【チャンピオンズC】随所にみえる我慢と信頼 ジュンライトボルトと石川裕紀人騎手、待望のGⅠタイトル奪取!
勝木淳
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合理的な我慢と信頼
我慢と信頼。日本中に希望を与えるサッカー日本代表がワールドカップで伝えるメッセージだ。世界最高レベルの戦いを勝ち抜くために我慢は欠かせない。強豪国の猛攻撃を耐えた先で逆転は起こる。その逆転をたぐり寄せるのは信頼。土壇場のインプレーも神業だが、それを信じて反応する仲間がいなければ得点に結びつかない。
我慢は少し古くさく感じる言葉だが、我慢にも種類があると我々は分別をつけるようになった。なんでも徹底して我慢するのではなく、我慢にもタイミングがある。信じる者は誰しも救われるのではない。信じさえすればいいとはいささか暴力的なこと。そうではなく、信じあう関係をつくる尊さを我々はこの3年、新たに確認した。関係性は決して距離ではないが、画面の向こうの相手との信頼を築く難しさは新たな課題でもある。
ダート転向4戦目で頂点に
ジュンライトボルトの勝利は人馬ともにGⅠ初制覇。石川裕紀人騎手とのコンビ結成はダート転向初戦の7月福島ジュライS2着。それまでジュンライトボルトは芝で21戦4勝。あと一歩足りない歯がゆさは随所にあるものの、なんやかんやと4歳春にオープン入り。確かな能力はあった。歯がゆさを消し、能力発揮のためにダート路線へ転向、そこからオープン、重賞を連勝。ジュンライトボルトはダートでかつての甘さが消え、鋭い決め手を繰り出す走りに変身した。ジャパンCは慎重にダートでキャリアを重ね、満を持して芝路線に舵を切ったヴェラアズールが勝利。運命の分岐点はいつかどこかにあることを知る。
的確にダート転向へ導き、半年でGⅠまで駆けあがらせた友道康夫厩舎はダートGⅠ初勝利。毎年クラシック級を多数送る、芝中距離のタレント揃いの厩舎はジュンライトボルトによって新たな道を開いた。今後は厩舎サイドの路線転向へのジャッジも精度を増すだろう。こういったノウハウの蓄積は我慢と信頼の結果でもある。ジュンライトボルトへの信頼と歯がゆい成績に対して粘り強さがないと、道は開けなかった。
騎乗した石川裕紀人騎手はデビュー9年目で待望のGⅠ初制覇。ジュライS、BSN賞、シリウスSと結果を出し続けたことで陣営の評価を勝ちとり、ジュンライトボルトとの信頼関係を深めていった。関西馬に関東所属という組み合わせである以上、どこかで凡走すれば、コンビ継続はなかった可能性もある。
ポイントは序盤と終盤にあった
私は石川騎手の初勝利を不思議と記憶している。それはデビューから3カ月後、3歳未勝利戦11番人気ニシノソラカラでのもの。ワンアンドオンリーが勝った日本ダービー当日だったため、記憶に残った。そこから積み重ねること242勝目がGⅠ制覇。ライアン・ムーア騎手の騎乗フォームを意識し、研鑽を重ねた。騎乗機会に恵まれない状況でも中央場での騎乗にこだわり、ひたすら我慢し続け、好機を待った。
今回はただ待っただけではない。自らジュンライトボルトを勝たせ、引き寄せた最大のチャンス。逃すわけにはいかない。逸る気持ちはあったはずだが、その騎乗はじつに冷静だった。好発を決め好位につけたのち、大外からレッドソルダードがハナを奪いにくるや、無理せず初角9番手まで下げる。この場面はレース中最速ラップの11.2。負けるものかと位置をある程度主張していれば、ジュンライトボルトは消耗していたのではないか。
しかしこれを実行すれば、ジュンライトボルトは馬群に入り、揉まれることになる。3ハロン目13.1と一気に落ちるスローペース。馬群はジャパンCのようにタイト。迷わず選択できたのはジュンライトボルトが馬群で揉まれても問題ないという確信があったからにちがいない。これも経験と信頼がなせる業だ。
さらに試練は最後の直線。残り400~200m地点。内目を進出したジュンライトボルトの目の前には余力ある2~4着馬がズラリ。追い出しを待たざるを得ない状況をじっと我慢。テーオーケインズの外にスペースができるや、迷わずそこへ導いた。一瞬でも遅れていれば、結果は変わったかもしれない。そんな紙一重の攻防だった。
この地点のラップは後半で最速の11.9。前で進路を確保していたクラウンプライド、ハピ、テーオーケインズはジュンライトボルトが我慢を強いられたのと対照的に脚を使わざるを得ず、ここで瞬発力を使い切った。ジュンライトボルトはただ我慢したわけではなく、勝負の11.9で置かれずに追走でき、かつ末脚を残せた。これは馬の能力。そして石川騎手がそれを引き出した。
JBCクラシック経由の難しさ
2着クラウンプライドは厳しいJBCクラシック経由のローテで踏ん張った。展開的には間違いなくこの馬のもの。スペシャルウィーク直系リーチザクラウン産駒のGⅠ制覇まであと一歩。惜しかった。やはりJBCクラシックから中3週が影響したのではないか。
そういった意味ではテーオーケインズも同じだ。このローテで連勝したのはヴァーミリアン(2007年)が最後。そのヴァーミリアンもJBCを3連覇しながら、GⅠ連勝は最初の1度だけ。同じくJBC3連覇のアドマイヤドンも前身のジャパンCダート3、2、2着だった。テーオーケインズは出遅れもあったが、伸びそうで最後に伸びきれなかったのは連戦の消耗もあったのではないか。昨年を考えれば、前半1000m通過1.02.4のなかで終始外を回ったとはいえ、4コーナー4番手で伸びない馬ではない。立て直しを待ちたい。
3着ハピはイメージを変える先行策。横山典弘騎手の読みもあるだろうが、同騎手はあくまで馬のリズム重視。ハピ自身が成長し、前で勝負できるようになった証ではないか。今後は安定感が増し、重賞制覇は近い。
我慢と信頼を重ねれば、栄光が待っている。ここにきて希望をくれる場面が競馬も多く、まさに収穫と充実の秋だ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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