【毎日王冠回顧】エルトンバローズが挑戦者の競馬で古馬を撃破 2、3着馬も本番へ向け力を見せた

勝木淳

2023年毎日王冠、レース結果,ⒸSPAIA

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電光石火のGⅡ制覇

米国遠征を予定するソングライン、NHKマイルC以来のGⅠタイトル獲得を目指すシュネルマイスター、コース巧者ジャスティンカフェを相手に3歳エルトンバローズが殊勲の星をあげた。4月未勝利勝ちから4連勝、重賞連勝とあっという間にGⅠ馬を封じてみせた。電光石火とはまさにこのこと。そして3歳収得賞金ランキングトップ10の半ばあたりに食い込んできた。

錚々たるメンバー相手に中団インで流れに乗り、最内にこだわって進出。逃げたウインカーネリアンと2番手バビットの間で冷静に仕掛けの機をうかがい、一瞬のスキを逃さない西村淳也騎手の手綱さばきとそれに応えるエルトンバローズの絆は固い。挑戦者たるやどう上位を食うか。そんなテーマを見事に具現化させた内容は賞賛するしかない。

父を彷彿とさせる粘り強さ

エルトンバローズの父ディープブリランテは2012年日本ダービー馬だ。2歳秋から1、1、2、2、3、1着と崩れることなく、クラシックロードの頂点へ真っ直ぐ駆けていった。一方、その過程では鞍上とのリズムがとりにくく、折り合い、前進気勢のコントロールが課題でもあった。これを短期間で解決へと導き、日本ダービーへたどり着いた。決して天才型ではなく、ディープインパクト産駒のなかでも競馬スタイルなど泥臭さすら感じた馬だった。日本ダービーは前半1000m通過59.1と2000m戦なみのスピード勝負になり、最後は正真正銘のサバイバル戦だった。フェノーメノの追撃をハナ差しのいだその走りはまさにド根性ファイターのようでもあった。

後ろから速い脚を使うのではなく、前で踏ん張るスタイルは産駒に伝わり、ディープインパクト産駒のなかでもダートを得意とする馬も多い。切れ味で劣ってしまうため、東京の勝率は低く、福島や中京、小倉に良績がある。東京芝の重賞ウイナーもエルトンバローズしかいないだけに、毎日王冠で父譲りの瞬発力に勝る持続力と根性を発揮したことは、今後、ディープブリランテ産駒の目指す道を示したといえる。産駒の成績は父と同じく2200m、2400mといった中距離以上で上昇するので、エルトンバローズも距離を延ばしても面白い。2200mは未勝利戦で完敗だったが、急成長した今ならまた違う結果を出せるだろう。

ディープブリランテ×母父ブライアンズタイムは重賞2勝セダブリランテスと同じで、父との相性はいい。同馬は3歳でラジオNIKKEI賞を勝ち、4歳で中山金杯、5歳暮れにリステッドのディセンバーSと年を重ねながら勝ち星をあげた。エルトンバローズも3歳の急成長だけではとどまらない。まだまだ上を目指せる馬だ。

残り100mの迫力

2着は1番人気ソングラインだった。休み明け、斤量57キロ、キャリア初の1800m戦など難しい条件だったが、最後はエルトンバローズにハナ差まで迫った。最後の直線ではスペースがなく、これまで通り末脚全開とはいかなかった。それでも残り200m、いや100mを切ったあたりから勝ち馬をとらえにいき、シュネルマイスターの追撃を振り切りにかかる瞬発力はさすがで、その迫力にGⅠ馬のプライドを感じた。あの姿を見る限り、米国遠征に向けて不安はなさそうだ。

3着シュネルマイスターはこれで毎日王冠は1、3着。3歳時と比べると、若干迫力という意味ではパフォーマンスを少し落としてきた気もする。それでも上がり3F33.3を記録しており、ソングラインとはハナ差。休み明けを使って上昇する可能性はある。ただ、速い脚を使える距離は短くなっているとも感じる。下り坂を利用できる京都外回りはシュネルマイスターの現状にはむしろ合うのではないか。

4着は伏兵7番人気のアドマイヤハダル。直線半ばの勢いはエルトンバローズまで飲み込むのではないかと思わせた。最後600mは11.4-11.3-11.4。ここまでハイレベルな末脚比べでは、最後の11.4で苦しくなった。1800、2000mでは重賞でも崩れない堅実派で、勝ち味に遅いところもあるが、今回の4着で次は相手次第でチャンスが回ってきそうだ。

2023年毎日王冠、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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