【オークス】リバティアイランドが次元の違う走りで牝馬二冠達成! いざ名牝への道

勝木淳

2023年オークス、レース結果,ⒸSPAIA

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厳しい流れも最後に加速ラップを刻む

桜花賞から800mも距離が延びるオークスは未知なる距離、それも東京芝2400mのチャンピオンコースとあって、ゆったりした流れが定番だった。牝馬の強みである瞬発力を競う競馬は近年、馬場の整備技術の進歩と血統勢力図の変化など様々な要素も加わり、変わりつつある。今年のオークスは逃げると目されたゴールデンハインドが控える形になり、ペースを握ったのは内枠に入ったライトクオンタム。無茶な逃げは打たない田辺裕信騎手は後ろにいるリバティアイランドへの意識とデビュー戦以来、久々に逃げたライトクオンタムの制御を同時に行い、1000m通過は1:00.0。決してスローペースではない。20年1000m通過59.8(勝ち馬デアリングタクト)、21年1000m通過59.9(ユーバーレーベン)と同じような流れになり、後半は底力を問う形に進んでいった。

注目すべきは1000m通過後のラップ。向正面半ばから12.0-12.0-12.0-12.0-12.0と残り400m標識まですべて12秒ジャスト。田辺騎手とライトクオンタムは非常に精緻なリズムを刻み、それは同時に極端に息を入れる場面がなかったことを意味する。淡々かつ、スタミナを削りとるような展開はかつてのオークスとは違う。これもリバティアイランドという抜けた馬の存在がいたからこそ。桜花賞とは一転し、中団のインにいたリバティアイランドが放つ緊張感がレースを支配していた。

そのリバティアイランドが勝負に出ると、背後でマークしていたハーパーとの手応えの差は歴然。とにかくついて行くのに精いっぱいのようにみえた。内から抜けたラヴェルを捕まえ、最後400mは11.6-11.5。5ハロン連続12.0を刻む流れを抜け出し、先頭に立った最後200mで加速ラップを刻む。明らかに積んでいるエンジンが違った。

オークス6馬身差は12年ジェンティルドンナの5馬身を上回り、1975年テスコガビー8馬身差に迫る大きな差。早くも歴史を刻んだリバティアイランドは今後、どんな走りを見せ、どんな歴史を刻んでいくのか、楽しみしかない。前半1000m通過1:00.0以下、レース上がり35.1以下というオークスは過去、16年シンハライト、18年アーモンドアイ、20年デアリングタクト、21年ユーバーレーベンと4回あるが、中盤で12.5以上がなかったのは18年の1回。海外含むGⅠ・9勝の名牝アーモンドアイにどこまで迫れるだろうか。

4着ラヴェルの価値

底力が試される厳しい競馬のなか、2着ハーパーはリバティアイランドをマークし、残り400mで置かれた時点で厳しいと思われた。しかし、そこからしぶとく伸びて、リバティアイランド以外は捉えた。こちらも戦前の評価通り、瞬間的な反応では劣るがスタミナなら負けない。中距離戦線で楽しめる。

3着ドゥーラは腹をくくった待機策が吉と出た。この2戦は大敗が続いたが札幌2歳Sのように我慢比べの競馬は合う。なお、上記4年のうち、16年はフローラS組2、3着、20年の2、3着はフローラS、忘れな草賞、21年は勝ち馬が前走フローラSで、3着は芝2200m矢車賞の勝ち馬と近年のトレンドらしく別路線組、とりわけ中距離の経験を積んだ馬が桜花賞組と肩を並べる。だが道中、緩みがなかった18年は打って変わって桜花賞組が上位を独占した。今年も1~3着は桜花賞組で、緩急がないスピード持続力勝負では桜花賞組が強い。

かなり先になってしまうが、今年の結果からやっぱり桜花賞組断然と傾くのは早い。他の3年のようにある程度流れる最近のオークスでは中距離での押し引きは欠かせない要素で、そこは頭に入れておこう。というのも18年桜花賞組独占の翌年は1、2着ラヴズオンリーユー、カレンブーケドールの別路線組。どちらも前走1着ながら1、12番人気。20年2、3着ウインマリリン、ウインマイティーも別路線1着で7、13番人気と人気の死角になる傾向がある。気が早いといえばそれまでだが、終わったばかりのGⅠの教訓が1年後に役立つことはよくある。

4着ラヴェルは流れを考えれば大健闘。インから先に抜け出し、リバティアイランドと並び見せ場たっぷり。昨秋は同馬に先着し、世代の先頭集団にいた実績馬が意地を見せた。GⅠで2戦連続11着という結果を分析し、馬具を工夫するなど陣営の創意工夫が再び活力を与えた。これぞ、矢作芳人厩舎の厩舎力。復活の兆しを示し、希望の光を見た。


2023年オークス、レース回顧,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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