【カペラS回顧】勝ち時計1:08.6、5馬身差が示した価値 テーオーエルビスがダート短距離の頂に迫る

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スケールあふれるテーオーエルビス
師走名物のダート1200m重賞・カペラSはテーオーエルビスが勝ち、重賞初制覇。2着ヤマニンチェルキ、3着エコロアゼルで決着した。
ダートは芝と比べると世代交代が緩やかだ。経験を積み、最上位で安定した成績を残せるのは4歳秋以降であることが多い。そのなかでも短距離は比較的芝に近く、カペラSも3歳馬はテーオーエルビスを含め5勝。一気に重賞の壁を突き抜ける3歳馬は多い。
だが、過去4勝で、3歳馬が3着以内を独占した年はなく、今年は2着ヤマニンチェルキ、3着エコロアゼルとはじめて3着以内を占めた。若い世代のレベルは着実に上がっている。カテゴリーこそ違えど、ダート三冠が創設されたことと無関係ではないだろう。
事実、テーオーエルビスは2歳11月のカトレアSで羽田盃、東京ダービーを制したナチュラルライズと対戦し、3着に入っている。やはり根っこにはダート界の改革があるのではないか。
レース内容も非常にハイレベルだった。まず勝ち時計1:08.6はハコダテブショウが不良馬場でマークした1:08.4のコースレコードに0.2まで迫る好時計。稍重だったこの日は1800mのリステッド・師走Sが1:51.7であり、多少は速い時計が出ても、極端なスピードトラックではない。この状況で1:08.6は優秀な決着時計だ。
さらにテーオーエルビスが2着ヤマニンチェルキにつけた5馬身差はカペラSでの最大着差タイ記録。もう一頭は2014年のダノンレジェンド。その後は黒船賞、東京スプリントを連勝し、2年後にはJBCスプリントも制した。
一般的に着差がつきにくい短距離戦だけに、この5馬身差はテーオーエルビスのスケールそのもの。勝ち時計と合わせて考えれば、国内ダート短距離の頂点に大きく近づいたといえる。
価値を高める後半600m
レースは前半600m32.9。11.5-10.3-11.1と刻んでおり、ダートで10秒台を記録する急流だった。当然、このコースで32秒台とくれば、後半は失速ラップになるのが自然な流れ。
ところが、後半600mは12.0-12.1-11.6、35.7。失速が最小限だったのは、早めに先頭に立ったエコロアゼルが引っ張った分であり、残り200mで一気に突き抜けていったテーオーエルビスの脚力によるところが大きい。前半が速かったがゆえに速い決着時計になったわけではなく、後半で時計を引っ張った馬たちが強かった。
テーオーエルビスは上がり600m34.8を記録したが、このコースで上がり600m34秒台を記録して勝ったのは本馬含め8例。このうち3例がカペラSでのもの。
前例としては08年ビクトリーテツニーの34.8、18年コパノキッキング34.9があるが、どちらも4コーナー順位は二桁。4コーナーで7番手まで押し上げて記録したテーオーエルビスはハマった感がない。ちなみにレースレコードは08年ビクトリーテツニーの1:08.7。テーオーエルビスはそれも更新した。
外枠が響いたヤマニンチェルキ
2着ヤマニンチェルキは大外枠ゆえに道中も3、4コーナーも外を回された。テーオーエルビスは内からコーナーでの距離ロスも抑え、首尾よくレースを進められたが、こちらは終始外を回ったのも着差に影響した。勝ち馬の上がり34.8に対し、ヤマニンチェルキは36.0なので、完敗と言えば完敗だが、とはいえ、十分すぎる内容でもある。
母ヤマニンプチガトーの祖母はワンオブアクラインなので、ヤマニンサンパ、ヤマニンウルス、ヤマニンアルリフラと同じ一族。今年ブレイクした牝系のひとつだ。父フォーウィールドライブの産駒は12/7までにJRAで29勝をあげ、このうち19勝が1000~1200m、ダートが15勝を占める。ダート短距離に特化した血だ。
施行回数が多いダート短距離への強さは生産者にとって心強い。馬券を買う側もそんな産駒の特徴を頭に入れておこう。
3着エコロアゼルは早めにレースを動かし、後半のハイレベルな攻防にひと役買った。抜群の手ごたえで直線に向いた段階で、勝利も予感させたが、さすがに最後は甘くなった。
キャリア3戦目でブリーダーズCジュベナイルに挑戦した経験があり、森秀行厩舎らしい果敢なローテ―ションでここまできた。今回は馬体重12キロ増と、一段とパワーアップした感がある。今回みせたスピードが最大の魅力であり、今後もそれをいかせる条件で活躍を期待したい。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 伝説のグランプリホース』(ガイドワークス)に寄稿。
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