【安田記念】人気薄も昨年1番人気の確かな末脚 イルーシヴパンサーの好走に期待
山崎エリカ
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内を開けて走ることから馬場の中~外が有利
過去2年の春の東京開催は雨が多く、安田記念は最後の直線で各馬が内を開けて走り、中~外が有利の馬場状態だった。今年は芝と路盤のコンディションが良く、ダービーのあった先週は内からでも粘れていた。しかし、本日土曜は週中の雨の影響を受けて、内を開けて走る傾向だった。このことから過去2年同様、馬場の中~外が有利になると見て予想を組み立てたい。
能力値1~5位の紹介
【能力値1位 ジャックドール】
今年の大阪杯勝ち馬。前走は9番枠からまずまずのスタートを切り、二の脚で内のノースブリッジやマテンロウレオを制してハナを主張。前半はそこまで速くなかったが、向正面でペースを引き上げ5F通過58秒9の淡々とした流れに持ち込み、最後の直線での粘り込みを図った。ラスト1Fで外からスターズオンアースに強襲されたが、何とかハナ差粘り切った。
前走は本馬にとって初GⅠ制覇となったが、指数上は昨年の金鯱賞や札幌記念を下回るもの。よって、能力を出し切ったとは言えない。本馬が自己最高指数を記録したのは昨年の金鯱賞で、当時はそこまで高速馬場ではなかったが、緩みないペースで逃げ、レコードタイムで押し切った。
次点で指数が高かったのは時計の掛かる馬場で行われた札幌記念。同レースは序盤ユニコーンライオンとパンサラッサが競り合い、前後半5F59秒5- 61秒7のかなりのハイペースとなったが、3列目の外から3~4角で2番手まで上がり、最後の直線ではパンサラッサとのマッチレースを制した。
本馬は芝2000mの逃げ馬だが、テンが速いと楽にハナに行けないレースぶりから、超高速馬場の芝1600mではスピード不足で忙しいとみていた。しかし、馬場が悪化すればマイル戦でも楽に前でレースの流れに乗れるとみて、一度は本命にすることも視野に入れた。しかし、馬場は悪化せず。超高速馬場でもやれないことはないが、決め手比べになるとキレ負けする可能性もあり、過信はできない。ただそれでも重い印を打ちたい馬である。
【能力値2位 セリフォス】
昨秋のマイルCS覇者。同レースは10番枠からやや出遅れたが、押して中団中目まで挽回し追走。道中はやや遅い流れで団子状態だったため、位置を下げて後方を追走していた。3~4角でも後方の外目で包まれ、4角出口で下げながら外に誘導。直線序盤の伸びは地味だったが、ラスト1Fで一気に前を捉えて1馬身1/4差で完勝した。
同レースはけっしてスムーズなレースではなかった。しかし、このレースは中団や後方から最後の直線で馬場の良い中目を狙った馬が3~4角で包まれ、能力を出し切れなかった馬が多かった。そういったことから外を選択した本馬は結果オーライだった。
前走のドバイターフは中団中目でやや折り合いに苦労していたにせよ、ラスト1Fで甘くなってダノンベルーガにも楽に差されて5着敗退。しかし、スタミナが不足する休養明けで初の芝1800mだったことを考えると、そこまで悪い内容ではなかった。
本馬は芝1600mがベストの馬。昨年の安田記念4着時のように、超絶高速&外差し馬場の外枠なら、成長を見せた今回で本命も視野に入れた。しかし、今回は4番枠。この枠から最後の直線で外に出そうとすると、かなり位置を下げなければならない。そうなると届かない可能性もある。おそらく中団の内目を立ち回って、最後の直線で馬群の中目を捌く展開になる可能性が高いが、そう上手く捌き切れるかどうか…。もちろん上手く捌ければ勝ち負けまであると見ている。
【能力値3位 ソダシ】
今年のヴィクトリアマイル2着馬。前走は大外16番枠からまずまずのスタートを切って、内の各馬の出方を窺いながらじわっと進出。内のロータスランドがハナを主張したので、それを行かせて2番手の外を追走。3~4角で同馬がペースを緩めたが、交わさずに我慢。直線序盤で追い出されるとジリジリ伸び、ラスト2Fで先頭に並びかけ、ラスト1Fで抜け出したところを内から伸びてきたソングラインに目標にされ、アタマ差で2着に惜敗した。
本馬はキレる脚がないので、二の脚の速さを生かして前に行き、持久力勝負に持ち込んでこその馬。3~4角でロータスランドが意識的にペースを落としたところで我慢させず、そのまま行かせていればソングラインの決め手に泣くこともなかったと見ている。しかし、悪くない騎乗だった。
本馬が自己最高指数を記録したのは、昨年のヴィクトリアマイル。同レースはレシステンシアとハナ争いを展開し、さらに外からハナを主張するローザノワールを行かせて好位の内目を立ち回ったもの。好位の内目を立ち回ったことで3~4角で包まれたが、それほど窮屈にならず抜け出してこられたことが好走要因だが、今年のヴィクトリアマイルもそれなりには走っている。本馬は前走が目標だっただけに、今回で大きな上昇は望みにくいが、芝1600mで4勝2着1回3着1回の実績を考えると、ここも大崩れするとは考えにくい。
【能力値4位 ソウルラッシュ】
一昨年の暮れにマイル路線に転向して、4連勝で昨年のマイラーズCを優勝した馬。同レースは13番枠から出遅れ、そこから促して流れに乗ろうとしたが、外から被されてやや窮屈になって位置が下がり、後方中目を追走。4角出口で外に誘導すると、直線序盤は内に刺さる場面がありながらも、立て直してさらに外に出すと一気に4番手まで上がり、そこからバテた馬を交わして優勝した。
