【マイラーズC回顧】タイトな流れで能力問われた一戦 ソウルラッシュとセリフォスは枠順で明暗

勝木淳

2024年マイラーズカップ、レース結果,ⒸSPAIA

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マイル路線に大きな変化なし

長い長い京都開催がはじまった。宝塚記念まで10週間も続くため、なにより気になるのは芝の馬場状態だ。冬開催はコンディションが悪いまま開催され、阪神開催8週間でどこまで回復するのか。だが、そんな心配は無意味だったと思い知らされる絶好の状態で幕を開けた。馬場管理のレベルの高さを改めて感じる。土曜最終2勝クラスの芝1600mは1:32.1。昨年の同条件1:32.4なので、高速決着続出の開催になるだろう。しかし、日曜日は午後から雨が降り、徐々に時計がかかる状態へ変わっていった。大きなダメージではなかったかもしれないが、マイラーズC1:32.5(稍重)が昨年より1秒遅い決着だったのは、雨の影響もあった。

全体時計は雨の影響を受けたが、レース自体のレベルはそう低いわけではなかった。序盤600m34.1。12.1-10.9-11.1と突っ込んで入った。内枠トゥードジボンがスタートでやや遅れながら、ダッシュを効かせ、ハナを目指し、外枠セッションが待つ形になり、隊列が整っていった。勢いをつけたトゥードジボンはペースダウンするまで時間を要したため、3ハロン目11.1と速く、これが結果的に先行勢にとってダメージとなった。

ハイレベルなマイル戦の場合、先行勢は互いにプレッシャーをかけあう形になる。外からエエヤンも並び、この3頭によって、ペースを落とそうにも落とせない流れがつくられた。前半800mは45.6。良馬場の昨年が46.1だったことを踏まえると、今年は前半がタイトだった。当然、後半に先行勢がペースアップするのは難しく、差し馬もスピードを持続しながら、脚を溜められないと末脚を繰り出せない。能力差がストレートに反映される展開になったからこそ、実績馬でないと乗り越えられなかった。ソウルラッシュ、セリフォスの1、2着は現状のマイル路線が昨年から勢力図に変化がないことを示す。

安田記念を連覇したソングラインが引退し、ナミュールを中心に突出した馬が出現してないマイル路線だが、上位の層はどうやら厚そうで、そうそう崩れそうにない。マイラーズCはそれを印象づける結末となった。


持続力勝負に強いソウルラッシュ

ソウルラッシュは阪神で行われた22年に続き、隔年でこのレース2勝目。隔年での複数勝利はローエングリン以来となる。このときも同じく4、6歳での達成で、名マイラーは息が長い。ソウルラッシュの半弟ディオも4歳終わりから5歳にかけて3連勝でオープンを勝った。母エターナルブーケは未勝利で終わったが、どうもこの血統は晩成のようだ。ソウルラッシュもディオも父はキングカメハメハ系で、この血統特有の筋肉の強さがマイル戦の持続力勝負にマッチしている。

タフなソウルラッシュは6歳であっても、GⅠに手が届いていい。残るは東京との相性だろう。安田記念は13、9着。富士S2着と未勝利。極端に速い上がりを求められると、しんどいのもルーラーシップ産駒の特徴。自力勝負に出て、多少なりとも上がりがかかる展開に持ち込みたいところだろう。

前日、松山弘平騎手の落馬により、急遽手綱を任された団野大成騎手は、ソウルラッシュのソラを使うクセを把握し、4コーナーからしっかり促し、ゴールまで余すことなく末脚を引き出した。6年目だが、もう若手騎手とは呼べない高い技術だった。GⅠの常連騎手として飛躍してほしい。


内で待たされたセリフォス

2着セリフォスはソウルラッシュと同じ位置のインにいた。中盤までは泥をかぶり我慢の競馬を強いられ、さらに勝負所では仕掛けのタイミングを待たされ、追い出したのは進路がクリアになった内回りとの合流地点だった。早めにエンジンをかけられたソウルラッシュとは明らかに枠順が明暗をわけた。着差1馬身3/4はこの点を差し引いて考えよう。昨年の安田記念2着は高速上がりを嫌った先行策で結果を残せた。今度はソウルラッシュの前にポジションをとれる状況なら面白い。

3着ニホンピロキーフは上位との実績差を考えれば大健闘といっていい。小倉芝2000mを勝ってオープン入りした馬とは思えない対応力で流れに乗れた。昨夏から田口貫太騎手が手綱をとってここまでもってきた。こういった馬との出会いがさらに経験を深め、自身の糧となっていく。ぜひ、このまま大舞台へ進んでほしい。


2024年マイラーズC、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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