【エリザベス女王杯】タフな阪神芝2200mで「Nureyev」「Sadler's Wells」内包馬が台頭 有力馬の血統解説
坂上明大
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傾向解説:阪神芝2200mという超タフコース
今年も阪神芝2200mを舞台に行われるエリザベス女王杯。京都芝2200mからの変更は、内回りに替わるなど同距離でも変化が大きく、よりタフさが求められるレースになることが予想されます。阪神芝2200mに強い血統を中心に、エリザベス女王杯のレース傾向を整理していきましょう。
まず、整理しておきたいのは阪神芝2200mと阪神芝2000m、そして京都芝2200mとのペースの違い。阪神芝2000mは1角までの距離が300m強しかないため早めにペースが落ち着きやすく、向正面に向いてから再度ペースが上がるような展開になります。また、京都芝2200mも外回りコースのため、前半のペースが落ち着きやすく、3角の下り坂から一気にペースが上がる形です。それに対して、阪神芝2200mはスタート直後の直線が500m強もあり、内回りコースのため仕掛けも早くなる傾向に。
ペースがゆるむ区間が短く、特に宝塚記念は梅雨時季、かつ開催最終日に行われることもあって、JRAのGⅠの中で最もタフさが求められるレースと言えるでしょう。同コースで行われるエリザベス女王杯は馬場差や牝馬限定戦によるペース差により、宝塚記念ほどタフなレースにはなりづらいですが、それでも牝馬限定戦のなかではトップクラスに消耗度の高いレースになることが予想されます。
・古馬混合重賞の前後半1000m平均ラップ(過去10年)
阪神芝2200m:60.0-59.8(後傾0.2秒)
阪神芝2000m:60.4-59.1(後傾1.3秒)
京都芝2200m:62.0-60.0(後傾2.0秒)
注目の血統として挙げたいのはNureyevやSadler's Wellsといったヨーロッパの主流血脈。日本の主流血脈ほどテンや終いの瞬発力に優れていない反面、持続力や底力という面では日本の血統では到達できない次元の力を備えています。エリザベス女王杯でも2020年1着ラッキーライラック、3着ラヴズオンリーユー、2021年2着ステラリア、3着クラヴェルと阪神芝2200mに替わってからの2年とも、複数頭の好走馬を出しています。
また、トニービンにも要注目。同馬も1988年凱旋門賞などヨーロッパの中長距離GⅠを6勝し、種牡馬としても日本で数々の芝中長距離GⅠ馬を輩出しました。阪神芝2200mでのエリザベス女王杯ではまだ好走馬が出ていませんが、宝塚記念での実績を考慮すれば十分に狙える血統と言えるでしょう。
ちなみに、Nureyev≒Sadler's Wellsやトニービンはヨーロッパの名血であるHyperionやFair Trialといった血を引く配合形。これらが各馬の底力を支えていることは言うまでもなく、Nureyev≒Sadler's Wellsやトニービンに限らずこれらの血を色濃く引く血統に注目してみるといいでしょう。
阪神芝2200mの古馬混合重賞 血統別成績(過去10年)
- 着別度数 勝率 連対率 複勝率 単回収率 複回収率
Nureyev 7- 6- 9-67/89 7.9% 14.6% 24.7% 72 99
Sadler's Wells 4- 2- 2-29/37 10.8% 16.2% 21.6% 102 78
トニービン 3- 6- 5-33/47 6.4% 19.1% 29.8% 50 101
血統解説
・デアリングタクト
母母デアリングハートは2005年桜花賞3着、NHKマイルC2着のほか、ダートの地方交流重賞でも活躍。エピファネイア×キングカメハメハ×サンデーサイレンスは芝中長距離向きですが、3代母デアリングダンジグの北米血脈がマイル戦にも対応できるスピードの源泉となっています。Sadler's Wells≒Nureyevの4×5を持つなど底力も上々。宝塚記念3着の実績からも阪神芝2200mの適性を疑う必要はないでしょう。
・スタニングローズ
母母ローズバドは2001年秋華賞2着など一線級で活躍。その仔にはローズキングダム(2009年朝日杯FS、2010年ジャパンC)などがおり、本馬はローズキングダムの3/4同血の姪にあたります。ただ、本馬はクロフネが入る分、同馬よりも締まりが強く、パワー型寄りの芝中距離馬といった印象。秋華賞時には「三冠のなかでは秋華賞の舞台が最も向きそう」と書いた通り、阪神の内回り中距離戦は得意な舞台の一つです。ただ、機動力がより活きる2000mの方が相対的に良く、3歳馬にとって阪神芝2200mという舞台は非常に厳しい条件でもあるでしょう。
・マジカルラグーン
母Night Lagoonは独2歳GⅢの勝ち馬で、繁殖牝馬としては本馬の他に日本で種牡馬生活を送るノヴェリスト(2012年伊ジョッキークラブ大賞、2013年サンクルー大賞、キングジョージⅥ&QES、バーデン大賞)を出しています。本馬自身は2022年愛オークスを2番手追走から渋太く粘っての勝利。Sadler's Wells系Galileo産駒という点からも消耗戦には滅法強いように感じますが、その反面日本の馬場への適性がカギとなりそうです。
・アンドヴァラナウト
血統傾向にピッタリなのは本馬。エアグルーヴ牝系はストライド走法の馬が多いため東京の芝中長距離がベストですが、コーナー角のゆるい阪神内回りコースが舞台ならむしろ持ち味の持続力が活きるでしょう。同牝系のルーラーシップやドゥラメンテは宝塚記念でも2着と、勝ち切れてはいませんが好走しています。Nureyevとトニービンの血を併せ持ち、晩成血統だけに古馬になった今こそが買い時。距離延長のローテーションも良く、穴馬として期待できる一頭です。
ライタープロフィール
坂上明大
1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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