【朝日杯FS】今年は平均ペースの想定 本命は一戦一勝馬タガノエルピーダ、穴はミルテンべルク

山崎エリカ

2023年朝日杯フューチュリティステークスのPP指数,ⒸSPAIA

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今年はペースが上がらない可能性が高い

近4年の朝日杯FSはハイペースの傾向。特に2019、20、22年が前半4F45秒台前半の極端なハイペースとなっている。このレースが行われる阪神芝1600mは最初のコーナーまでの距離も最後の直線も長く、コーナーも大回り。癖のないコースだけに展開の振れ幅が広い。

ただし、今年は例年よりも中距離路線馬が多く、逃げがベストなのはセットアップとエコロヴァルツの2頭。しかし、この2頭は芝1800mでもそこまでテンが速くないので、内枠でも逃げられない可能性が高い。また、テンがそれなりに速い内枠のジャンタルマンタルは前に壁を作りたいタイプなので2列目の内を狙ってくるだろう。そうなるとオーサムストローク辺りが逃げる可能性が高まるが、いずれにせよ、前半4F46秒台半ばの平均ペースの範囲内で収まりそうなメンバー構成だ。

土曜の阪神芝は稍重の馬場状態。2勝クラスの甲東特別では平均ペースで流れて1分33秒7と時計が掛かっていたが、日曜は回復してくるはず。こうなると脚質による大きな有利不利なく、速い流れを経験していないキャリアの浅い馬や短距離路線馬にもチャンスが出てくるだろう。この想定で予想を組み立てたい。


能力値1~5位の紹介

2023年朝日杯FSのPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 セットアップ】
洋芝の札幌芝1800mの未勝利戦と札幌2歳Sを連勝した馬。前走の札幌2歳Sは4番枠から好スタートを決めて、楽々とハナを主張。ハナを取り切ると2角でペースを落とし、2馬身半差のリードで3角へ。3~4角で積極的に仕掛けて後続との差を4馬身半差まで広げ、直線でもしぶとく踏ん張る。ラスト1Fで2番手のパワーホールにやや差を詰められたが、4馬身差で完勝した。

超スローペースで逃げた函館芝1800mの新馬戦ではレガレイラの決め手に屈したが、ほとんどペースを落とさずに逃げた札幌2歳Sでは大幅に指数を上昇させた。後続を追走で消耗させて末脚を削ぐ勝ち方は、昨年、札幌開催最終日の芝2000mの未勝利戦を逃げて2着馬に4馬身、3着以下に9馬身以上の差をつけて圧勝したトップナイフとよく似ている。

そのトップナイフは次走の野路菊Sでは勝ち馬から1.5秒差をつけられ大敗。ハナを切りながら逃げなかったのも敗因のひとつだが、疲れが出ていたから逃げる選択肢を捨てて脚をタメる選択をした面がある。今年の札幌2歳Sの2着馬パワーホール、3着馬ギャンブルルームともに京都2歳Sで2桁着順に大敗していることからも、本馬もダメージが出る可能性がある。

距離も芝1600mのここよりも、芝2000mのホープフルS向き。なぜ、ここを使って来るのかはわからないが、札幌2歳S史上でも屈指の指数を記録し、ここでは実力最上位となるだけに、底力で通用してしまう可能性はある。過大評価は禁物だが、軽視もできない。

【能力値2位 シュトラウス】
東京スポーツ杯2歳Sで重賞を初制覇した馬。同レースでは7番枠からまずまずのスタートを切って、3番手を追走した。テリオスルルが単騎で逃げる中、やや離れた2番手のシュバルツクーゲルをマークして、3~4角でも同馬の後ろで我慢。4角出口で外に出ると、直線序盤でシュバルツクーゲルに並びかけ、残り300m付近で先頭に立った。ラスト1Fで同馬がしぶとく食らいついて差を詰めにきたが、振り切って1馬身半差で完勝した。

この日はやや時計が掛かる馬場でペースも平均まで上がり、東京芝としては瞬発力が求められなかった面もあるが、一戦ごとに上昇し確かな強さを見せた。前々走のサウジアラビアRCでは3着。このレースは秋の東京開幕日のコンクリート馬場で行われ、速い末脚が求められた中で、キレ負けしてしまった。出遅れてポジションが悪くなったこと(4角で外の2頭が逸走したので、最後の直線で楽に2列目に上がれたのは不幸中の幸い)で、惜敗に終わった。

