【小倉記念回顧】イングランドアイズが51キロ味方に格上撃破 上がり37.4の消耗戦で母譲りの勝負強さ発揮
勝木淳

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グラティアスが演出した体力勝負
サマー2000シリーズ小倉記念は格上挑戦のイングランドアイズが勝ち、2着はシェイクユアハート、3着はディープモンスターで決着した。暑熱対策の一環として4週間に短縮され、6、7月の開催にかわった夏の小倉は早くも年内の開催を終える。ちょっと寂しい気もするが、この暑さでは仕方ないか。真夏に小倉へ輸送するのは負担も大きい。
ただ、開催時期が移ったことで小倉の芝状態はなんとも読みにくくなった。梅雨どきに重なり、真夏より水分を含んだ馬場は夏の小倉らしい超高速馬場にならなかった。
加えて4週間と短くなったことで、馬場の傷みは進まず、幸い開催中に雨の影響もほとんどなかった。速くはないが、傷みもしない。この状況がかえって馬場読みを難しくし、傾向をつかみにくかった。
そんな状況で迎えた最終週の小倉記念は51~58キロと上下差7キロもあるハンデ戦。昇級馬のメリオーレムが1番人気に推され、古豪ディープモンスター、同じく昇級組のシェイクユアハートと続いた。
昇級馬がオープン馬より人気になるなど、混戦の典型のような状況だった。さらに確固たる逃げ馬がおらず、格上挑戦のスズカダブルがハナ候補と目され、展開の想定は不安定。この状況をみて奇襲をかけたのがグラティアスだった。先行歴こそあるものの、逃げたのは約5年前の2歳新馬戦以来。さすがに戸惑いもあったか、大逃げの形になった。
前半1000m通過58.7秒は数字だけみると、そこまで突っ込んでいないが、800~1200m区間の通過が11.7-11.7と上手く息を整いきれていない。グラティアスが後ろを離し、その背後には人気薄が続いたため、早めにつかまえもできず、終盤にかけてペースアップできなかった。
上がり3Fが37.4もかかる体力勝負でのポイントはいかに消耗しないか。1番枠からインの好位をとったイングランドアイズは最軽量51キロも味方した。消耗戦ほどハンデがいきる。4コーナーのさばきも絶妙でタイミングよく先行勢の外へ持ち出せた。
イングランドアイズに潜む大物食いの血
イングランドアイズの母は2014年にハープスターを破ってオークス馬に輝いたヌーヴォレコルトと超良血も、ブリンカーを装着したように気性の難しさが出世を阻んできた。すんなり先行し、流れに対応できれば力を出せるが、序盤が上手くいかず流れに乗り損ねることも多い。
前走垂水Sでは終始13番手で流れに乗れず、終いは脚を使うも7着まで。今回2着のシェイクユアハートには完敗だった。安定感はないが、序盤さえクリアできれば強い。このタイプはクラスの壁を感じない。格上挑戦も納得だ。
ヌーヴォレコルトは初仔ドンナセレーノ(父ロードカナロア)を受胎し、渡英。以後、フランケル、キングマン、ソットサスと欧州チャンピオンクラスとの間に産駒をおくる。イングランドアイズ(父キングマン)もその一頭。サンデーサイレンスの血をもつヌーヴォレコルトに最適な血を探す旅でもあった。その答えがひとつ出た。
ヌーヴォレコルトは現在、帰国し、社台ファームに繋養。サートゥルナーリア、ブリックスアンドモルタルと交配された。母は勝負根性に長けており、イングランドアイズの混戦での強さに母の血を感じる。
上記の通り、すんなり先行できれば強いが、モロさも同居しているため、適性条件というより自身の問題が大きい。連続好走は難しいかもしれないが、クラスに関係なく走るので、枠の並びなど条件をみて、大舞台でも買ってみたい。格上挑戦をクリアしており、そんな大物食いの魅力も感じる。これも母譲りだろう。
2着シェイクユアハートは長く3勝クラスで足踏みしていたが、前走の勝利は飛躍のきっかけだったようだ。昇級戦でも難なく体力勝負に対応してみせた。父ハーツクライ、5歳夏とくれば、ここから秋にかけて一番力を出す時期でもある。真夏の長距離輸送で10キロも体を減らしたのは気がかりだが、うまくケアできれば、連続好走もありそうだ。
3着ディープモンスターは内をうまくさばき、しぶとさを発揮した。4コーナーでイングランドアイズに目の前を横切られ、反応が遅れたのは痛かった。1、2着馬と同じタイミングで動ければ、もう少し着差も縮められたかもしれない。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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