【ステイヤーズS】復活のシルヴァーソニック! 中盤以降のペース配分が勝負のカギ

勝木淳

2022年ステイヤーズSのレース結果,ⒸSPAIA

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重賞ウイナー4頭目、名牝エアトゥーレ

5回中山はクライマックス有馬記念へ向かう開催。今年最後の開催でもあり、競馬場への来場者が全体を通じて増える。その初日は名物のステイヤーズSがあり、小さなメロディーレーンが出走、葉牡丹賞にはビターグラッセも登場。華やかな開催のはじまりを飾った。

ステイヤーズSはシルヴァーソニックが勝利。天皇賞(春)で発馬直後に落馬、最後までカラ馬の状態でレースに参加、ゴール後はラチに激突、その後は骨膜炎で休養と上半期は不遇のときを過ごしただけに、この勝利はうれしい1勝だった。母はスキーパラダイスの仔エアトゥーレ。現役時代は阪神牝馬Sを勝ち、仏モーリス・ド・ゲスト賞2着。繁殖入り後はアルティマトゥーレ、キャプテントゥーレ、クランモンタナと重賞勝ち馬を送り、桜花賞3着コンテッサトゥーレもいる。シルヴァーソニックは4頭目の重賞ウイナー。母の現役時代と似た短距離型から中距離、そして長距離と距離適性の幅広さも名血の証だ。

ポイントになったアイアンバローズの動き

デスペラード連覇、アルバート3連覇とリピーターも多いこのレース。今年もディバインフォースが連覇をかけるも3着。また昨年2着アイアンバローズは4着と着順を落とした。ここにレースをひも解くポイントがある。

昨年は最初の1000m1.05.3。まず突っ込んで入らないこのレースらしく、14秒台が記録される超スローペース。今年もこの地点では1.04.8と同じくスローだった。次の1000mは昨年1.04.9に対し、今年は1.03.5と1秒4も速かった。ここで序盤5、6番手に控えたアイアンバローズが動いた。昨年は先手をとってスローペースを演出。極力ペースをコントロールできるポジションへ動いたもので、最善手だった。

ただこの動きで中盤、若干だがペースがあがり、昨年との1秒4差が終盤で響いた。3000mまでが昨年1.02.1、今年1.01.9で最後の600mが35.3に対して36.1。上がり勝負だった昨年に対し、今年は全体的に少しずつタイトな流れになった。全体時計は昨年より1秒3速く、その内訳は2000m通過1秒9、3000m通過2秒1も速かった。中盤が速かったため、位置どりや瞬発力は問われず、スタミナを要するレースになった。先行勢は苦しく、この流れを早めに外から押し上げた3着ディバインフォースは昨年より1秒も走破タイムを詰めており、着順こそ落としたがパフォーマンスを落としていない。外目進出を考えれば、スタミナは十分証明した。

レーン騎手のしたたかさ

勝ったシルヴァーソニックはダミアン・レーン騎手のしたたかさも光った。スタート直後からインに潜り込み、序盤は3、4番手。中盤でアイアンバローズが動き、わずかに隊列が変化した際にそれに付き合わず、マイペース。結果、5、6番手に下がるもラチ沿いを絶対に渡さなかった。残り800m付近、外から仕掛ける馬がいても、動かず。コーナーでの距離得をギリギリまで利用、ほぼ馬なりで最終コーナーを回り、最後の直線でわずかなスペースを突き破ってきた。上記の通り、中盤以降はスタミナをじりじり削られるペースのなか、ラチ沿いを終始走ることで、消耗を最小限に抑え、早めの仕掛け合いにも乗らなかった。最後にスペースがなかったらどうしようなんて考えないのか。先週のジャパンCといい、外国人騎手のこの感覚に驚くばかりだ。

シルヴァーソニックは昨年3着、ディバインフォースやアイアンバローズを逆転したことになる。レーン騎手のエスコートも勝因だが、昨年と今年の流れの差から、ある程度流れる長距離戦に対応できることを証明。流れがタイトになるGⅠでも食らいついていけるかもしれない。

2着は牝馬のプリュムドール。3勝クラス古都Sで3000mを勝ちきったスタミナをここでも発揮した。こちらも道中は動かず、3、4コーナーも仕掛けを待ち、直線勝負にかけた作戦が当たった。ディバインフォースと同じく勝ちに動けば、どうなっていたか分からないが、今回は流れを考えればこの作戦でよかった。

牝馬は心肺機能の差からスピード優先の短距離では牡馬と戦えても、中距離以上になると苦しい。だからこそ中距離で牡馬をしのぐ牝馬の価値は高い。3600mとなればなおさらで、牝馬の勝利は1986年シーナンレディーが最後。2着は05年エルノヴァ以来17年ぶりだった。父はゴールドシップ。勝ったシルヴァーソニックと同じステイゴールド系。こちらもスタミナを問う流れに強い血であり、オルフェーヴルより広いコースでよさをいかせる産駒が多い。ダイヤモンドSなんてどうだろうか。

牝馬と言えば5着メロディーレーンも大健闘。いつもの後方待機ではなく、今回は馬群に入る先行策に驚いたが、それ以上にその粘りに目を見張った。中盤でじわりとペースが上がっただけによく掲示板まで残った。こちらもスタミナは相当ある。


2022年ステイヤーズSのレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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