不良馬場で行われた6月東京の芝1600mの新馬戦を2番手から道中で先頭に立って9馬身差で圧勝しているように、長くいい脚を使えることが強みの馬。新馬戦やサウジアラビアRCでも折り合いがついていなかったので、そういう意味では距離が短くなる点はいい。しかし、本質的にはもっと長い距離のほうがいいだろう。また、東スポ杯2歳Sで消耗度の高いレースをしているので、今回は上昇が望みにくい。

【能力値3位 エコロヴァルツ】
芝1800mの新馬戦、コスモス賞を連勝した。前走のコスモス賞は1番枠からトップスタートを決めたが、前走の函館未勝利戦を逃げて勝利した外のゴードンテソーロが持ち味を生かそうとハナを主張したので、同馬の外2番手を追走。ゴードンテソーロに競り掛けていく形だったが、2角過ぎで折り合いに苦労して、向正面で早々と先頭に立ってしまう。

3~4角でコスモディナーが外から一気に上がって並んできた時にはコスモディナーが優勢かのように思われた。しかし、エコロヴァルツは4角で仕掛けられるとすっとリードを奪って1馬身半差で直線へ。序盤でしっかり抜け出し、ラスト1Fでさらに差を広げて6馬身差で圧勝した。コスモディナーは次走でクローバー賞を勝利しているように、けっして弱い馬ではない。

それらを相手に無茶な競馬で逃げて圧勝した辺りにスタミナの豊富さを感じさせるが、折り合い面での課題が露呈したためホープフルSではなく、ここに出走してくるのだろう。芝2000mで折り合いが付いた場合にはもっと上にいけそうだが、現状はレースが流れてコントロールしやすいこの距離がベストかもしれない。

ただ前走時、1番枠でテンが速い馬が不在だったために枠なりで前に行っているが、ここで楽にハナを切れるほどテンが速くない。外のセットアップに被されて3~4角の内で包まれる恐れもある。しかし、外回りコースなので内回りとの合流地点の手前で内の進路が開くことも多々。レースが流れて進路ができたならば突き抜ける可能性もある。吉凶含みの枠で単穴的な存在だ。

【能力値4位 ジャンタルマンタル】
新馬戦、デイリー杯2歳Sを連勝。前走のデイリー杯2歳Sは2番枠からまずまずのスタートを切ってコントロールし、2列目の最内を追走した。道中も逃げ馬の直後の内ラチ沿いを通り、3~4角では包まれて直線序盤は進路がなかったが、内回りとの合流地点で内に進路を取ると、すっと伸びて先頭。ラスト1Fで抜け出したところを外の差し馬に詰められたが、2馬身差で完勝した。

前走は外差し馬場。馬場の悪化した最内を通して優勝したことは、褒められる。新馬戦でも3番枠から好位の内ラチ沿いを追走し、早めに抜け出して完勝とデイリー杯2歳S時と似たような優等生の競馬だった。レース内容に特筆すべき点がないが、総合力が高く、弱点も見つからない。

強いて挙げるなら行きたがる気性の持ち主で、新馬戦、デイリー杯2歳Sともに逃げ馬を壁にして折り合いをつけていたこと。外枠を引いて前に壁が作れずに行き切る形になると厳しかったかもしれないが、今回もまた3番枠と内枠を引いたのでその心配はなさそうだ。極端に速い流れを先行、極端に遅い流れを差すなどの場合は、スタミナや決め手に特化したタイプに敗れる可能性はあるが、幅広いレースに対応できるので大崩れしにくいタイプだ。

【能力値4位 ダノンマッキンリー】
芝1400mの新馬戦と秋明菊賞を連勝した。新馬戦は6番枠からまずまずのスタートを切って2番手の外を追走。ペースが落ちた3~4角で逃げ馬に並びかけ4角出口で先頭。そこから押し切って1馬身1/4差で勝利した。新馬戦は3~4角で意図的に逃げ馬に並びかけたというよりも、コントロールしきれずにそうなってしまったようなレースぶりだった。それでも新馬戦としてはやや速い流れを早め先頭に立ったことで走破タイムが速く、好指数決着となった。

新馬戦のラスト3Fは11秒4-11秒6-12秒1。ラスト1Fで明確に減速しているように消耗度の高いレース。同新馬戦の2着馬ポエットリーは次走の新潟未勝利戦で勝利しているが、指数をダウンさせての辛勝だったことから、本馬も秋明菊賞で反動が出る可能性があった。

