【関屋記念】偉大な妹に負けじと見せた姉の意地 ドナウブルーがウチパクの剛腕に応えた2012年をプレイバック

緒方きしん

2012年関屋記念の出馬表と結果,ⒸSPAIA

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ドナウブルーが見せた意地

今週は新潟で関屋記念が開催される。過去にはダイワテキサスやマグナーテン、カンパニーといった実力派が勝利。他にもロータスランドやオースミコスモなど牝馬の勝利も印象的なレースだ。

今回はそんな中から2012年の一戦をピックアップ。当時のレースを振り返っていく前に、同年の夏までの競馬界を振り返っていこう。

牡馬クラシック路線は、ゴールドシップやジャスタウェイ、ディープブリランテやグランデッツァ、フェノーメノなど、才能豊かな3歳馬たちが火花を散らした。

一方、牝馬三冠路線では二冠牝馬が誕生。桜花賞を2番人気、オークスを3番人気で制したジェンティルドンナである。オークスでは2着馬に5馬身差、0.8秒もの差を付け危なげない勝ち方を見せ、後に秋華賞も制して三冠を達成する。

そのジェンティルドンナといえば、デビュー時から多くの注目を集めていた馬でもある。ひとつ上の全姉・ドナウブルーが早くから活躍していたからだ。

ドナウブルーは新馬戦で2着に敗れた妹ジェンティルドンナとは違い、デビューから2連勝。しかし、重賞初挑戦となったシンザン記念で1番人気5着に敗れると、そこからフィリーズレビュー4着、ニュージーランドトロフィー6着、ローズステークス5着と結果を残すことができず、牝馬三冠競走は未出走に終わった。

しかし、古馬になった2012年の初戦。同じ1月にシンザン記念を制した妹に刺激されたか、京都牝馬ステークス(GⅢ)で遂に重賞制覇を果たす。その後はヴィクトリアマイルでも2着に入り、牝馬屈指のマイラーとして存在感を発揮。続く安田記念は10着と大敗を喫したが、夏も休養に充てることなく関屋記念に向かった。


先行策からの激戦 内田博幸の剛腕に応える勝利

2012年の関屋記念は強いベテランが揃っていた。2010年のマイルチャンピオンシップ3着馬ゴールスキーに、2008年ダービー2着馬スマイルジャックもすでに7歳ではあったが、2009年に関屋記念を制しており、6歳シーズンも東京新聞杯1着、安田記念3着と元気一杯だった。

また、前年の関屋記念勝ち馬レインボーペガサスや、2010年の勝ち馬レッツゴーキリシマも参戦と、過去3年の勝ち馬も集結。そんな中、ファンは実績よりも実力を高く評価し、新潟初参戦の4歳馬ドナウブルーを1番人気に推した。

8月頭には34.5度など真夏日を連発していた新潟だったが、8月6日(31.1度)を最後に30度に届かない日が続いた。しかし、関屋記念に合わせるかのように、8月12日の気温は久々に真夏日の31.3度を記録。晴れた良馬場で、真夏のマイル戦が幕を開けた。

ドナウブルーの鞍上は初コンビの内田博幸騎手。京都牝馬Sを上がり最速で勝利していた同馬を、内のエーシンリターンズを気にしつつ2番手へと押し上げる。

先頭を走るのは、2010年の関屋記念を逃げ切って勝ったレッツゴーキリシマ。3番手を走るエーシンリターンズも、2走前のメイステークスを逃げ切っていた。

道中では内田博幸騎手が振り返り、後続を気にする。ペースを落ち着かせることなく、レッツゴーキリシマをマークする形で内から2列目を追走。前半4F通過は47.0秒、速い。スタンドからペースを心配するざわめきが起こる。

新潟の直線は長い。このままだと2001年にマグナーテンが記録したレコードを上回る。ドナウブルーはもつのか、一番人気でここまで積極的な競馬をして大丈夫か。そんなことを感じさせるざわめきだった。

最終コーナー付近で3番手集団のレインボーペガサスが外から仕掛けるも、内田博幸騎手は動じることなく、手綱はしっかりと抑えられていた。長い直線に入ると各馬が仕掛ける。どの馬も脚色は悪くない。しかし、2番手のドナウブルーは涼しい顔で仕掛けを待っているようにも見えた。

残り200m、鞍上の鞭に応えてドナウブルーが加速。エーシンリターンズと併せ馬の形で前にいたレッツゴーキリシマを難なく交わし去る。そこからは2頭の激しい攻防が繰り広げられる。

エーシンリターンズがやや前に出たことで、内田博幸騎手の闘志に火がついた。必死に前を交わそうと剛腕がうなる。その激しい騎乗に応えるように、ドナウブルーも一完歩ずつ伸びる。エーシンリターンズの北村宏司騎手も必死に抵抗。激しい2頭の競り合いは、最後の最後でドナウブルーがクビだけ前に出て勝利を掴み取った。

勝ちタイム1分31秒5は、従来のレコードを0秒3更新するコースレコード。また、管理する石坂正厩舎にとっては、前週の小倉記念(エクスペディション)に続く2週連続の重賞制覇となった。

逃げたレッツゴーキリシマは17着、3番手から仕掛けたレインボーペガサスは16着と大敗。馬券は1番人気ドナウブルーが勝利したことでやや平穏なものとなったが、3着に8番人気スピリタスが来たことで、三連単は241.9倍の配当となった。


「前走大敗」「乗り替わり」のボンドガール

ドナウブルーはその後もマイル路線で活躍を続けた。

同年秋のマイルCSで3着、翌年のヴィクトリアマイルでも5着などトップマイラーとして奮闘。三冠牝馬の姉として胸を張れる素晴らしい実績を残したのは間違いない。なお、いつか実現すると思われていた妹ジェンティルドンナとの同厩対決は、距離適性の違いもあって実現しなかった。

2014年に現役を退いたドナウブルーだが、母としても良血ぶりを発揮。2番仔の牝馬ドナウデルタはチューリップ賞4着など早くから活躍し、3歳9月から条件戦を3連勝。リステッド競走でも2勝を挙げ、2021年の阪神牝馬ステークスでも3着と好走した。

ジェンティルドンナもまた、繁殖として大活躍。ジェラルディーナが2022年にエリザベス女王杯を制しており、その血統的な価値は計り知れない。つい先日、繁殖牝馬の引退が発表されたが、次世代からまたその次世代へと血は繋がっていく。

今年の関屋記念には19頭が登録。なかでも注目を集めるのがボンドガールだ。前走GⅠで二桁着順に大敗(16着)しているのはドナウブルーと同じで、6月には弟ダノンヒストリーが素晴らしい内容でデビュー勝ち。すでに来年のクラシック候補の呼び声も高い。

ボンドガールも名前の通り牝馬であり、今回乗り替わり(C.ルメール騎手予定)など、ドナウブルーとは重なるところも多い。クラシック候補生の姉として、ボンドガールはどのような走りを見せてくれるだろうか──。

《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ドウデュース。

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