【武蔵野S回顧】GⅠ級の力示した3歳ルクソールカフェ 兄に続く“府中マイルの鬼”へ覚醒の気配
勝木淳

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言い訳無用のハイレベルラップ
チャンピオンズCの優先出走権がかかる武蔵野Sはルクソールカフェが勝ち、重賞初制覇。2着コスタノヴァ、3着ビダーヤで決着した。ここ2年のフェブラリーS覇者がそろい、東京ダート1600mの重賞としてはハイレベルな組み合わせになった。設定はチャンピオンズCにつながる前哨戦だが、今年も来年のフェブラリーSへの道になる可能性が高い。
GⅠ馬2頭を圧倒したのは3歳ルクソールカフェ。大外枠を利して、好位外目を気分よく追走すると、直線であっさり抜け出し、3馬身半差。GⅠに王手をかけたという意見に賛同するしかない。
芝レースで飛ばしていたアサカラキングがダートでも先手主張。芝スタートで機先を制した。序盤600mは35.3、800m通過47.5。このコースの重賞としては平均的な流れだ。後半は12.2-11.9-11.8-11.8で47.7。ラスト600m35.5とほぼ前後半はイーブン。
どちらかに偏らないラップ構成は実力差を確実に映し出す。これを4番手から抜け、3馬身半差はGⅠ級だ。
ルクソールカフェの今後の課題
ルクソールカフェは元々、このコースで未勝利戦をレコードV。次走は中山でワンサイドとかつてサクセスブロッケンが出てきたころを思い出す無双ぶりをみせていた。3歳3月まで4連勝し、渡米。納得のケンタッキーダービー挑戦だった。
父アメリカンファラオは米国三冠馬。ケンタッキーダービーでは外枠からねじ伏せて勝利した。その後、37年ぶりの三冠馬に輝き、ブリーダーズCクラシックも勝った。種牡馬入り後はアメリカ国内での評価が落ちつつあったにせよ、これだけの産駒が日本にいる事実は大きい。
同じ父を持つ兄カフェファラオはフェブラリーS連覇、マイルCS南部杯と左回りのマイルで滅法強かった。ルクソールカフェの快勝は納得だ。一方で、カフェファラオは外から被されると嫌気をさすという弱点もあった。福永祐一騎手が工夫して乗りこなしていたのが懐かしい。
ではルクソールカフェには兄と同じような性質があるのか。正直、戦歴だけではわからない。4連勝中も3着に敗れたジャパンダートクラシックも内枠で揉まれたことがない。今回も大外枠から外目追走と理想的な歩みでここまで来た。
もちろん、スタートからスピードがあり、外から被せるような快足馬はそうそういない。だが、フェブラリーSとなれば、そうなる可能性も出てくる。まして内枠に入った場合など、どのような反応を示すか。その点は留意しておきたいところだ。
コスタノヴァ、出遅れ挽回も精神面がカギ
2着はコスタノヴァ。フェブラリーSを勝ってから連敗中。その原因のひとつがゲートで、今回も大きく出遅れてしまった。並の馬なら万事休すのところ、直線で猛然と追い込み、2着まできた。
やはり、ベストは東京だ。だが、東京だから2着まで来たわけで、このまま慢性的な出遅れが続くようだと厳しい。以前、取材で木村哲也調教師に伺ったときに、コスタノヴァは調教で行き出せば、真面目に走るものの、調教前には少し後ろ向きな面があると語ったことがあった。
牡馬は案外、こういった競馬に後ろ向きな馬は多く、なかなか時間がかかる。出遅れはコスタノヴァがそんな気持ちを表現したもののようにみえる。やはり簡単には治まらないだろう。
接戦の3着はビダーヤ。1、2着馬がGⅠ級だったことを踏まえると、未来は明るい。東海Sで連勝こそ止まったものの、有利とはいえない最内枠に入り、馬群をさばいて抜け出してきた。適距離は1400mではあるが、ハイレベルなレースラップだっただけに、マイル戦にもメドを立てた。
母サマーハはPOGでも人気の血統であり、シャケトラのイメージが強い。だが、ほかのきょうだいはサラーブとシハーブがダート中距離、ラスールが芝のマイル以下と実際はマイル前後に適性を持つ馬がほとんど。
父リアルスティールになり、さらにダート寄りに出た印象がある。シャケトラは父マンハッタンカフェであり、どうも父馬の適性を引き出す一族のようだ。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『もう一つの引退馬伝説2 関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)に寄稿。
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