【エリザベス女王杯】「前崩れのオールカマーで粘って善戦」フェアエールングを本命視 穴にはセキトバイースト

山崎エリカ

2025年エリザベス女王杯のPP指数,ⒸSPAIA

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「先行馬 or 中団の外から動ける馬」に注目

過去10年のエリザベス女王杯には、共通するはっきりした傾向がある。それは、レース全体のラスト5Fが一貫して遅いという点だ。 3角手前の上り坂で一旦ペースが落ちて、そこからじわっと加速する形になっている。

この特徴は、馬場が軽い年でも重い年でも同じで、軽い馬場のときはラスト2Fでレース最速ラップが出るケースが多い。つまり、馬場が軽いときほど前目から押し切りやすい、ということになる。

今年は例年よりも1週遅い京都開催15日目、Bコース使用6日目の実施であり、「超」がつくほどの高速馬場ではないが、良馬場ならば高速馬場だろう。そのうえで後半5Fが遅いとなると、後方からでは届かないはず。

ただし、3~4角で中団内目を通すと、昨年のレガレイラのように包まれるリスクが生じる。そこで今回は、先行馬もしくは中団の外から動ける馬を中心に予想したい。

能力値1~5位の紹介

2025年エリザベス女王杯のPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 ココナッツブラウン】
デビュー当初から馬体重の二桁以上増減を繰り返している馬。馬体重が大幅に減った23年ローズSや4走前の斑鳩S(3勝クラス・京都芝1600m)では気難しさも見せて末脚が不発、馬券圏外に敗れた。

しかし、函館、札幌での滞在競馬では大きく体を減らすことなく、安定した成績を残せており、今夏も7月中旬から札幌に滞在して調整。2走前のクイーンS、前走の札幌記念ではそれぞれ小差の2着に健闘した。

クイーンSは4番枠からやや出遅れ、そこからコントロールして後方の中目で我慢。道中は後方馬群の最内で脚を温存し、3角手前では後方2列目の中目を選択した。

3角で内目に狙いを絞ってスペースを潰し、4角では最内に進路を取って中団まで押し上げて直線へ。直線序盤では3列目付近から進路を作り切れず、フェアエールングの後ろでやや仕掛けを待たされる場面があった。ラスト1Fで内目を捌き、最後は急追するも勝ち馬にはアタマ差届かなかった。

当時は高速馬場で、前後半4Fは46秒7-47秒6と緩みなく流れ、やや後方有利の展開。内有利の馬場&コースでもあり、展開と馬場に恵まれはしたが、最後の直線で詰まる不利がなければ勝っていた可能性は高かった。

前走の札幌記念は15番枠から出遅れ、無理をさせずに後方外目を追走。向正面でもコントロールしながら後方の外でレースを進め、アルナシームの後ろで3角に入る。

3~4角でも仕掛けを我慢し、4角でアルナシームの外に出し切って仕掛けて中団の位置から直線へ。序盤ではじわじわ伸びるが、まだ中団。ラスト1Fでしぶとく差を詰めて2着に上がったが、勝ち馬トップナイフには粘られて1馬身差で敗れた。

当時は超タフな馬場で、前後半5Fは60秒6-60秒9の平均ペース。1着、3着、4着馬は最内を立ち回った2桁人気馬だったように、やや内が有利の馬場だった中、本馬は終始外々を回るロスを作っての2着だった。

指数としても能力値1位であるように、ここへ来て地力をつけていることは確か。滞在競馬ではない点は不安だが、体重を減らさないようにやや間隔をあけての出走となる。調教後の体重発表は総じて当日よりも重いことが多いものの、発表時点で前走からプラスとなっており、枠も13番枠と良いことから警戒は必要だ。

【能力値2位 カナテープ】
今夏の関屋記念を優勝。レースでは14番枠から出遅れ、後方の外で脚を温存する形を選択。道中も後方の外で進め、3~4角で中目を通して直線へ。序盤で馬群の外に誘導するとすっと伸び始め、ラスト2Fで3列目付近まで上がると、ラスト1Fでもしぶとく伸び切ってクビ差で接戦を制した。

