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【オークス回顧】歴史を塗り替えたジュウリョクピエロと今村聖奈騎手 勝負を決めたラスト400mの胆力

2026/05/25 10:25
勝木淳
2026年オークス、レース結果,ⒸSPAIA

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JRA女性騎手初のGⅠ制覇

第87回優駿牝馬オークスは今村聖奈が制し、手綱を取った今村聖奈騎手、管理する寺島良厩舎、馬主の近藤健介氏ともGⅠ初制覇を達成。2着ドリームコア、3着ラフターラインズで決着した。

JRA女性騎手初のクラシック騎乗にして、優勝。今村聖奈騎手が決めた。クラシック初騎乗での勝利は熊沢重文騎手がコスモドリームでオークスを制して以来、38年ぶり。奇しくも同じオークスだった。

ジュウリョクピエロの勝利は今村聖奈騎手なしでは語れず、今村聖奈騎手のクラシック制覇はジュウリョクピエロなしでは語れない。人馬がすべてのちからをぶつけ、100%の競馬をつくりあげた共演だったといっていい。

まず、ジュウリョクピエロは今村騎手が戦前語っていたように気性的に難しい面を抱えており、パドックも鞍下に汗をかくなどイレ込み気味だった。パドックで騎乗する際も手こずっており、心配になるほど。正直、パドックで評価を下げたファンも多かっただろう。

はじめての競馬場で大観衆から注がれる視線はジュウリョクピエロにはいささか刺激が強かった。この興奮状態に今村騎手は落とされないよう必死だったという。これがかえって今村騎手のプレッシャーを逃してくれた面はあるだろう。


残り400mにかけた人馬の共演

そして、いよいよスタート。これまでジュウリョクピエロとコンビを組んできた今村騎手は、忘れな草賞でみせた爆発的な末脚を引き出すことに注力した。

それも抑えに入ると、反抗して引っかかる。あくまでジュウリョクピエロに主導権を握らせながら、位置を探していかないといけない。結果的に収まったのはラフターラインズの背後。D.レーン騎手の的確な仕掛けを見ながら進められた。

レースはトリニティが後ろを離し気味に逃げるも、1000m通過1:02.2のスロー。途中でリアライズルミナスが動いても、先頭を脅かすまでには至らず、比較的淡々と流れていった。結果的にラップが上昇したのは残り800mから。11.9-11.6-11.4-11.8と後半800m勝負の舞台になっていった。

好位のリアライズルミナス、ドリームコアが先頭を争うところにスウィートハピネスとラフターラインズが猛追し、その間隙をジュウリョクピエロが突いた。外をラフターラインズに塞がれる状況もあったが、極力外を回しすぎない今村騎手のエスコートが絶妙で、すべてはジュウリョクピエロの爆発力を活かすためだった。

直線に入ってライバルたちが仕掛けていくなか、進路を見定めつつ仕掛けを待つ。ゴーサインは残り400mから。800mの勝負所でラスト400mにすべてをかけた仕掛けが見事だった。周囲と同じく待たずに仕掛けて出ていたら、どうなっていたかわからない。

ラスト400mにジュウリョクピエロの力を集中できたのは、今村騎手の胆力あってこそ。そして、その400mで爆発的な末脚を繰り出し、ドリームコアの内に飛び込み、最後まで全力を出したジュウリョクピエロの類まれなる集中力も見逃せない。

パドックでのイレ込み、人を落とすエピソード、勝負所で湧き上がる見るものを驚かせるほどの底力。これらの要素はまさに父オルフェーヴルそのもの。ゴール前の爆発力も血統を考えると納得できる。色々やらかしたとしても、ここ一番で決める。これこそまさにジュウリョクピエロの魅力だろう。


飛野牧場とネームヴァリュー

生産したのは新ひだか町の飛野牧場。ダービー馬ロジャーバローズを生産した牧場として知られる。

ジュウリョクピエロの祖母ネームヴァリューは飛野牧場がアメリカから輸入したマジソンカウンティのお腹のなかにいた。飛野牧場で生まれたネームヴァリューは25年前のオークスに出走し、10着。このとき2着だったのが、今回ジュウリョクピエロの3着だったラフターラインズの3代母ローズバド。30年越しのバラ一族の悲願の前に立ちはだかったのがネームヴァリューの孫だった。ここにももう一つ物語が隠されていた。

ネームヴァリューはその後、船橋へ転出し、牝馬ながら帝王賞を制した。祖母が現役時代に見せた根性もジュウリョクピエロの向こうにみえた。

ネームヴァリューは飛野牧場で繁殖牝馬として供用され、その後、功労馬として故郷でのんびり暮らし、2年前に死亡した。ネームヴァリューが世話になった飛野牧場に恩返しとして送ったのがジュウリョクピエロだった。そんな想像を巡らせると、一層、今年のオークスは味わい深い。

騎手と馬の絆、調教師との師弟関係、強烈な馬運を持つ馬主、そして生産者の愛情と信念の賜物。このオークスは語り口が尽きず、こんなGⅠはそうそうない。


2026年オークス、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 世界への挑戦』(ガイドワークス)に寄稿。

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