【ヴィクトリアマイル回顧】エンブロイダリーが“完璧すぎる”競馬でGⅠ3勝目 父譲りのスピードと自在性光る

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ハイレベルな末脚勝負
春の古馬牝馬ナンバー1を決めるヴィクトリアマイルはエンブロイダリーが勝利し、GⅠ3勝目。2着カムニャック、3着クイーンズウォークで決着した。
終わってみれば1、2、3番人気での決着。馬券を買う側の評価と実績がストレートに結果に反映された競馬だった。勝ったエンブロイダリーは馬群に入れず、内も意識せず、出たなりから外目を通って抜け出しており、鞍上のC.ルメール騎手、自信の騎乗だった。
レースはスタートでアイサンサンが遅れをとり、内からエリカエクスプレスが楽々ハナへ。この時点で「勝負は前だ」と声が出た。で、前の布陣を見渡すと、エンブロイダリーが好位の外にいた。
ルメール騎手の読みは的確であり、恐ろしさすら感じる。ここ一番ではほぼ勝てるポジションを落とさない。アイサンサンがハナを狙えたとしても変わらないと読んでいたようだ。
というのもエリカエクスプレスは武豊騎手が競馬を教えていき、控える競馬もできるほど落ち着いて走れるようになっていた。かつてムキになってハイペースを演出していたとは思えないほどで、おそらくアイサンサンがハナを主張したとしても、引いて番手からペースをコントロールしていたはずだ。
エリカエクスプレスが刻んだラップは残り600mまで12.4-11.0-11.2-11.3-11.4。800m45.9はスローといっていい。最速を刻んだ地点からペースを上げないマイペースであり、この時点で勝負圏内は前から1/3頭に限られた。そこにきっちりつけたのがエンブロイダリー。ライバルに被されないコース取りといい、完璧すぎる競馬だった。
後半600mは11.1-11.2-11.3、33.6で決め手がなければ上位進出は許されなかった。エンブロイダリーより前にいた先行勢は逃げたエリカエクスプレスの4着が最高であり、ポジションだけではしのげない後半の攻防は文句なしのハイレベル。エンブロイダリーの上がり600mは33.0で、2、3着カムニャック、クイーンズウォークが33.1と瞬発力がなければ上位進出はなかった。
日本競馬界を支えた名血を未来へ
もちろん、エンブロイダリーの決め手は素晴らしいが、このレースを勝つには序盤で好位をとれるスピードが欠かせなかった。この序盤のスピードと自在性は父アドマイヤマーズ、その父ダイワメジャーの血だろう。
そこに後半に強い母系のビワハイジ牝系が混ざるという理想の血。ベストのマイルから動かない限り、崩れる場面は考えにくい。2000mをこなすなら、秋華賞のような序盤をいかせるコースがよさそうだ。
それだけアドマイヤマーズの血は武器。産駒は父が得意としたマイルに限らず、2000mやミクニインスパイアのように長距離でも勝てる。今年5/10まで全71勝で、逃げ先行が51勝。前につけると勝率は23.2%と圧倒的に高い。産駒の特徴はエンブロイダリーのレース振りそのもの。序盤で位置を狙える強みが昨今のスピード競馬にハマる。
それもこれもダイワメジャーの力。約20年前にマイルから中距離戦線で頂点を極めた名馬はスカーレットインクの一族の出身であり、エンブロイダリーはビワハイジ牝系とスカーレットインク牝系の交差点に立つ。
現代競馬につながる80年代、90年代、2000年代の血が大輪を咲かせるのも競馬のおもしろさ。エンブロイダリーにはこの血を未来につなげてほしいと願うばかりだ。
序盤の差が響いた2、3着馬
2着カムニャックは阪神牝馬Sに続き、またもエンブロイダリーをとらえきれなかった。通過順をみれば、すぐ後ろにつけていたが、序盤でつけられたエンブロイダリーとの1馬身が結果に響いた。とはいえ、マイル戦での立ち回りはこちらも完璧に近い。これだけの競馬をして2着に敗れては相手が悪かった。
こちらはダンシングキイ一族で、長く日本の競馬の発展を支えてきた牝系。エンブロイダリーと同じく牝系の貴重なつなぎ手だ。
3着クイーンズウォークは1、2着馬のすぐ後ろで流れに乗っており、結果的にポジションの差が着差に響いた。昨年2着で今年は3着。マイル戦だとどうしても勝てる位置をとれない。末脚勝負の東京ならマイルも悪くないが、本質は2000m。距離延長での巻き返しに期待したいところだ。
5着ココナッツブラウンはクイーンズウォークのさらに後ろにおり、勝負圏内に入るのは難しかったが、高速上がりを最後まで伸びており、実力は出し切った。全体時計も上がりもこの馬には速すぎた。昨夏、好走した北海道シリーズなら今年も主役になれそうだ。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 世界への挑戦』(ガイドワークス)に寄稿。
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