【安田記念回顧】レジェンドが解き放ったシックスペンスの底力 6年連続GⅠ制覇に見た武豊騎手の凄み

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難易度を押し上げた要因
春の古馬マイル王決定戦である安田記念はシックスペンスが制し、GⅠ初制覇。2着はワールズエンドとガイアフォースの同着で決着した。
春のGⅠシリーズにおいて屈指の難解な一戦だった。2025年JRA賞最優秀マイラーのジャンタルマンタルの登録がなく、登録馬発表後にもマイラーズカップを制したアドマイヤズームが回避。登録段階では20頭だったが、最終的にはフルゲートを割れる17頭立て。様々なできごとによって流動的な状況にあったことも難易度を押し上げた。
加えて、当日昼過ぎから弱い雨が降り、馬場状態も読みにくくなった。勝ち時計1:32.1は当日の1勝クラス戦で記録された1:32.8と比べると物足りないが、ここにはペースと馬場の変化の影響もあった。確かに雨はさほど長い時間降っていなかったが、開催後半の馬場変化に少なからず影響があったのではないか。
安田記念も全体的に馬群は外に広がっており、どの馬も長めの距離を走ることになった。最短距離を通っていなかったことで時計はかかっており、馬場が生き物であることを示す。
武豊騎手の凄み
さらに頭を悩ませたのが展開であり、逃げ馬のペースだ。ワールズエンドの前走は前半600m34.1に対し、後半600mは33.4。後傾ラップのスローに近い。この馬の先手なら流れが淀む可能性はあった。
実際に予期せぬ伏兵の競りかけはなく、ワールズエンドが主導権を握り、前半600mは34.5。馬場を踏まえれば京王杯スプリングCと同程度の流れをつくった。遅い流れにもかかわらず、向正面では徐々に縦長の隊列になっていき、その時点で後ろから展開する馬たちにとって難しい形になっていった。
この縦長の隊列を形成したのは、シックスペンスの鞍上を務めた武豊騎手ではないか。スタートを決めたシックスペンスに対し、外からワールズエンドが先手をとりに行くと、すぐさま引く姿勢を見せる。そこから隊列をつくっていくなかで、シックスペンスは前に行きたがるような素振りをみせた。
シックスペンスは元々、やや気性の難しさを抱えた馬であり、フェブラリーステークスでは逃げの手に出るなど、前半を落ち着いてやり過ごすことに課題を抱えていた。そのシックスペンスに行きたがる素振りが見えたら、後ろはどうするのか。当然、追いかけるのは早計と考える。
ところが、武豊騎手はシックスペンスを巧みにコントロールし、脚を溜める形をつくらせた。ここが武豊騎手の凄さであり、恐ろしさ。シックスペンスへの固定観念をたった1回の実戦で覆してしまった。
そもそも、武豊騎手は当週火曜日までアドマイヤズームに騎乗予定だった。回避によって騎乗馬がなくなり、そこにシックスペンス陣営が騎乗を依頼した。最終追い切りでも騎乗しておらず、まったくのテン乗り。準備する時間はあまりに少なかった。この状況でシックスペンスを御してしまうのは、まさにレジェンド。このキャリアにして6年連続GⅠ制覇は敬服するしかない。
シックスペンスの底力
とはいえ、決してレースは一方的ではなく、最後は安田記念らしい力の入る攻防だった。
マイペースを決めたワールズエンドも止まらず、外からつかまえにきたシックスペンスに抵抗し、セイウンハーデス、パンジャタワー、ガイアフォースが襲いかかる。前のワールズエンドをとらえ、迫るガイアフォースを封じる。最後の一完歩で決めたのは痺れた。これがシックスペンスの底力だ。
デビュー3連勝でスプリングSを制し、その後も毎日王冠、中山記念連勝とGⅠ級の力がなければなし得ない経歴の持ち主。その後のダート転戦も含め、走りのバランスと精神面の課題が底力の発揮を阻んできたが、ようやく解放できた。さあ、この先はどんな道を歩んでいくのか。安田記念をきっかけにどこまでタイトルを上積みできるのか。楽しみにしよう。
またも2着だったガイアフォース
同着2着の一頭はガイアフォース。これで昨年の安田記念から、JRAのマイルGⅠで3回連続の2着となった。
マイルチャンピオンシップでは先行したが、今回は昨年と同じ中団から差す形をとった。展開を考えればよく差してきたといえるものの、勝利までは厳しかった。7歳でも衰えない活力は見上げたものだが、タイトルを手にする機会は少なくなっており、もどかしい。どうしたら勝てるだろうか。
もう一頭はワールズエンド。2走前にマイルのリゲルSで3番手から2着に入っており、距離が長いと判断するのは早計だったか。キャリアで3着以下は2回だけ。相手が強くなっても崩れないのは、能力の高さと展開を味方につけられるスピードとコントロールがあるからこそだ。
ただし、この結果によって、今後は当然マークされる立場に変わる。それでも相手を跳ねのけられるか。真価が問われる。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 世界への挑戦』(ガイドワークス)に寄稿。
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