【キーンランドC】外伸び馬場のインに潜んだヴェントヴォーチェ 馬場を読む難しさを痛感した一戦

勝木淳

2022年キーンランドC回顧,ⒸSPAIA

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ハナ候補の駆け引き

馬場に対して敏感なのは馬券ファンも騎手も同じ。特に近年は内が悪いと思えば、早々にそこを捨て、外目に進路をとるケースが増えた。となると、4コーナーで外が密になり、ガラ空きになったインに飛び込む、そんなシーンも自然と増える。

もちろん、インは状態が悪いので飛び込んだからといって、みんな好走できるわけではない。好走続出ならみんなインを通るようになる。そのさじ加減は乗っている人にしか分からないもので、当然、馬券を買う我々には知りようもない。先々週の北九州記念、昨日のキーンランドCと競馬場こそ違えど、2週連続短距離重賞でイン寄りを突いた馬たちが好走した。馬場読みの難しさ。騎手心理の複雑さを感じさせる競馬だった。

サマースプリントシリーズ北海道の締めくくり、キーンランドCは戦前から逃げ馬が少なかった。候補は最内枠のヴァトレニとWASJ参戦中のコラリー・パコー騎手が乗るマウンテンムスメ、外枠を引いた昨年覇者レイハリアだ。

ヴァトレニの前走最初の600mは34.0、マウンテンムスメの2走前は33.7、レイハリアの前走は32.8。単純比較ならヴァトレニはハナに行けそうにないが、マウンテンムスメはパコー騎手が激しいハナ争いに加わりそうにない。レイハリアも近走はハナに行かないケースが多く、ましてや厳しい外枠。ヴァトレニがハナに行った時点で、ハイペースはなかった。

均衡のとれた流れに強いヴェントヴォーチェ

案の定、前後半600mは34.5-34.6。札幌は函館よりコース全体に対して、コーナーが占める割合が高く、当然、前半600mにコーナーを走る距離が長い。ペースが上がりにくい舞台でヴァトレニのマイペース。みんな後半に脚が残っていた。

そこで第4コーナーだ。脚が残っているからこそ、伸びるところを通りたい。ヴァトレニとジェネラーレウーノを除くすべてが外を意識した。大回り札幌で外に馬群が固まれば、後ろから進んだ組はかなり外を通らされる。そんな間隙を突いたのがヴェントヴォーチェだ。中団から外へ行く馬群の内側ギリギリを通り、距離ロス軽減。一気に前との差を詰めた。状態の悪い内でもなく、外でもない。絶妙な進路とりだった。今後はこういった進路をとる馬が増えるのではないか。

ヴェントヴォーチェは3走前、桜花賞の裏で行われた春雷Sで1.06.8を記録。これはロードカナロアが12年スプリンターズSでマークした1.06.7に0.1差の快時計だった。これが評価され、函館SS2番人気、アイビスSD1番人気に支持されるも、7、9着。今回は6番人気での反撃だった。

人気の根拠となる春雷Sは前後半600m33.2-33.6。前傾が定番の中山芝1200mとしては均衡のとれた平均的な流れであり、後半600mは11.2-11.3-11.1と珍しくゴールに向かって加速する構成になった。ヴェントヴォーチェは均衡ラップから後半ひと脚使う競馬が得意なタイプで、今回の34.5-34.6が見事にマッチした。スプリンターズSが平均程度になる可能性は少ないかもしれないが、急流で負けたのち、コースや馬場、流れなど状況が平均程度と予測できる場合には狙っていきたい。

1400mで見直したいトウシンマカオ

2着ウインマーベルは枠なりに好位からの競馬。4コーナーでヴェントヴォーチェの目標になり、狙われた印象がある。流れが速くなかったことも手伝ったが、古馬との初対戦でも堂々たる立ち回りだった。ブリンカー着用後は崩れなく安定して走っており、今回程度の相手関係であれば、重賞は勝てるだろう。

3着ヴァトレニは北海道4戦4勝の洋芝巧者だけにここは勝ちたかった。オパールシャルムらにダッシュ力では劣ったが、枠をいかしてハナに。ここは勝つという決意のあらわれだった。4コーナーもラチ沿いから離れず、そこで外に行った組とは決定的な差をつけた。ただ結果的に内と外の間を絶妙のコース取りで抜け出してきた1、2着馬に差された。しかし、最内枠だったことを考えれば納得の内容だ。洋芝巧者だけに秋は速い時計に対応できるかが課題だが、時計さえかかれば面白い。

前半が速くなかったので、外を回った組も余力があった。伸び負けたというより、コース取りの差といった印象で、4着まで押し上げた3歳トウシンマカオも次走狙いたい一頭。今回は流れが速くなかったのである程度ついていけたが、1200mはベストではなく適距離は1400m。広いコースで見直したい。


2022年キーンランドC回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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