【エルムS】アドマイヤドンが驚異の“9馬身差”圧勝劇 元・芝2歳王者の末脚光った2003年をプレイバック
緒方きしん

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元・芝2歳王者がダートで実績馬と激突
今週は札幌でエルムSが開催される。第1回(1996年)は「シーサイドS」の名称で函館競馬場にて行われ、キョウトシチーが勝利を収めた。エルムSに改称された翌年以降は、ローマンレジェンドやロンドンタウンといった実力馬がこのレースを制している。
また、2020年には芝GⅠ馬のタイムフライヤーが勝利するなど、芝の実績馬が好走するケースも見られる。今回はそんなエルムSの中から、2003年の一戦をピックアップして当時のレースを振り返っていく。
この年はアドマイヤドンとイーグルカフェによる二強ムード。ともに芝でも実績を残してきた実力馬である。イーグルカフェはNHKマイルCを制した後、天皇賞(秋)でも4着に入るなど芝路線で活躍した。
その後は試行錯誤の時期もあったが、5歳夏の七夕賞で久々の勝利を挙げると、札幌記念、フランス遠征を経てジャパンカップダートを勝利。翌年、2003年のフェブラリーSでも3着と力強い走りを見せていた。
一方のアドマイヤドンは、デビュー3連勝で朝日杯FSを制覇した2歳王者。2002年菊花賞4着の次走でJBCクラシックに挑むと、牡馬相手に重賞で好走を続けていた1番人気プリエミネンスに7馬身差をつける圧倒的なパフォーマンスを見せる。
以降は同年ジャパンカップダートで3着、翌年フェブラリーSで11着と着順を下げたが、ここでの復活を目指していた。
さらに、前年のエルムS覇者プリエミネンス、同2着であり重賞5勝のスマートボーイ、直近5走で4勝のエクセシヴワードまでが単勝オッズ一桁台。上位2頭の人気は抜けているものの、決して敵わないほどの差ではない。それこそ、大接戦もあり得るようなメンバーが揃っていた。
強豪たちを一気に突き放す強烈な末脚
ゲートが開くと、最内枠の8歳馬スマートボーイが勢いをつけてハナを奪う。長くコンビを組んできた伊藤直人騎手がこれまで通りのパターンへと持ち込もうとしていた。やや行き足の付かなかったプリエミネンスだが、こちらも鞍上の柴田善臣騎手に促され徐々にポジションをあげていく。
その後ろ、中団で悠然と構えているのが、アドマイヤドンと安藤勝己騎手。イーグルカフェと藤田伸二騎手はさらにその後ろにポジションを取った。
先頭スマートボーイこそ単騎で逃げているものの、それを追う2番手集団は4頭が横にズラッと並び、隊列は定まらないままだった。アドマイヤドンは前走のフェブラリーSで他馬と接触しそうになる場面があったことを踏まえてか、外を回るようなポジション取り。
安藤勝己騎手にとってはこれがアドマイヤドンとの初コンビで、前走までの鞍上・藤田伸二騎手はイーグルカフェに乗り、元相棒をマークするような形で追走していた。
各馬が難しいポジションのまま膠着状態が続くかに思われたその矢先、向正面でレースが動く。アドマイヤドンがポジションを上げ始めた。ついていく馬、あえて動かない馬──各馬・各騎手の思惑が交錯する。
アドマイヤドンが内に3頭置いて、外から先頭に並びかけたところで最終直線。そこからは独壇場だった。各馬が懸命に追うなか、アドマイヤドンがただ1頭、モノが違うとばかりの末脚を見せる。後続との差は広がるばかり。スタンドからは驚きのため息すら聞こえるようだった。
結果は2着に9馬身差をつける圧勝。上がり3Fは当然ながら最速の36.4で、上がり2位の38.1と比較すると、その圧倒ぶりが際立っていた。
2着トシザボス(6番人気)、3着タニノゴードン(7番人気)はいずれも2番手集団を走っていた馬で、前が残る展開だったことを踏まえると、アドマイヤドンの末脚と安藤勝己騎手の手腕が光った一戦と言える。
1番人気が勝ったにもかかわらず、3連複配当は12,420円と万馬券。4着は5番人気馬、6着は8番人気馬と、ライバルとされていた有力馬たちは掲示板外へと沈んでいた。
今年も芝の2歳GⅠ馬が登場
アドマイヤドンはそれ以降、南部杯→JBCクラシックと連勝。続くジャパンカップダートは2着に敗れたものの、翌年のフェブラリーSでは勝利を挙げ、JRAのダート王者として君臨した。
2003年、2004年のJRA賞最優秀ダートホースに選出され、引退後は種牡馬入り。父としては、2015年の日経新春杯や日経賞を制したアドマイヤデウス、ステイヤーズSを3連覇したアルバート(2015~17年)など、芝の活躍馬も多く輩出している。
今年のエルムSには、2022年にホープフルSを制した「芝のGⅠ馬」ドゥラエレーデが出走する。昨年エルムSでは2着と好走しており、前走フェブラリーSこそ11着に敗れているが、ここから巻き返し、ダート界の頂点を目指せるのだろうか──。
なお、ドゥラエレーデはアドマイヤドンの血統を引くわけではないが、芝の2歳GⅠ馬からダート転向というキャリアは重なる部分があり、注目の一頭となりそうだ。
《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ドウデュース。
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