【サウジアラビアRC回顧】ゴンバデカーブースの未来と秘める力 新種牡馬ブリックスアンドモルタルの可能性

勝木淳

2023年サウジアラビアロイヤルカップ、レース結果,ⒸSPAIA

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1分33秒台が意味するもの

単勝オッズひと桁台は上位3頭、4番人気が36.0倍と極端な図式になった。上位3頭はいずれも6月東京芝1600mの新馬戦勝ち馬。ここで賞金を積み、2歳GⅠ、さらにクラシックの出走圏内に入り、逆算できる権利をつかみにきた。いわゆる王道路線に乗るのはどの馬か。戦前から焦点は3頭に絞られていた。結果は3番人気ゴンバデカーブースが最後方から直線一気を決め、ボンドガール、シュトラウスを封じ、王道路線を勝ちとった。勝ち時計1:33.4は開催初日、絶好の馬場だったことを考えれば驚くものではないが、このレースが重賞格上げ後の2014年から33秒台を記録した馬たちを並べると、可能性を感じざるを得ない。

14年クラリティスカイ 1:33.5 NHKマイルC制覇
17年ダノンプレミアム 1:33.0 朝日杯FS制覇
19年サリオス      1:32.7 朝日杯FS制覇
22年ドルチェモア    1:33.4 朝日杯FS制覇

4頭すべて2、3歳限定のマイルGⅠを制しており、ゴンバデカーブースは王道路線に乗っただけではなく、GⅠ馬になれる権利まで手にしたようなものだ。上記4頭のうち、前後半800mを比較して、後半の方が速かった、いわゆるスローだったのはサリオスのみ。残り3例は前半が速く、ハイペース判定まではいかなくても、マイラーの素養が問われる平均ペースだった。サリオスは日本ダービー2着など中距離も守備範囲で、スローで速い時計を記録したのは納得できる。今年の前後半800mは46.9-46.5とわずかに後半が速かったが、感覚としては平均ペースであり、サリオス以外の3例と近い。ゴンバデカーブースは朝日杯FSからマイル路線というイメージになる。


ブリックスアンドモルタルの可能性

一方で、父ブリックスアンドモルタル、母アッフィラートとなると、中距離まで守備範囲を広げてもおかしくない。父は現役時代、デビューから連勝し、長い休みを経て、5歳で素質を開花させ、北米芝GⅠ・5勝を挙げた。10ハロンのアーリントンミリオン、12ハロンのブリーダーズCターフなど芝中距離では北米最強だった。引退レースのブリーダーズCターフは今年と同じサンタアニタパークで行われ、ブリックスアンドモルタルの仔が東京マイルで重賞を勝ったのは、なんとなく今年のブリーダーズCに出走する日本馬に追い風を感じる。

母アッフィラートは6歳まで現役を続け、ラストランの中山牝馬Sで3着に入った。3歳春のデビューから19戦して【4-2-7-6】と息長く走ったタフな牝馬だ。父も母も中距離で活躍し、かつ古馬になって強くなる成長力がある。ゴンバデカーブースもまだまだ秘める力をもっていて不思議はない。

この勝利でブリックスアンドモルタルは初年度から重賞ウイナーを送った。社台SSではサンデーサイレンスの再来とも言われているが、10/1まで芝5勝、ダート1勝。上がり最速を記録した場合は【4-0-1-1】とゴンバデカーブースのように決め脚を繰り出して勝ち切れる産駒が多い。まだサンプル数は少ないが、決め脚を武器にできるのは、たしかにサンデーサイレンスに通ずるものがある。

サンデーとディープインパクトの時代が続く日本の競馬界はその血を継ぐ繁殖牝馬にあふれている。キングカメハメハとドゥラメンテがいない種牡馬ラインアップにおいて、決め脚を武器にでき、サンデーサイレンスの血がないブリックスアンドモルタルは救世主になるのではないか。母父ディープインパクトのゴンバデカーブースが記録した上がり最速33.5は日本競馬の未来を暗示しているのではないか。

2、3着ボンドガールとシュトラウスはキャリア2戦目らしく、前半から中盤にかけて行きたがってしまい、リズムを乱した分、最後は決め手を欠いた。本来の力を出せなかったとみるべきだろう。ただ、ここから先は軌道修正せざるを得ないので、そのリカバーをどうするのか、注目したい。


2023年サウジアラビアRC、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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