昨年のマイラーズCは時計の掛かる馬場をベステンダンクが後続を離して逃げたことで、緩みない流れ。本馬はラスト1Fで前が大きくバテたのを差す、展開に恵まれての優勝だった。前走となる今年のマイラーズCは超絶高速馬場の大外15番枠。好スタートを切って好位の外目を追走していたが内には切り込めず、3~4角でも内から3頭分外と終始外々を回る競馬でクビ+クビ差の3着。レース内容を考えると悪い内容ではなかった。
本馬は昨年の安田記念こそ最後の直線で詰まり、位置が下がる不利があって13着に大敗した。しかし、芝1600mではタフな馬場だった昨年の春興S、超絶高速馬場の前走もこなし、安定した成績を収めている。近走は高速馬場で結果を出している点は評価できるが、今回は休養明けで前走を目標にした後の一戦。上昇し切れない可能性が高く、ここは評価を下げたい。
【能力値5位 シュネルマイスター】
海外遠征が苦手でドバイや香港のレースでは崩れているが、国内の芝1500m以上のレースでは掲示板を外したことがない馬。また前述の条件で4着以下だったのは、昨秋のマイルCS5着と、前々走の中山記念4着だけ。マイルCSは3~4角の中団で包まれて直線序盤で進路が作れず、仕掛けが遅れたもの。前々走の中山記念も中団内目から最後の直線で最内に突っ込み、イルーシヴパンサーと進路を取り合ってラチに接触する不利があった。
超絶高速馬場の前走マイラーズCは、近走の鬱憤を晴らす完勝。同レースは10番枠から五分のスタートを切ったが、そこから押されても進みが悪く、後方2列目の外を追走。道中も淡々と前が飛ばしたが、中団の外目で我慢。3~4角も後方の外目で我慢し、4角出口で外に誘導。直線序盤で追い出されるとすっと伸び、ラスト1Fでは4列目。やや厳しいと思われた位置からグンと伸び、一気に前を捉えてクビ差で勝利した。
本馬は超絶高速馬場で行われた2021毎日王冠でも、前半で脚をタメて最後の直線で外に出されるとすっと伸び、ラスト1Fで3馬身はあったダノンキングリーとの差を一気に詰め、アタマ差で優勝した。当時や前走のように本馬はエンジンが掛かってからが強いタイプ。超絶高速馬場からタフな馬場という条件替わりなら評価を下げるつもりだったが、今回も前走のような競馬ができれば崩れず走ってくるだろう。ここも侮れない。
穴馬はイルーシヴパンサーとメイケイエール
【イルーシヴパンサー】
4連勝で昨年の東京新聞杯を優勝した馬。同レースは11番枠から出遅れて後方2番手を追走。3~4角でも前がペースを緩めない中で後方の内目を通り、4角で外目に誘導され、出口で外に出された。直線序盤でジリジリと伸び、ラスト2Fで一気に先頭に立つと、ラスト1Fで後続を1馬身3/4突き放し完勝した。
同レースは最後の直線で外を通った差し、追込馬が上位を独占したように、緩みないペースで流れて、先行馬が総壊滅の流れ。後方から3~4角でロスなく立ち回って上手く脚を温存した本馬は展開に恵まれた。昨年の安田記念はその走りと、それまでの勢いで1番人気に支持されたが、その人気に応えられず8着に敗れている。しかし、その内容は出遅れ後方から3角まで包まれ、4角では最後方に後退。最後の直線では馬群を捌きながら着順を上げたものだった。
本馬は昨年の安田記念後は不振に陥ったが、今年初戦の京都金杯では中団馬群の中目と、いつもより前の位置でレースを進めて優勝。復調をアピールした。前走の中山記念でもまずまずのスタートを切って好位の中目でレースを進めたが、最後の直線でシュネルマイスターと最内を争い、激しい接触があって8着に敗れた。
しかし、近走は出遅れ癖が解消され、昨年の安田記念のように展開待ちのレースをしなくても良くなったのは大きな収穫だ。マイル戦だと中団くらいからのレースになるが、11番枠なら最後の直線で上手く外に出すこともできるだろう。昨年の東京新聞杯や安田記念で最速の上がり3Fタイムを記録しているように、末脚は確かな馬。昨年から一気に人気が落ちた今回は本命視したい。
【メイケイエール】
気性難と戦いながらも、重賞を6勝している馬。特にコンクリート馬場でレコード決着となった昨秋のセントウルSは、2着ファストフォース(後の高松宮記念勝ち馬)に2馬身半差をつけて圧勝と強い内容だった。同レースは5番枠からやや出遅れたが、そこから促されると速い二の脚で好位の中目で流れに乗り、折り合いもついていた。ペースが速かったことで折り合いがついた面もあるが、そのおかげで消耗度が少なく、3~4角の外から最後の直線で早めに抜け出し、そこから突き抜けての圧勝だった。
本馬は気性的な問題があってスプリント路線を使われているが、適性面からは距離が1600mくらいあってもいいはず。3年前の阪神JFでは大外18番枠から出遅れて最後方付近からの競馬となったが、そこから徐々に位置を押し上げる形。3~4角のペースが緩んだところでも、激しい気性を何とかコントロールして位置をキープして4角では中団。直線序盤で4列目付近からするする伸び、一気に突き抜けるかという手応えで2列目まで上がったが、そこから甘くなって4着に敗れた。
しかし、阪神JFは大外からロスを作りながらの競馬になったことと、3~4角で我慢しきれずに首を上げ、しっかり折り合えなかったことが敗因のひとつ。今回は2番枠と短距離戦を使われていた強みで楽にハナに行ける可能性もある。ハナに行って折り合いの付くペースで逃げられれば、一発あっても不思議ない。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ジャックドールの前走指数「-24」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.4秒速い
●指数欄の下線の茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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