【ユニコーンS】超ハイペースを先行し押し切ったペイシャエス 父エスポワールシチーの代表産駒になる可能性

勝木淳

2022年ユニコーンS回顧,ⒸSPAIA

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前後半800m46.2-49.0の超ハイペース

当日は夏の香りが漂う青空。幾分かからっとした空気が救いで、絶好の競馬日和だった。ユニコーンSも同週マーメイドSと同じく、天候に左右される重賞。4年連続で良馬場以外で行われてきた。良馬場施行はサンライズノヴァが勝利した2017年以来で、かなり昔に感じる。当日の乾き気味の東京ダートは冬のような砂漠状態ではなく、時計が出ていた。3R3歳未勝利戦でメンアットワークが1.36.0を記録。同条件の新馬、未勝利かつ良馬場でこれを上回った記録はない。

メンアットワークの記録も特筆ものだが、ユニコーンSの決着時計1.35.2も良馬場に限定すると、08年ユビキタスの1.35.1に次ぐ2位。どちらもハイレベルな競馬だった。勝ったペイシャエスもメンアットワークと同じく、4番手から抜け出す横綱相撲。これは価値ある記録だ。

レースはハセドンが前走同様待機策をとり、インダストリアが出遅れ、ロードジャスティスが先手を奪った。同枠スマートラプターがプレッシャーをかけ、初ダートのタイセイディバインも積極策。先行勢が見るからに飛ばしたわけではないが、前半800m12.3-10.8-11.2-11.9、46.2は3Rの47.2と比べてもかなり速い。

芝と勘違いするようなラップが刻まれ、後半800m12.1-12.1-12.2-12.6、49.0。一転して良馬場のダートらしい消耗戦となった。ラスト200m12.6で上位6頭が横一線。これを抜けるにはスタミナが必要だった。1番人気リメイクはここで脱落。現状ではマイルは長いようで、福永騎手も敗因に距離をあげた。

父譲りの心肺機能を証明したペイシャエス

のちのGⅠ馬を多く送る出世レースは今年も確かな実力を証明することになった。当然この流れを好位から抜け出したペイシャエスは優秀。序盤から中盤まで、急流についていくのに苦労したように見えたが、最後の直線は着実に伸びた。心肺機能が高く、豊富なスタミナを証明。距離はもっとあってもいいだろう。

これが重賞初制覇のエスポワールシチー産駒はダート2勝クラス以上の高額条件に限ると、勝率は良馬場4.3%、やや重11.4%、重19.2%と高速化するほどに上昇する。勝ち進むごとに良以外のダートで強いということは、産駒の特徴を示す指標になる。そもそもダートは高速化するといっても、序盤から緩みのない流れになりやすく、じわじわと末脚を削られ、最後はスタミナが必要になる。決してスピード一辺倒では乗り切れない。下級条件の道悪ダートが必ずしも先行有利とは限らないのは、先行勢のスタミナの有無にかかわるからだ。

思えばエスポワールシチーの5歳フェブラリーSは良馬場で前後半800m47.0-47.9、1.34.9。これを番手から抜け出した。東京ダート1600mはスピードでは乗り切れない。最大の武器は心肺機能の高さだった。ペイシャエスは間違いなく父から心肺機能を受け継いでいる。当然、まだまだ強くなる。エスポワールシチー産駒の代表格に出世してほしい。

着順に影響した進路の差

2着セキフウは中東遠征帰りで見事に立て直した。久々の高速ダートに戸惑ったのか、序盤は遅れをとった。しかし、直線を向いて外に馬群が流れると、ガラ空きのインを突き、ラチ沿いをしぶとく伸びた。スタミナを要する流れで本領発揮は流れが向いただけではない。また直線に向いて、外に行かず、あえて狭いインコースを攻めたコース選択も当たった。

というのもスタミナを問う流れになり、後方待機組に利がありながら、2番人気ハセドンは大外を回り、上がり2位35.5を記録しながらも8着。青竜Sの再現を狙った作戦は納得も、前半からスキのない流れになってしまうと、後方待機組も末脚を削られ、外に持ち出すロスもまた大きくなる。ハセドンにとっては青竜Sの前後半800m47.0-48.5ぐらいのタイム差がはまりやすく、今回の超ハイペース46.2-49.0は厳しかった。

3、4着バトルクライとヴァルツァーシャルも上がり3ハロンはそれぞれ35.8、35.4。位置取りの差もあるが、極力、外に行かず、あえて馬群に突っ込んだバトルクライと大外を回ったヴァルツァーシャルの通った進路の差が大きかった。つまり力は五分といってよく、似た位置取りだった2着セキフウも合わせ、この3頭の力関係はないに等しい。


2022年ユニコーンS回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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