【アルゼンチン共和国杯】ブレークアップ重賞Vにみえるノヴェリスト産駒の成長力と特徴
勝木淳
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ノヴェリストの現状
5回東京開幕は年末へのカウントダウンの合図。今年は収支がイマイチ、と困り果てた人への救済措置かのように、土日4重賞は波乱に満ちた。どれも当たれば帳尻が合いそうな大きな配当ばかり。とはいえ、この救済は馬券が当たらなければ受けられない。ギャンブルの救いは強烈ながら、その道は遠い。たどり着けたもののみが預かれる。JRAの競馬開催は残り7週間と半分。ゼロになる前に救われたい。
波乱続きの重賞のなかでアルゼンチン共和国杯は6、5、3番人気決着と、堅く決まった部類に入る。勝ったブレークアップはノヴェリスト産駒。ノヴェリストはアイルランド産のドイツ調教馬。現役時代はGⅠ・4勝。なかでも2013年キングジョージ6世&クイーンエリザベスSではハービンジャーのレコードを大きく塗り替え、圧勝した。タフだけどスピードもある、いかにもドイツ調教馬らしい現役時代の走りだった。引退後はスピードも評価され、社台SSで種牡馬入り。復調気配を買われ、今回4番人気に支持されたラストドラフトは2世代目の産駒で、初の重賞勝ち馬だ。
しかし日本の軽い競馬への対応に苦労する産駒が目立った。サンデーサインレス系に代表されるアメリカ血脈が幅をきかせる国で、欧州色の濃いノヴェリストはさすがにスピード面で劣勢に立つ。産駒数は減り、種付け頭数は17年111頭を最後に二桁が続いた。種牡馬は自力で道を拓けるわけではなく、歯がゆい世界だ。21年には社台SSから日高のレックススタッドに移り、新たな出会いを待つ。
遅咲きだからこそ感じる開花の味わい
ブレークアップのアルゼンチン共和国杯勝ちにより、ノヴェリストは浮上のきっかけをひとつつかんだ。ブレークアップが示唆する可能性はいつかある。同馬は3歳秋に終いの甘さを補うべく逃げに活路を見出し、4歳1月に中山芝2200mで2勝クラス脱出。昇級2戦目の中山芝2500mで2着したのち、11、2、1着でオープン入り。その4勝目の六社Sは東京芝2400mで3番手から抜け出した。
この1年で、抜け出してから見せる甘さは解消、重賞まで一気に駆け上がった。今回は後半1000m11.8-11.7-11.5-11.6-11.8と瞬発力より持続力を問う流れであり、ノヴェリスト産駒のスタミナを証明した。さらに4歳1年で3勝はそう簡単ではなく、豊富な成長力も示した。根気よく向き合えば、少し遅くなっても花を咲かせる。所有する側も管理者も、ブレークアップによってノヴェリスト産駒との付き合い方をつかめたのではないか。
たしかに競走キャリアのハイライトは3歳春シーズンだが、みんな同じも味気ない。あのフライトラインも米国三冠未出走。伝説は3歳12月に幕が開いた。遅咲きだからこそ、咲いた瞬間の喜びは味わい深い。そういうこともあっていい。競馬はひとつではないから。
2着も遅咲きハーツクライ産駒ハーツイストワール
ブレークアップの勝利が示すように、レース全体は持続力とスタミナを問う東京芝2500mらしい競馬だった。キングオブドラゴンにアフリカンゴールドがついていく形で進み、前半1000mは推定1.01.4のスローペース。前述したように残り1000m地点から11秒台が並び、キングオブドラゴンがじわじわとスタミナ勝負に持ち込んだ。だが、同馬は4コーナーで鞍上がファイトを促したように脚が残っていなかった。それが原因か直線で内ラチに接触する場面があり、馬場のいい内側を狙っていたテーオーロイヤル、ハーツイストワールらが不利を受け、仕掛けが遅れた点は覚えていきたい。
ブレークアップは不利が少なかった点もよかったが、抜け出してからも脚があがる様子はなく、後続が迫るなかでもその差はゴール板まで詰められておらず、そのしぶとさに見所があった。詰め切れなかったが2着ハーツイストワールもまた、東京の中長距離向きの長くいい脚を披露した。6歳だが、まだキャリア17戦。成績が安定しはじめたハーツクライ産駒は本格化の気配があり、追いかけるべきだ。17番枠から馬場のいいインを狙い、潜り込んだ戦略と手順は、結果的に不利を受けたものの、見事だった。
3着ヒートオンビートはまたも歯がゆい結果になったが、中距離戦での負け方とはまた違う印象もある。日経賞0.1差もあり、このぐらいの距離の持久戦が合いそうだ。同じ惜敗でもこれはこの先へきっかけになるのではないか。
1番人気テーオーロイヤルは6着。持続力に長けたステイヤーだけに瞬時に加速できず、じわりと加速するタイプなので、不利でブレーキを踏む形は痛かった。立て直してから伸びてきたが、加速が間に合わなかった。2番人気キラーアビリティは8着。折り合い重視で中団後ろから競馬したが、弾けなかった。こちらは距離が長い印象もあり、後半1000mの持続力勝負も合わなかった。中山のような小回り中距離で瞬発力を発揮する競馬が合うかもしれない。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』(星海社新書)に寄稿。
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