【ターコイズS回顧】光った福永祐一厩舎の采配 ドロップオブライト、重賞2勝目の価値

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巧みな距離変化、ローテーションの妙
混戦の牝馬限定ハンデ戦はドロップオブライトが勝ち、重賞2勝目。2着リラボニート、3着ソルトクィーンで決着した。
単勝ひと桁人気は4頭に対し、単勝万馬券が2頭だけ。16頭立てのハンデ戦は例年通り、どこからでも入れそうな状況で幕を開けた。
控える可能性を示唆していたスリールミニョンはスタートが速く、結果的にハナへ。序盤の先行争いはさほどなく、隊列はスムーズに決まった。
序盤600mこそ34.7だったが、その後ペースは落ち着き、前半800mは46.5と平均より少し遅い流れになった。後半800mも同じく46.5。前後半が同タイムというマイル戦らしい精緻なラップ構成は、先行型に利をもたらす。好位から抜け出したドロップオブライトはこの秋のローテーションの妙も光った。
昨夏のCBC賞を勝ち、福永祐一厩舎の重賞初制覇を果たしたスプリンターはその後、スプリント重賞で苦戦を強いられてきた。今夏はゲートの不安も重なり、後方で流れに乗れず、最後に伸びて惜しくも敗れるという競馬が目立った。
この状況をみてとった陣営が思い切ってマイル戦に矛先を変えたのが、9月の京成杯オータムハンデ。強烈な行きっぷりで好位にとりつき、2着に粘った。前進気勢を取り戻すという意図の荒療治のようにも映ったが、これが同舞台のターコイズSへつながった。
京成杯AHでみせた力みは消え、好位で気分よく流れに乗って最高のリズムで運ぶことができた。距離の上げ下げを巧みに使いこなしたローテーションはさすが福永厩舎。騎手出身ならではの采配だった。
父母とも奥行ある血統背景
父トーセンラーはディープインパクトの初年度産駒。三冠を完走し、菊花賞3着など父の産駒らしく中長距離で活躍したのち、距離を一気に縮めたマイルチャンピオンシップでGⅠタイトルを手にした。
マイルから長距離をこなすオールラウンダー。トーセンラー産駒はこの勝利でJRA重賞5勝目となった。マイルから1800mで走ったザダル、1200mと1600mの重賞を制覇したドロップオブライト、さらに今年の中京2歳Sを勝ったキャンディードと多彩。産駒のデータをみても、早期活躍への期待や距離適性の幅などオールラウンダーぶりは健在だ。
トーセンラーの母であるプリンセスオリビアの一族はスピルバーグやブルーミングアレーも出し、日本に根づかせる一方、米国で出産したフラワーアレイは米国クラシック二冠馬アイルハヴアナザーにつながり、ラッキーライラックの母の父にも名を連ねる。活力を着実に後世に残す血統であり、ドロップオブライトもブルーミングアレー、ランブリングアレー親子とともにプリンセスオリビアの血を残してくれるだろう。
ドロップオブライトの母系は岡田スタッドがつないできた大切な血であり、スカーレットブルーにたどり着く。一族はトーセンジョウオー、クォークスター、ブルーリッジリバー、ブラックホール、ライラックと活躍馬を出し続ける。父母とも深い血統背景を持つドロップオブライトは、次の役割への期待も高い。
適条件で前進したリラボニート
2着はリラボニート。夏の札幌でオープン入りを果たした。前走はメンバーレベルが高い上に適性がやや異なるアイルランドトロフィー8着。重賞通用の力を証明していただけに、この2着はある意味で納得だった。
極端な瞬発力が問われない、ともするとトリッキーなコースに強く、中山マイルはうってつけの条件。願ってもない内枠が当たり、それを最大限にいかすインからの立ち回りも鮮やかだった。それだけに、勝っておきたかった競馬というのが正直なところ。これを落としてしまったことが今後にどう影響するのか、そんなことが気になるほどに完璧だったのではないか。
ソルトクィーンは今夏の函館から短距離を主戦場にオープン入りを果たし、重賞で距離延長ながら3着と好走した。総じて時計が少しかかる馬場に強く、父シルバーステートの傾向そのままだ。
マイル戦にメドを立てたことで、今後の選択肢が広がった。母の母バブルファンタジーはザッツザプレンティ、マニックサンデーの妹であり、その祖母バブルカンパニーはバブルガムフェローの母として有名だ。今年のターコイズSは、母系の奥行きを感じる馬が上位に入った競馬でもあった。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『サラブレッド大辞典』(カンゼン)に寄稿。
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