【シルクロードS】いよいよ機は熟した! 完璧な予行演習だったナムラクレア

勝木淳

2023年シルクロードSのレース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

スプリンターズS5着で浮上した課題を克服

GⅠと同じ条件の前哨戦というのは多くない。チューリップ賞、弥生賞ディープインパクト記念、青葉賞などクラシックトライアルが中心で、古馬の前哨戦は競馬場か距離が異なるよう設定されているので、変則日程によって誕生した中京のシルクロードSは貴重な存在といえる。昨年高松宮記念を勝ったナランフレグは2走前がシルクロードS3着だった。

本番と同じ舞台を経験するという意味で、右回り中心だったナムラクレアにとってこの勝利は大きな意義があった。昨年、クラシックを戦う段階から調教師はいずれスプリント路線へという画を描いていた。桜花賞3着後にそれを実行に移し、昨夏函館SSでは余裕の追走から1.07.2を叩き出し、スプリント能力を爆発させた。サマースプリントチャンピオンとして挑んだスプリンターズSは内が絶対優位な馬場状態で5枠から好位へとりつくも、内に速い馬がいて、外を回らされる形で5着に敗れた。おそらく考えられる最悪の形だったにちがいない。

昨年後半はレースを使わず休養にあて、シルクロードSから高松宮記念へとあくまでスプリントチャンピオンにこだわり、かつナムラクレアがもっとも力を出せる状態でGⅠを迎えられるよう考えられたローテは、今回の勝利で思惑通りとなった。馬場が荒れた中京でマッドクールが前2戦と同じようなラップ、前半600m33.8を刻むなか、ナムラクレアは好位の後ろ、中団前のインを進み、馬群に入る競馬を展開し、器用に進路を作って抜け出してきた。坂を上がってからひと伸びできたのは成長の証だろう。

左回り、荒れた馬場、そして馬群で我慢する競馬と、試したいことを実行した上での勝利は本番に向けて大きかった。古馬になり、馬場や流れなど条件を問わず力を出せる強さが加わり、機は熟した。

叩いて変わるウインマーベル

2着10番人気ファストフォースのスピードは、7歳になっても衰えない。一昨年のサマースプリントチャンピオンは大きな着順も目立ち、安定感こそないが、その分、穴を開ける場面が多い。中京は昨年セントウルS6番人気2着以来だったが、その間、10、7、4着で先行しない競馬もあり、ちょっと衰えたのではと油断させ、今回は10番人気と人気が落ちていた。スタートから3コーナーまでの距離が短く、前半のペースがあがりにくい中京はいまのファストフォースに合う。久々に先行力も見せており、本番も侮れない。

3着は上がり馬のマッドクール。直近中京2戦は好位に控え前半を33秒台後半で乗り切り、抜け出す、安定した形を示していたが、重賞のここはハナに行きそうな馬がいないとみて、逃げを選択した。レースの前後半は33.8-33.5、1.07.3でマッドクールの直近2走と似たようなもの。重賞でも自分の力を出せば、通用する。そんな手ごたえはつかんだ。とはいえ、賞金を加算できず、次のステップに進むかどうか微妙になった。出直しの形も賞金以外に得たものはあり、未来は明るい。4着トウシンマカオには2馬身半つけた。

そのトウシンマカオは3番人気4着。道中は左前にナムラクレアがいる位置から進め、直線は馬場の真ん中に持ち出し、追いかけたが、思ったほど末脚がなかった。斤量と使い込まれた馬場が影響したようだ。馬体重12キロ増で余裕もあったか。

12キロ増はスプリンターズS2着以来だった7着ウインマーベルも同じ。こちらは賞金も十分獲得しており、59キロを加味してある程度割り切った競馬だった。外枠から気分よく大外を回って末脚を伸ばす競馬はいかにも前哨戦といった内容で、叩いて次は変わってくるだろう。本来は混戦向きの器用さがある。

2023年シルクロードSのレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。




《関連記事》
【東京新聞杯】データからナミュール文句なし 相手候補は実績馬より前走3勝クラス勝ちのインダストリア
【きさらぎ賞】フリームファクシ、勝っていざクラシックへ 牝馬レミージュも見どころアリ
2022年下半期のGⅠデータまとめ 「3歳馬が古馬撃破」「外国人ジョッキーが躍動」

おすすめ記事