【マーメイドS】レース展開を最大限に生かしたビッグリボン ハイペースで覚醒した底力の血
勝木淳
ⒸSPAIA
展開を生かしたビッグリボン
10番人気が連勝中。前走3勝クラス敗退馬でも通用する。格を度外視してもいい重賞として腕を撫す穴党が躍起になるレース。そうやって煽ったときほど、堅く収まる。競馬は決して意のままにならない。また来年、出直そう。
今年は1番人気で前走福島牝馬S2着ビッグリボンが勝ち、2着は前年覇者ウインマイティーで馬連は10倍(2番人気)だった。前走重賞2着馬のマーメイドS優勝は2002年ヤマカツスズラン以来21年ぶり。同馬はダートのプロキオンS2着からの転戦で、前走芝の重賞2着から勝利したのははじめてになる。これまでの最高は04年金鯱賞5着だったアドマイヤグルーヴ。どちらもGⅠ馬だ。
ビッグリボンの勝因はいくつかあるだろうが、馬場と流れはその一つだろう。先手をとると目されたヒヅルジョウに内からシャーレイポピーが抵抗し、短距離で2勝クラスを突破したハギノメーテルが外からプレッシャーをかけたことで、お互いに引けない形になった。各馬チャンスがあるという一戦だけに前に行けば何かを起こせる。そう考えた陣営が複数いると、思わぬハイペースをつくる。
序盤600m33.8はスタートしてすぐ1コーナーを迎える芝2000m戦としては相当速い。JRAのトラッキングシステムは向正面に出るまでずっと時速65キロ以上を表示しており、ハイレベルなマイル戦に近い数字のまま最初の1、2コーナーで一切息が入らなかった。序盤200m通過後から1000m標識まで10~11秒台をキープし、前半1000m通過は57.3。中盤からは先行集団の3頭は先頭をキープするのが精いっぱい。3コーナーからバテ比べの様相を呈した。ここまで激しい競馬になると、過去のマーメイドSで好走したような条件戦で負けていた馬では太刀打ちできない。重賞で揉まれた経験がないと、我慢比べには勝てない。重賞やオープンの実績がある馬が上位を独占した背景にハイペースがあった。
さらにこの日も良馬場だったように、今年の阪神は芝の状態が保たれおり、まだ時計が出るコンディション。ハイペースの持久力戦でも1:58.5を記録しては、乗り切れる馬は限られてくる。ビッグリボンにとって、紛れのない堂々たる力勝負になったことは幸いだった。全兄キセキは自ら強烈な流れを演出し、サバイバル戦に持ち込む戦い方が得意で、ビッグリボンも戦歴的に似たところがある。今回はとるべきレースを勝った印象。それは簡単なようで、色々上手くいかないとできないもの。中内田厩舎の厩舎力と西村淳也騎手の流れを味方につける戦い方は今後も目を離せない。
惜しかったゴールドエクリプスと西塚騎手
2着ウインマイティーは惜しくも連覇を逃した。しかし、昨年はスローに近い流れを好位から抜け出したが、今年は持久力戦を中団後ろから進め、長くいい脚を使って最後までしっかり走り切った。父ゴールドシップは宝塚記念2勝。直線の長いコースも走るが、阪神内回りの持久力勝負は本当に合う。でないと、異なる流れで2年連続好走はできない。
3着ホウオウエミーズは10番人気で波乱といえば波乱。しかし、同馬はオープンの新潟牝馬S勝ちがあり、今年重賞2戦はともに0.6差でここでは実績上位に入る。新潟牝馬Sは稍重、7着だったエリザベス女王杯は重と道悪巧者のイメージが強く、良馬場の今回はみんなが条件馬に注目したことも手伝い、10番人気と盲点だった。ハイペースの1:58.5で3着まで差してきたのは新味をみせたともとれるが、ハイペースで相手が走らなかった可能性も頭の隅に入れておきたい。条件馬が半数以上を占めたレースでの重賞実績は今後、取り扱いが難しい。
惜しかったのは西塚洸二騎手が乗った4着ゴールドエクリプスだ。後方から外を回って先行集団に取りつく脚には勢いがあった。それだけに行くしかないと積極的に動いた分、最後に止まってしまった。展開的にはもう少し待ちたい競馬だったかもしれないが、攻める姿勢は十分感じた。この度胸と経験を今後に活かしてほしい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(星海社新書)に寄稿。
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