秋明菊賞では3番枠から出遅れ。鞍上は最初からそれが分かっていたかのように行く気もなく、道中は馬が行きたがるのを宥めながら中団の外を追走。3~4角でもペースが落ちず、外目を追走する形になったが、直線でさらに馬場の良い外に出されると、豪快に伸びて先頭列に並びかけ、ラスト1Fで突き抜けて2馬身半差で完勝した。

秋明菊賞は3角でフェンダーが引っ掛かって4角先頭と早仕掛けしたことで緩みなく流れており、本馬は展開に恵まれた面がある。それでも新馬戦の反動が懸念された2戦目をあっさりクリアできたことは大きい。つまり、新馬戦が能力を出し切ったものではなく、意外と能力の天井が高かったということになる。

阪神JFの3着馬コラソンビートの京王杯2歳Sのようなレースぶりで、距離が延びていいタイプではない。しかし、ゲートの甘さを挽回して自在性が生かせるという意味ではマイルの方がいいだろう。コラソンビートはレースぶりにメリハリがあり完成度が高い点から、本番での上昇度に疑問があったが、本馬はまだキャリア2戦で、粗削りな面がある。今回でさらなる前進を見せる可能性がある。


本命候補はタガノエルピーダ、大穴候補はミルテンべルク

【タガノエルピーダ】
メンバー唯一の1戦1勝馬。前走の京都芝1600mの新馬戦では、2番枠からトップスタートを決めた後に外にヨレたが、すぐに立て直して2列目の最内を確保。このレースは同日同距離の2歳未勝利戦と比べてもかなりペースが遅く、3~4角でも上がらなかったが、逃げるクランフォードの直後で我慢して、手応え十分に直線へ向いた。

直線序盤でクランフォードが一気に加速して後続を引き離しにかかったが、これに食らいついていく。後続をどんどん引き離しての2頭の追い比べ。やはり追う側が有利で、最後は3/4差で差し切った。

ラスト2Fは11秒0-11秒0と驚きの数字。『2歳馬ジャッジ』にも記載しているように、今秋以降のレースのラスト1Fの数字は鵜呑みにはできないが、京都芝は東京芝よりも時計が掛かっており、価値は高い。先述の通り道中のペースがかなり遅かったが、走破タイムは1分34秒3で、同日同距離の2歳未勝利戦と比べて0秒2速かった。

これも高く評価できるポイントだ。同レースは消耗度が少なく、高い素質を示すレース内容だったことから、クランフォードは次走で勝ち上がると見ていたところ、2着に1馬身3/4差、3着以下に5馬身3/4差以上の大きな差をつけて、1クラス上でも通用する指数で勝利と、想定以上の強さを見せつけた。今回はいきなり強敵が相手となるが、今回における伸びしろはメンバー中で一番だと見ている。思ったよりも人気になってしまったが、本命候補としたい。

【ミルテンべルク】
阪神芝1200mの新馬戦では、2番枠から好スタートを決めて、逃げ馬の外2番手から直線序盤で先頭に立ち、2着に3馬身、3着に10馬身差で好指数勝ちした。続く小倉2歳Sでは9番枠から五分のスタートを切って中団の外を追走。レースが激流になったが、内には入れられず、3、4角でかなり外から位置を押し上げて行く形になった。

3~4角で5頭分ほど外を回るロスが生じたため、直線序盤でも中団の外だったが、ジリジリ伸びて2列目まで上がる。そこを外からアスクワンタイムに捉えられたが、ラスト1Fでこれにしぶとく食らいついてアタマ差の2着となった。小倉2歳S当日は外差し有利の馬場ではあったが、3、4角のロスはさすがに大きく、負けて強しだった。

前走の京王杯2歳Sは距離延長を意識し、中団の外で脚をタメる競馬を選択。控えたことで道中では折り合いを欠いて首を上げる場面もあり、明確にコントロールに苦労していた。また持久力を生かしてこその本馬の適性を考えると、位置取りが後ろ過ぎた。今回はさらに距離が長くなる点は不安だが、2番枠と内枠を引いた。ある程度レースが流れた上で、ロスのない立ち回りなら一発ある。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)セットアップの前走指数「-19」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも1.9秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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