【福島記念回顧】ニシノティアモが4連勝で示した“能力の違い” 後世へ受け継がれるニシノフラワーの偉大さ
勝木淳

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決め手は“1コーナーの攻防”
今年最後の3日間競馬初日、メインカードの福島記念はニシノティアモが勝って重賞初制覇。2着エコロヴァルツ、3着パレハで決着した。
秋の福島最終週の名物重賞は、このレースらしくないスローペースで展開した。先手を主張したのは大方の予想通り、バビットだった。
最近は逃げてもスローに落とすことが多い同馬がすんなりハナをとると、1コーナーをゆったりと回っていく。当初は外2番手に出していったリカンカブールが収まりかけたが、そこであえて奪いにいったのが勝ったニシノティアモ。結果的にはこの判断がすべてだった。
2コーナー付近から12.1-12.9-12.5と向正面でかなりペースが落ち、かつ、ほかに動く馬があらわれない。典型的な前が残るレース展開になっていった。全体的に前に対する意識、プレッシャーが少なかったことで、ニシノティアモは理想的なレースができた。
それもこれも、1コーナーであえて2番手をとりにいったから。ここで動いた津村明秀騎手はニシノティアモが復帰してからコンビを組み、3戦3勝と手の内に入れており、自信をもって騎乗できた。まさに継続は力なりだ。
未来へ続くニシノフラワーの物語
福島記念らしくないスローになったことで、レース上がりは11.9-11.3-11.0の34.2。滅多にない加速ラップになった。
レース上がり34.2は、福島記念では過去最速。福島競馬場で行われた福島記念でレース上がりが34秒台だったのは、2013年34.9(勝ち馬ダイワファルコン)と14年34.7(勝ち馬ミトラ)の2回だけ。ほとんどが消耗戦になる重賞だけに珍しい。
ニシノティアモは、例年の福島記念の勝ち馬とは少しキャラクターが違うという点は気に留めておきたい。牝系をたどると、ニシノフラワーに行き着く。桜花賞、スプリンターズステークスなどGⅠで計3勝をあげた名牝は西山牧場の危機を救った牝馬としても知られている。
ニシノフラワーとその母デユプリシトは西山牧場が経営方針を転換し、オーナーブリーダーとしての道を歩むきっかけをつくったという。西山茂行氏にとって運命の馬ニシノフラワーはニシノミライ、ニシノヒナギクから中山大障害2勝ニシノデイジーを輩出し、ニシノマナムスメからニシノアモーレ、ニシノレヴナント、ニシノティアモとつながった。ニシノティアモはニシノフラワーから続く物語に新たな章を刻んでいく。
それにしても、ノドの手術明けから4連勝。それも復帰戦は今年の6月。ダービー当日の1勝クラスの平場戦だった。そこからわずか5カ月で重賞タイトルに手が届いた。東京と福島を交互に走って4連勝だから、適性云々ではなく、能力の違いと言わざるを得ない。ニシノティアモのポテンシャルの高さとレースセンスはまだまだ上を目指す器であることを示す。
小回り適性高いエコロヴァルツ
2着はエコロヴァルツ。こちらはニシノティアモが外から番手をとりに来たことで、ややポジションが下がってしまった。結果的に一列下がったことと、トップハンデタイ58.5kgが最後に響いた。とはいえ、4着以下の一団からは抜けており、やはりGⅢだと力が違う。
最後のゴールシーンをみれば、58.5kgを課したハンデキャッパーの意図は伝わった。小回りの1800、2000m向きであり、適鞍に照準を定め、確実にタイトルをとりにいってほしい。
3着は牝馬のパレハ。好位勢での決着のなか、中団から唯一差してきた。こちらもエコロヴァルツと同じく小回りの中距離戦への適性が高い。上がり最速タイ33.6の末脚で伸びてきたように充実期にある。もう少しレースが流れ、前が仕掛け合いをはじめれば、チャンスは出てくる。
3番人気クリスマスパレードは6着。好位に控え、ポジションは決して悪くなかったが、伸びを欠いた。勝った紫苑ステークスや3着中山牝馬ステークスは後半11秒台が続く持続力勝負であり、緩い流れの瞬発力勝負は合わない。先手か番手が理想で、自らペースを演出する形がよさそうだ。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 伝説のグランプリホース』(ガイドワークス)に寄稿。
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