【京都大賞典】芝転向5戦でGⅡ制覇  ヴェラアズールは瞬発力で一気に頂点を目指せる器

勝木淳

2022年京都大賞典回顧,ⒸSPAIA

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渡辺薫彦調教師が京都大賞典勝利

1番人気ボッケリーニが2着に敗れ、これで京都大賞典の1番人気は2016年キタサンブラックが勝利して以来、6連敗になった。20年前の競馬ファンに京都大賞典の1番人気が連敗中だと話しても信じてもらえないかもしれない。かつてはバリバリのGⅠ馬が秋始動戦として出走、勝って主役で大舞台へ向かった。たとえば00年テイエムオペラオーはここから古馬中長距離GⅠ完全制覇、年内全勝へと秋のスタートを切った。そのとき2着だったのがナリタトップロード。騎乗したのは今回ヴェラアズールで勝利した渡辺薫彦調教師だ。

ナリタトップロードは3年連続で京都大賞典に出走し、2着、競走中止、1着。3度目の正直でこのレースを制したが、そのときの鞍上は四位洋文現調教師。このレースから乗り替わっていた。渡辺薫彦調教師にとって京都大賞典は悔いが残るレース。もっとも、ご本人はすでにそんな感慨はないだろう。

ヴェラアズールの勝利でそんなことを思い出し、感傷に浸るのは私の勝手なものであり、当のご本人にはそんな物語は関係ない。騎手時代のことをあれこれ掘り起こすのはもはや失礼というもの。それでも私は渡辺薫彦調教師が京都大賞典を勝利したことがうれしい。テイエムオペラオーに挑み続けたナリタトップロードは私にとって大事な青春の1ページ。だから勝手に余韻に浸る。

差しにくいスローの縦長でも

当のヴェラアズールは強かった。前走は3勝クラスのジューンS。今回、休み明けで昇級初戦という難しい状況下で一発回答。そうそうできることではない。確かにかつての京都大賞典とは違い、目黒記念を勝ったボッケリーニが目立つぐらいで、しばらく勝ち星から見放された実績馬やベテラン勢、GⅢ好走組とハイレベルとは言えない面々だったことも手伝った。2番人気評価はその証ではある。それでも勝つのは簡単ではない。

久々にユニコーンライオンが先手を奪い、後続を離し気味に逃げ、1年2カ月ぶりのディアスティマ、アフリカンゴールドが2番手集団を形成。やや縦長になった。前半1000m通過1.00.7はやや重ながら、暮れまで続く開催の開幕週とあって、馬場のつくりは頑丈で、時計が出るコンディションだった。前半はスローの縦長気味。これは差し馬にはやや辛い状況だった。

後半は600m11.3-10.9-11.7、33.9と瞬発力勝負。ヴェラアズールがいた中団やや後ろ寄りは、先頭から離れた位置で、スローペースも手伝い、物理的な壁に阻まれやすい。これを上がり33.2で差し切った。最後の直線はボッケリーニもウインマイティーも止まったわけではない。それでもボッケリーニとの脚色の違いは明らかで、決して相手に恵まれたわけでもない。

ヴェラアズールのデビューは3歳3月の中京ダート1800m。5歳になった今年1月までダートを走り、3月の淡路特別ではじめて芝に出走し、勝利。そこから一気にGⅡまでのぼりつめた。陣営が大事に育てた成果でもある。そしてこうした一変は馬に大きな変化があった証であり、見逃したくなかった。ヴェラアズールは芝転向後、すべて上がり最速を記録する切れモノ。GⅠでもその武器を活かせる舞台なら怖い。この秋最大の惑星馬にもなれる存在だ。

2着ボッケリーニは休み明けの分もあったか、抜け出してからやや脚色が鈍った印象。目黒記念は前半こそスローペースだったが、残り1000mから11秒台が続くロングスパート型の競馬。兄ラブリーデイと同じく持続力勝負と成長力が身上。今回のような瞬発力勝負は分が悪く、GⅠのような厳しめの流れでこそ。次は変わり身もあり、適性も見込めるのではないか。

3着ウインマイティーは最後に4着ヒンドゥタイムズを内から差し切った。こちらも流れは不向きで、最後に3着にあがったのは地力がついた証拠。ゴールドシップ産駒はゴール前のいちばん苦しいところで力を発揮する。エリザベス女王杯に向けて、いいスタートを切った。今年も舞台は阪神。ウインマイティーは坂を上がった最後の最後で伸びてくる。


2022年京都大賞典回顧展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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