニの前走指数「-21」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.1秒速い
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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