当時はコンクリートレベルの高速馬場で、前後半4F45秒5-45秒5の緩みない流れ。大逃げを打って10着に失速したシンフォーエバーが次走の中京記念で2着に巻き返していることを考慮すれば、前が厳しい流れだったと言える。ただ、本馬は後方有利の展開に恵まれてはいたが、それでも長くいい脚を使えていた。

前走のアイルランドTは、スタミナが不足しがちな休養明けかつ1Fの距離延長。好位の中目から勝ちに行く競馬をしたために、最後はラヴァンダにかわされ、内のアンゴラブラックも競り落とせず半馬身+クビ差の3着に敗れた。しかし、それでも崩れなかったのは地力強化を示す内容だった。

今回は前哨戦をひと叩きされての上昇が見込める一戦。芝1600m戦なら迷わず本命に推したいレベルだが、問題は芝2200mという距離でやれるかどうか。距離延長がプラスに出る要素が見当たらないが、良馬場で2走前の関屋記念のような末脚を活かす形なら、距離をこなせる可能性はある。鞍上がD.レーン騎手であるにもかかわらず、距離が嫌われて人気がないここは一考したい。

【能力値3位 レガレイラ】
昨年の有馬記念優勝馬。同レースでは8番枠からやや出遅れたが、じわっと挽回して中団中目を追走。かなりペースが遅かったので、好位の中目まで進出して向正面へ。下り坂でダノンデサイルがペースを引き上げると、それに付き合う形で3角に入った。

3角で内にいたスターズオンアースが失速し、4角で2列目の内を確保。4角出口でベラジオオペラの後ろから外に誘導して3列目で直線へ。外のシャフリヤールと一緒にじわじわ伸び、ラスト1Fでは同馬と併せ馬の形で逃げ粘るダノンデサイルを捉え、最後はクビの上げ下げをハナ差で制した。

当時は向正面が追い風で、スタンド前は向かい風の強風。高速馬場の中、前後半5F62秒9-57秒9のスローペースとなったが、ダノンデサイルが向正面の半ばから一気に仕掛けたことでラスト2Fでは11秒5-12秒1と減速しており、前に行った馬には苦しい展開だった。

内がやや有利な馬場で、外々から位置を押し上げて本馬と一騎打ちを演じたシャフリヤールの方がインパクトでは上回っていたが、当時記録した指数は今回の出走馬の最高値の中でトップだった。ただし、牝馬同士のここでは格が違うものの、有馬記念の次走・宝塚記念では11着に完敗したように、能力を出し切った次走で大きく崩れるという弱点が本馬にはある。

その宝塚記念は骨折による長期休養明けの一戦。ペースが速く、馬場も軽くはない状況で、大外17番枠から出遅れ、中団まで位置を挽回するのに脚を使ってしまった。結果、本来の末脚を引き出すことができなかった。負けるべくしての敗戦ではあるが、昨年も日本ダービー5着と善戦した次走のローズSでは末脚に甘さを見せ、敗れている。

今回は前走オールカマーで後方有利の展開に恵まれ、有馬記念と同等の好指数を記録した直後の一戦。この点に不安が残る。そもそも始動が9月のオールカマーであることから、今年も大目標は昨年同様に有馬記念であることを感じさせる。

今回、積極的に狙いたくはないが、芝2200mで上がりの速い決着は本馬にとってベストに近い条件。昨年のエリザベス女王杯では3~4角で中団内目に包まれ、さらに直線序盤では前が下がってブレーキをかける場面もありながら、3着争いに加わっていた。この内容を踏まえれば、軽視はできない。

【能力値4位 フェアエールング】
超高速馬場だったクイーンSで3着。2番枠からまずまずのスタートを切り、押し進めて好位の内目を確保。道中は好位の最内で進め、前のスペースを維持して3角に入る。

3~4角で前のスペースを詰め切ると、4角では2列目の最内で少し詰まる場面。直線序盤で何とか捌いて外に誘導して先頭に立つも、外から一気にアルジーヌとココナッツブラウンに前に出られると、2頭とは半馬身差の3着だった。

当時はやや後方有利(ココナッツブラウンの項を参照)の展開。最内を上手く立ち回ってはいるが、先行して、展開に恵まれた2着ココナッツブラウンと半馬身差だった点は高評価できる。

