【新潟2歳S】将来ミルファームの幹になるキタウイング 連闘馬ワンツー、結末の裏にあるもの

勝木淳

2022年新潟2歳S回顧,ⒸSPAIA

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今夏重賞2勝目のミルファーム、その大事な牝系

「北ウイング 彼のもとへ 今夜ひとり 旅立つ」
1984年発売の楽曲「北ウイング」は、海外へ旅立った恋人への未練を断てず、追いかけるべく機上の人になった心情とその恋の行方を切なさと力強い歌声で表現した、中森明菜の代表曲のひとつだ。7月福島でキタウイングがデビューした当初、真っ先に中森明菜の「北ウイング」が浮かんだ世代のひとりとして、今年の新潟2歳Sは感慨深い。

とはいえ、キタウイングという馬名は母キタノリツメイからの連想で、「北ウイング」ありきではないようにも感じる。そのキタノリツメイの母リーベストラウムはミルファームにとって大事な幹のような存在。キタノリツメイのひとつ年上ストーミーシーは1400~1600mを中心に52戦、朱鷺Sと東風Sなどオープンを含む5勝をあげ、種付け頭数こそ少ないが種牡馬になった。

リーベストラウム牝系の現役馬では、4勝をあげオープン入り、今年のアイビスSDに出走したトキメキ、6月に未勝利を脱出したゴールドシップ産駒カヨウネンカ、2歳は札幌で新馬、未勝利2、3着エンライトメントとみんなミルファーム。そしてキタノリツメイからキタウイングと、リーベストラウム牝系はみるみる幹を広げる。これからも応援したい。

キタウイングの父がディープインパクト初年度産駒ダノンバラードだということも推し要素のひとつ。キタウイングはダノンバラード産駒初の重賞ウイナーだ。ディープ伝説第2幕が始まったと言っていい。

ダノンバラードは引退後、国内で種牡馬生活を送ったのち、イタリア、イギリスとヨーロッパを渡り歩いた。その間、初年度から18年札幌2歳S2着のナイママなど産駒が活躍したことで、19年ビッグレッドファームに買い戻され帰国。今年の2歳は再繋養1年目にあたる。この世代はこれまで6勝。それもダリア賞を勝ったミシシッピテソーロやキタウイングは2勝目。日高を支えるディープインパクト後継種牡馬になってほしい。

連闘馬ワンツーの裏にあるものとは

レースは前後半800m49.7-46.2と例年通りスローペースの瞬発力勝負。東京、中京、阪神、新潟の新馬勝ち馬が不在だったこともあるが、キタウイングは上がり最速33.0を記録、4コーナー8番手から差し切った。各馬極力外へと進路をとるなか、後ろからイン寄りを進み距離ロスを軽減してギリギリ伸びる進路を突いた。先週8勝と新潟で絶好調の戸崎圭太騎手の馬場読みも光った。とはいえ、キタウイングはこれで2戦連続上がり33秒台で、出走馬中最速を記録。ダノンバラードの父ディープインパクトの力を感じさせた。

2着はキタウイングと同じく未勝利勝ちから連闘で挑んだウインオーディン。連闘で馬体重プラス4キロ。増減なしだったキタウイングもだが、2歳で新潟2往復をこなすタフさに頭が下がる。こちらは外目を通って上がり2位33.2。キタウイングに内をすくわれた形であり、力は示した。未勝利勝ちは芝1800m。エピファネイア産駒でもあり、マイルより長めの距離でもう少しスタミナを活かす競馬が理想ではないか。

なお連闘馬の重賞勝利は18年安田記念モズアスコット以来1986年以降46勝目だが、連闘馬の重賞ワンツーはアングロアラブ限定レースがあった時代までさかのぼらないと見つからない。

超がつく異例の記録はその裏を返せば、それだけ例年の新潟2歳Sとはメンバー構成が異なっていた証。勝ち時計1.35.9は18年ケイデンスコールが勝ったやや重1.35.5より遅い。もちろん高速決着だった年の出走馬が必ずその後活躍するわけではない。時計がすべてでないものの、今年の新潟2歳Sは例年とは顔ぶれが違い、決着時計も遅かった点は秋に向けて記憶しておきたい。

2022年新潟2歳Sレース結果,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。



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