【毎日王冠】レースはハイレベルなマイル戦に等しいラップ!  サリオス、ジャスティンカフェ、ダノンザキッドはマイルGⅠで面白い

勝木淳

2022年毎日王冠回顧,ⒸSPAIA

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ゲートの繊細さを知る

競馬は実力がストレートに反映されない。それは競馬場のコースレイアウトの差からくる適性とスタートにある。人間であれば、スタートの合図を守り、クリーンなスタートを実現できるが、残念ながら馬に合図は分からない。だが、競走である以上はクリーンなスタートは必要不可欠でもある。

それを担保するギリギリがゲートだ。馬が嫌がる狭いところに入れ、扉が開くと同時に飛び出すようにする。これもギリギリであり、スタートで遅れることもあれば、出ないこともある。ゲート内で暴れて、ケガをするリスクもあれば、タイミングが合わず、突進してしまい、ゲートを破ってしまうこともある。毎日王冠はスタートの繊細さを知る一つのきっかけになったのではないか。

最終的に突進したダノンザキッドは外枠発走になったが、これもゲートを開けるタイミングが周囲の馬がゲート内でガタついたため、ズレたことで起こった。スターターもゲートを開けるタイミングを計る。おそらく、開くはずのタイミングで開けられなかった。複数の事象が絡んだ結果がダノンザキッドの突進だった。機械的にクリーンなスタートを切らせることは相手が馬である以上、不可能に近い。我々もゲートの繊細さを受け入れたい。

レッドベルオーブについていった先行勢

さてレースは1.44.1のレコード決着。雨の影響を受けなかった土日の東京は絶好の馬場状態。下級条件の時計の出方を考えれば、07年チョウサンが毎日王冠で記録した1.44.2が破られたのは不思議ではない。だが、中距離戦はペース差が時計に出る。このレコードをアシストしたのは逃げたレッドベルオーブと先行勢だ。

小倉日経オープンで1000m通過57.6の猛ペースで大逃げを打ち、勝利したレッドベルオーブの出方はどうなのか。このまま逃げ馬になるのか、それとも前走だけなのか。藤原英昭厩舎所属だけに、迷うところだった。結果的にはレッドベルオーブはなだめようとする鞍上とケンカするような形になってしまい、頭をあげながら走り、ペースを作った。

さらに大逃げになるかと思いきや、厳しめのペースを利用したいレイパパレやキングオブコージ、外枠発走になり、好位につけたダノンザキッドはレッドベルオーブについていった。開幕週の絶好馬場、瞬発力勝負を避けたい思惑。大逃げにならず、1頭になれないことがレッドベルオーブの心を大いにかき乱したにちがいない。

最初の200mを除き、ゴールまで1600mすべて10~11秒台という最上位のマイル戦のような競馬になった。毎日王冠は天皇賞(秋)への優先出走権が与えられるが、近年は中2週を避ける傾向もあり、どちらかというとマイルチャンピオンシップへの始動戦として性格が強い。18年ステルヴィオ、19年インディチャンプの前走は毎日王冠だった。

マイルチャンピオンシップで面白い2、3着馬

ハイレベルなマイル戦のようなレース展開だったことを考えると、安田記念3着サリオスの勝利は納得。直線では2度ほど進路がなくなりながらも伸びてきたように底力はさすがのひと言。天皇賞(秋)挑戦も面白いが、個人的にベストパフォーマンスは2歳時の朝日杯FS。前後半800m45.4-47.6の超ハイペースを3番手から楽に抜け出した。中距離もこなせるが、古馬になってからの好走は香港マイルと安田記念3着。マイルチャンピオンシップは緩い流れになる年も多く、あまり得意な条件でもなさそうだが、マイルに活路を見出したい。

2着ジャスティンカフェはレース展開を考えれば、満点に近い競馬。先行勢の息の入らない流れに付き合わず、それでいて離されずという追走から、直線は外へ行き、進路をクリアにした。これで差されてはサリオスを称えるしかない。3走前と2走前は秀逸で、マイルの差し馬として面白い。毎日王冠好走はマイラーであることを補完する。こちらは阪神の緩めの流れでも伸びてくる。

3着ダノンザキッドはスローの関屋記念より今回のような流れが合う。外枠発走になり、予想外の先行になった可能性はある。この流れを3番手追走から一旦先頭は強さの証明。勝ち星から見放されて長いが、復活の兆しは見えた。マイルチャンピオンシップなら発走調教再審査を受けても間に合う。まずは今回が一過性のものであることを願う。

上位がマイル戦に強い馬たちだったことを考えれば、4着レイパパレは悲観することはない。こちらは中距離型で流れが合わなかった。緩みのない流れが得意で、天皇賞(秋)も面白い。5着ノースブリッジは再スタート時にトラブルがあったようで、出遅れてしまい、直線では狭いところに入り、力を出し切っていない。今回で見限れない。

2022年毎日王冠回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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