【府中牝馬S】負けて強しだったソダシ 負かしたイズジョーノキセキと2頭が進むそれぞれの秋

勝木淳

2022年府中牝馬S回顧,ⒸSPAIA

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春と秋では一変する古馬牝馬路線

人も馬も適材適所。どこであっても花を開かせるマルチな才能は最高で、二刀流も尊き力。しかし、そうそうオールラウンダーは生まれない。結局のところ、自分の適性はどこなのか。それを探す作業と当てはまる居場所を見つけられるかにかかる。馬の世界ではこの適材適所という考え方が、ここにきてさらに進んだ印象もある。

古馬牝馬路線は春と秋で別の顔をもつ。春は1600mヴィクトリアマイル、秋は2200mエリザベス女王杯。これは別競技に近く、06年ヴィクトリアマイル創設以来、同一年春秋牝馬GⅠを制した馬はいない。11年アパパネは1、3着だった。

つまり、府中牝馬Sはヴィクトリアマイルの続きではない。まったく違う目標に向けた別カテゴリーのレースといえる。春の主役ソダシも出走したが、探すのはあくまで秋の主役。そういった意味では昨年のエリザベス女王杯で格上挑戦ながら0.4差5着と善戦。6月に3勝クラスを卒業したイズジョーノキセキはその候補にふさわしい一頭。ソダシとイズジョーノキセキの違いは1800mがギリギリかベストに近い距離なのかという点。ゴール前の脚色はそれを物語っていた。

ごまかし無用のハイレベル

そもそもソダシの目標は最初から札幌記念の結果を受け、マイルチャンピオンシップ。次週の富士Sではなく、間隔を踏まえ、若干距離が長いことを承知で1800m、かつ56キロを背負う府中牝馬S参戦を決めた。とはいえ、200mなので、上手くいけばクリアできないことはない。「あわよくば」という感覚ではなかったか。しかし、最近の土曜日としては多い2万6千人が東京競馬場に詰めかけた。さすがは現役屈指のアイドルホース。観客は当然、勝つ場面を期待する。それを背に受けるソダシ陣営も大変だ。

さらにレースはごまかし無用の流れになった。ヴィクトリアマイルでは前半800m46.3で入ったローザノワールがこの日、前半800m46.1で入った。馬場もアシストしたが、1800m戦でマイル戦と変わらないラップを踏み、200m通過からゴールまですべて11秒台という先週の毎日王冠と同じマイルGⅠのような構成になった。これでマイル戦ならむしろ好都合だが、今回は200m長い。56キロを背負ったソダシには辛かった。しかし、毎日王冠は差し追い込み決着だったわけで、この流れで好位からアタマ差2着に踏ん張ったソダシの実力になんら異論はない。元々抜け出すとソラを使う馬。アンドヴァラナウトを競り落とした1600m付近がゴール板なら文句なし。今回は二の矢に射られたに過ぎず、マイル女王の座は近い。

東京でしつこく狙いたいアブレイズ

勝ったイズジョーノキセキは流れと馬場とソダシを味方につけた最高の競馬。前半は1800mとしては緩まない流れを後ろでやり過ごし、道中はインでじっとした。目の前にはアンドヴァラナウト、その前にソダシ。この縦関係を徹底して守れば、直線では自然と道が拓ける。外を回せばアウトという馬場。岩田康誠騎手の作業は決まっていた。さすが名手に手落ちなし。見事なエスコートでイズジョーノキセキの瞬発力を引き出した。岩田康誠騎手にとって園田時代と同じ白、青襷の勝負服を身にまとい、重賞で最高の競馬をし、ソダシを破る。これ以上ないレースだった。

こちらは昨年5着だったエリザベス女王杯が次の目標。イズジョーノキセキは1800mならどの位置からでも瞬発力を使えるが、距離延長でどうなるか。昨年のエリザベス女王杯は残り1400mから12.4-12.3-12.1とじわっと加速する変則的な流れで、最後はタフな展開になった。前半は後方にいた馬たちが上位を占めるなか、イズジョーノキセキは我慢強く走った。今回の結果も踏まえると、2200mで緩い流れならば厳しいが、またもタフな流れになれば、一発はある。

3着アンドヴァラナウトはソダシと同じ上がり33.8では厳しかった。こちらも1800mはギリギリといった印象もある。枠順を利用し、ソダシを目の前に置くという形だったことを踏まえても、緩急のついたマイル戦が面白いのではないか。

5着アブレイズは直線で馬場の真ん中から先頭に立つかという見せ場をつくった。東京に適性があるイメージは薄いが、ヴィクトリアマイルでもゴール前は目立つ脚をみせた。天皇賞(秋)登録はなんともいえないが、母の父ジャングルポケットの影響か、東京は走る。

2022年府中牝馬S回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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