また、本馬は標準的な馬場だった1月の小倉牝馬Sなど、小倉や福島の上がりの掛かる重賞で結果を残している。ある程度、時計の掛かる馬場がベストの馬だ。

前走オールカマーはコンクリートレベルの高速馬場。逃げ馬不在で前半がかなり遅くなったため、上がりの速い決着を嫌って向正面で捲って先頭に立つ無茶な競馬だった。結果、最後に苦しくなって4着に失速した。

中山芝2200mの向正面はラスト5~6F付近の位置となるので、向正面で捲るのは明確に早仕掛けである。実際、レースは本馬の捲りによって先行馬が総崩れ。差し、追込馬が馬券圏内を独占する決着となったが、そんな中で展開に恵まれたレガレイラと0秒5差なら上々だ。

今回は逃げ馬エリカエクスプレスが出走しており、前走のような無茶な競馬をする必要がない。理想を言えばもっと時計が掛かって欲しいところではあるが、近走は前目の位置が取れるようになっている点は強みである。巻き返しに期待が高まる一戦で、本命候補に推す。

【能力値5位 ライラック】
阪神芝2200mで行われた2022年のエリザベス女王杯2着馬。同レースでは15番枠から出遅れ後、軽く促して中団で進めていたが、進路が狭くなったこともあり、控えて後方待機策を選択。道中は後方2番手の外で勝ち馬のジェラルディーナを徹底マークして進めた。

3角ではジェラルディーナの後ろからじわっと進出し、4角で同馬が仕掛けると、それを追って中団外まで上がる。直線序盤でしぶとく伸びて2列目付近。最後までジェラルディーナとの差は詰められなかったが、ラスト1Fでは先頭だったウインマリリンに並びかけて2着同着となった。

当時はややタフな外差し有利馬場。前後半は5F60秒3-60秒4と緩みなく流れており、展開と馬場に恵まれての2着だった。展開の後押しがあれば、それくらいは走れる馬である。

近走はクイーンS4着、アイルランドT4着と善戦しているが、クイーンSは洋芝、アイルランドTはかなりのスローで、いずれも走破タイムの遅い決着になってくれたことが好走要因だった。

本馬は時計の速い決着だと、追走が苦しくなって末脚が不発となることがあり、本来は芝1800mよりも芝2200mでこその馬。ただし、良馬場の場合は芝2200mでも馬券圏内に入るのは厳しいとみる。加えて、休養明けの前走アイルランドTで好走した疲れも懸念されるだけに評価を下げたい。


持ち味を活かせば一変の可能性 穴はセキトバイースト

セキトバイーストは3歳時に逃げてチューリップ賞2着、ローズS3着の実績馬。昨年の秋華賞は大外15番枠から押して行った結果、抑えが利かずにオーバーペースの大逃げとなり、13着に失速した。以降は逃げない競馬にシフトして、タフな馬場や前に行ってスタミナを活かす形で活躍。3走前の都大路Sでも圧勝している。

都大路Sは16番枠からまずまずのスタートを切り、余裕を持って先頭に立ったが、内の各馬が速く、好位の外に下がる形になる。向正面で少し流れが落ち着くと、じわっと2列目の外まで進出した。

3~4角では仕掛けを待ち、直線序盤で馬場の良い外に誘導すると、突き抜けて1馬身半差ほど抜け出す。ラスト1Fでリードを広げ、3馬身半差で勝利した。

当時はタフな馬場で前後半4F45秒5-47秒7とかなりのハイペース。逃げて6着に敗れたケイアイセナが、次走の巴賞で巻き返して勝利しているように、前が厳しい展開だった。本馬はその流れを早めに仕掛けて圧勝しており、古馬になってからさらに体力をつけた感がある。

前走のアイルランドTは休養明けで馬体重20㎏増での出走。さらに、コンクリートレベルの高速馬場でかなりのスローだった。道中で楽にハナを狙える状況下ではあったが、好位の外で溜め殺しする形での10着敗退。陣営からは「叩き台だった」という旨のコメントも出ていた。

今回は前走より明確に時計がかかると想定される。持ち味を活かした競馬をすれば一変するだけの能力がある。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ココナッツブラウンの前走指数「-21」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.1秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

《ライタープロフィール》
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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