【宝塚記念】サイレンススズカに近づいたパンサラッサが有力 注目は復活が期待されるデアリングタクト
山崎エリカ
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国内の牡馬混合GⅠ未勝利馬が活躍する舞台
宝塚記念は2020年クロノジェネシス、2019年リスグラシュー、2018年ミッキーロケット、2017年サトノクラウン、2016年マリアライト、2015年ラブリーデイなど、これまで国内の牡馬混合GⅠ未勝利の馬が優勝するケースが目立つ。その理由は次のとおりだ。
1.天皇賞(春)と宝塚記念の連勝は難しい
超一戦級が集うGⅠで連続好走するのは難しい。天皇賞(春)を大目標に仕上げ、そこで好走すれば宝塚記念は余力で走ることになる。実際に過去10年で同年の天皇賞(春)の優勝馬4頭がこのレースに出走し、連勝どころか、連対した馬さえゼロ。キタサンブラックは2016年3着、2017年9着。2013年フェノーメノは4着、2012年ビートブラックは9着に敗れている。
また大阪杯1着からここに直行した2021年のレイパパレは3着、2019年のアルアインは4着、2018年のラッキーライラックも6着に敗れており、大阪杯がGⅠ昇格後、こちらも連対した馬はゼロである。
2.消耗戦になりやすい
阪神芝2200mは外回り4角奥からのスタートで最序盤が下り坂。1角までの距離が約525mと長いこともあり、前半3Fペースが速くなりやすい。さらに梅雨の時期に行われるため、力の要る馬場で行われることも多い。速い上がり(瞬発力)がそこまで求められないため、高速馬場の東京などで勝ち切れないじりじりタイプの馬が活躍することが多い。緩みない流れになりやすいため、馬の能力そのものが問われる。
3.休養明けの馬は苦戦傾向
競走馬が休養明けで不足するのはスタミナ。宝塚記念は消耗戦になることが多いため、休養明けの馬はほとんど通用していない。過去10年を見ても休養明けで優勝したのは、2017年サトノクラウンと2020、21年連覇のクロノジェネシスの2頭のみ。ともに重・不良馬場では連対を外したことがなかった道悪巧者であり、豊富なスタミナを持った馬である。
※ただし、今年は昨年同様に3回阪神2週目で行われる。昨年は開催初日が重馬場にもかかわらず、マーメイドS、宝塚記念ともに逃げ馬が連対。今年は昨年ほど雨が降っておらず、昨年以上に高速馬場になると可能性がある。ひと雨降ったとしても、そこまで馬場が悪化しないはずだ。
能力値1~5位の紹介
【能力値1位 タイトルホルダー】
昨年の菊花賞を5馬身差、前走の天皇賞(春)は7馬身差で圧勝したステイヤー。昨年の皐月賞でも2着しているように、中距離実績もある。今回は前走から距離が短くなるが、それによって大きくマイナスになる馬ではない。ただ同馬の最大目標は前走の天皇賞(春)。今年初戦の日経賞では超スローペースの逃げで力を出し切らずに優勝し、その余ったエネルギーを天皇賞(春)に目一杯ぶつけての圧勝劇だった。
よって、今回が前走以上の状態になるとは考えにくい。「前走から指数ダウンとなりますが、その結果、今回の着順は何着になりますか?」という状況だろう。かつてのライスシャワーは日経賞で力を出し切らず、天皇賞(春)にエネルギーをぶつけて優勝。98年のサイレンススズカは金鯱賞を驚愕の高指数で圧勝、次走の宝塚記念では指数をダウンさせながら優勝した。
タイトルホルダーの前走指数はサイレンススズカの金鯱賞当時の指数と比べればかなり落ちるが、それでもかなり優秀なのは確か。なかなか難しいとは思うが、サイレンススズカの再現を狙えるか。
【能力値2位 オーソリティ】
2021年のダイヤモンドSでは好位でレースを進め3着を5馬身引き離し、グロンディオーズにクビ差の2着に好走。当時記録した指数は、後の天皇賞(春)の勝ち馬ワールドプレミアよりも高い指数「-28」を記録。この頃からGⅠ通用レベルの力を見せていた。
しかし、その次走の天皇賞(春)で10着に敗れた後、骨折を発症。6ヵ月の休養を余儀なくされた。復帰後の昨秋ジャパンCでは好位でレースを進めコントレイルの2着と無事復活。前走のドバイシーマクラシックでは果敢に逃げ3着に善戦した。
前走はシャフリヤールらに交わされ3着だったが、逃げて自らが目標になってしまったことを考えれば上々の内容。前走時は前半5F61秒99-後半5F60秒48と平均的な流れではあったが、本来は先行してこそのこの馬にとっては厳しいレースだったはずだ。
今回はドバイである程度の力を出し切っての一戦となることから、大きな上昇は見込めない。しかし、今回は逃げ馬のパンサラッサやタイトルホルダーらが出走しており、自ら逃げる必要がないことはプラス材料。1番枠から外の各馬を行かせ、オーバーペースに巻き込まれない位置でレースを進められれば、上位争いに加われる可能性は高い。
【能力値3位 ディープボンド】
天皇賞(春)では連続2着、有馬記念2着と大レースでは勝ち切れていないが、昨年3月の阪神大賞典では昨年の有馬記念でエフフォーリアが記録した指数と同じ「-29」で優勝。これは今回のメンバー中ではNO.2タイ。昨年の阪神大賞典はかなりタフな馬場状態のなかで、後半6Fから1F12秒台前半の緩みない流れ。
その流れを楽な手応えで少し離れた外目の4番手からレースを進めた。4角で3番手まで上がり、ラスト300mで先頭に立つと、2着ユーキャンスマイルに5馬身差をつけての圧勝。レース内容からもかなりのスタミナの持ち主であることが分かり、タフな馬場の長距離戦がベストと言える。
