【きさらぎ賞回顧】予定外の“4日間滞在”を乗り越えて…大混戦を勝ち切ったゾロアストロの執念

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京都3泊4日のゾロアストロ
クラシックに向けた重要な一戦・きさらぎ賞はゾロアストロが勝利し、重賞初制覇。2着エムズビギン、3着ラフターラインズで決着した。
本来は8日(日)に行われる予定が雪で月曜に替わり、またぞろ雪の影響で火曜日になった。繊細なサラブレッド、それも仕上げ切った状態での順延は心身に影響が出る可能性は否めない。まして、きさらぎ賞はクラシックを目指す3歳馬の争いであり、さらに状態の維持が難しい。
同時に、ここでの賞金加算は4、5月にやってくる大一番に向かう上で分岐点。2着以内に入ると余裕をもって皐月賞へ進めるが、敗れればスケジュールの軌道修正を迫られ、さらに状態面のケアに苦心する。綱渡りのようなクラシック戦線では少しの狂いも許されない。集中力を維持するなかで、この順延はハードルをさらに上げた。
この難しいミッションをクリアしたのが、勝ったゾロアストロだ。ここには関東馬が3頭参戦していたが、ほか2頭は先に栗東に入厩しており、前日輸送で挑んだのはゾロアストロだけ。2頭は栗東滞在でレース当日を迎えたが、ゾロアストロは土曜日の到着から当日まで、京都競馬場で3泊4日と延泊を余儀なくされた。
慣れない環境でなかなか競馬がやってこない。さぞ勝手が違っただろう。それでも、当日の馬体重は前走比増減なし。この事実だけでも、付き添った厩舎スタッフとゾロアストロを労いたい気分だ。まして、きさらぎ賞を勝ち切った。レース自体も決して簡単ではなかった。
ゾロアストロは内面の強さをみせた。未勝利脱出後、サウジアラビアロイヤルカップ、東京スポーツ杯2歳ステークスと歩んだハイレベルな経験が心身を磨いていった。ここで結果を残せたのはなにより大きい。この先はひと息つける。
荒れたインと距離ロス
難しいレースだったと述べたのは、馬場とペースにある。
冬の連続開催後半は、芝も使ったなりに傷みが進む。この日も徐々に外伸び馬場にシフトしており、内は巧拙が出はじめていた。きさらぎ賞も外を攻める馬たちの勢いがよく、いちばん内を通って差し切ったのは価値がある。
もう一点。確たる逃げ馬がおらず、1000m通過1:02.2のスローペース。1000m通過後に13.0が刻まれるほど、ペースは一向に上がらない競馬だった。
ゾロアストロはスタートで後手を踏み、この枠から内に突っ込む形になった。力量が接近した各馬が手応えを残す展開では、そう簡単に外目へ進路をとれない。腹をくくって内へ入っていった。ラスト400mは10.9-11.2。荒れた内で速い上がりに対応してみせた。
一方で、着差は6着ゴーイントゥスカイまで0.3しかなく、スローペースらしい各馬が余力を残す横一線の激戦になったので、内を立ち回ったことで消せた距離ロスも大きかった。
鞍上のT.ハマーハンセン騎手にとっては、慣れ親しんだヨーロッパ文化に近い展開だったのもプラスに働いた。タイトな競馬ほど、内を選ぶ。彼にとっては常識的な作戦だったかもしれない。
血統的にも楽しみなラフターラインズ
2着以下は上記の通り大接戦。通ったコースや位置取りが決め手になった。
2着エムズビギンはしっかり序盤で好位をとらせ、下りに転じる4コーナー手前からじわりと加速していった。2番手前後を確保できたことで、ライバルたちに先んじて通るコースを選べる権利をもっていた。
最後は3着ラフターラインズをハナ差しのいだ。泥臭い粘り腰が光った。そして、このハナ差は将来において非常に大きい。
3着ラフターラインズはスタートで煽り、後方からの競馬。馬場がいいからといっても、スローを後ろから大外を攻めては厳しい。なるべく4コーナーまでは内を攻め、直線だけ外へ持ち出す工夫で上位に顔を出した。上がり最速32.8と力は存分に出し切った。ゲートさえ五分に出られれば違っていただろう。
父アルアインはディープインパクト産駒のなかでも持続力型で、さほど切れるイメージはなかったが、ロゼカラー牝系であり、潜在的な瞬発力を内包している。ディープインパクトとの融合は今後も楽しみだ。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『サラブレッド大辞典』(カンゼン)に寄稿。
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