今回の宝塚記念は前走の天皇賞(春)2着から大幅距離短縮。しかも高速よりの馬場。この距離、このメンバーで先行すると、5F通過59秒台くらいで前を追いかけることになる可能性が高い。それはこの馬にとってはやや忙しい競馬。しかし、オーバースピードにならないよう、中団に控え展開待ちの競馬ならチャンスはある。また、時計が掛かるほどチャンスが広がる。
【能力値4位 パンサラッサ】
デビュー3戦目の不良馬場だった未勝利戦を高指数で圧勝し、スタミナの豊富さを2歳時から感じさせていた馬。しかし、若い時はまだスピード不足の面があり、自分の得意な形でレースすることができず、結果、瞬発力不足で少し足りない競馬が続いていた。
化けたのは昨秋の福島記念。完全なオーバーペースの競馬ながら4馬身差の圧勝。マークした指数はエフフォーリアが優勝した天皇賞(秋)と同等なもの。この時点で自分の競馬ができればGⅠを勝てる力を見せていた。自らも最後は一杯になりながらも、後続をもっとバテさせ、結果、逃げ切るというスタイルが完成した。
有馬記念は福島記念の走りが強すぎて状態面にお釣りがなく大敗したが、中山記念では福島記念と同様にオーバーペースの逃げ。他の先行勢をすべて失速させる強い内容の逃げ切り勝ちだった。
前走のドバイターフは展開が向いたヴァンドギャルドの差しが決まるかに思われたが、その流れを逃げ切ったことは価値が高い。中山記念から指数をダウンさせながら優勝したことからも、完全に一段階上の馬に覚醒した感じがする。
何かかつてのサイレンススズカの覚醒前に似ている。自分の形の競馬ができれば問答無用、晴れてもOKのスピード、馬場が悪化すれば更に特長が際立つ。今回11番枠に入り、スタートがやや遅くともハナが奪取しやすいところに入った。サイレンススズカの領域に近づけるか。圧巻の逃げ切り勝ちを期待したい。
【能力値5位 エフフォーリア】
皐月賞、天皇賞(秋)、有馬記念とGⅠで3勝を挙げた昨年の年度代表馬。昨年の有馬記念は、時計が掛かる馬場でパンサラッサが大逃げを打ち、前半5F59秒5-後半5F61秒5のかなりのハイペースになった。その流れを後方外目でクロノジェネシスを徹底マークする形でレースを進めたエフフォーリアは展開に恵まれた形となり、今回のメンバーではNO.2タイの自己最高指数「-29」で優勝した。
しかし、自己最高指数を記録した後の馬はよく反動が出るもの。前走の大阪杯では3~4角で全く手応えがなかった。エフフォーリアは時計の掛かる馬場の芝2500m戦で中団からレースをした後に、高速よりの芝2000m戦だったことで、レースの流れになかなか乗れず、9着に敗れた。忙しい競馬になったことも敗因の一つだが、状態面に問題があった可能性は否めない。
さて、今回のエフフォーリアは巻き返せるのか? 結論から言うと、巻き返せる可能性は高いと見ている。かつてのテイエムオペラオーも前年の有馬記念を優勝し、次走の大阪杯で敗れ、その後の天皇賞(春)で巻き返しVを決めた。同馬同様にエフフォーリアも長距離適性が高く、前走から1Fの距離延長もプラスになるだろう。
ただし、同馬は前半から脚を使うと良くないタイプ。前走ばかりでなく、1番枠から無理に3列目の内を狙った日本ダービーでも2着に敗れた。それゆえに今回の4番枠はやや不安。父・横山典弘騎手ように、ゲート出たなりの後方待機策で展開に恵まれた場合はアッサリ勝つ可能性もある。しかし、前半から出して位置を取りに行った場合は、中途半端な着順で終わる可能性もある。
注目は復活が期待されるデアリングタクト
一昨年に牝馬三冠を史上初の無敗で達成し、伝説のジャパンCではアーモンドアイ、コントレイルに続いて3着と好走した。そのレースはキセキの大逃げで前半5F57秒9-後半5F61秒8の超ハイペース。デアリングタクトはアーモンドアイの一列後ろの後方からレースを進めたことで展開に恵まれ、自己最高指数を記録した。
同馬はジャパンCでは最後の直線で内にモタれていて、力を出し切っていた。その後は疲れが出て休養。復帰してからも、本来の走りが出来ていなかった。さらに昨年の宝塚記念の出走前に繋靭帯炎を発症し、1年1ヵ月に及ぶ長い休養に入った。
前走のヴィクトリアマイルはどの程度、能力が回復しているかという一戦だったが、1番枠から五分のスタートを切り、わりと楽に好位の内目を取って進めていく競馬。結果は6着だったがマズマズの走り。能力が大きく衰えていないことを確認できる内容だった。
前走は走り過ぎていないので、そこまで疲れも残らないだろう。それにマイルの速い流れを経験できたことは今回の目覚めに繋がりやすく、通常なら順当に上積みが期待できる。
ただ繋靱帯炎の馬は順当に叩き2走目で上昇しないこともある。その点は気掛かりだが、復活の激走があって不思議ない実力馬だ。また今回は先行馬が揃った上でのパンサラッサのレースメイクが濃厚なだけに、差し馬のデアリングタクトは展開に恵まれる可能性が高い。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)タイトルホルダーの前走指数「-35」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも3.5秒速い
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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