【みやこS回顧】ダブルハートボンドがレコード&史上初牝馬V “道悪に強い”父キズナの血が輝く
勝木淳

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持続力の塊ダブルハートボンド
チャンピオンズCの前哨戦みやこSはダブルハートボンドがレコードV。2着サイモンザナドゥ、3着ロードクロンヌで決着した。
この日の京都は明け方から雨。それなりの雨量もあり、メインは不良馬場。水が浮く馬場は明らかに高速決着を予感させた。みやこSの枠順をみると、先行型が外枠に寄っていた。ハイペースもある組み合わせ。レコード更新の可能性がよぎった。
不良馬場でレコードを塗りかえるには強い先行型が必要だ。最後に時計がかかってしまえば、レコードには届かない。結果は1:47.5で決着し、レコード更新。番手から積極的に立ち回ったダブルハートボンドは掛け値なしに強い。
すぐ隣にいたレヴォントゥレットがハナを目指してくれたのも助かった。外のレイナデアルシーラは昇級のため、そこまで出足は鋭くなく、シゲルショウグンはハナまでは目指さない。
予想外に隊列が早めに整ったのも2番手外を確保したダブルハートボンドに味方した。ダブルハートボンド自身がレヴォントゥレットに競りかけるほどだったが、そこも上手く引き、流れをつくった。
12.1-11.0-12.0-11.9と序盤800m47.0はやや速かったが、そこから12.3-12.0と落ち着いた。一方で、そこからゴールまでは12.0-12.0-12.2なので、ダブルハートボンドはほぼ一定のスピードで走り切ったことになる。
この一定のスピードでゴールまで駆けられる持続力はダートの超一流馬には欠かせない素養だ。瞬時に加速はしないが、バテもしない。粘り強さというか、心肺機能の高さを示した競馬だった。みやこSを勝ったレース史上初の牝馬だったが、確かに牝馬らしからぬタフさがある。
キズナ産駒は道悪に強い
母は米国GⅠ馬パーシステントリー。ミスタープロスペクターのクロスを持ち、デピュティミニスターの血が入った日本の高速ダート向きの色が濃い。ダブルハートボンドのきょうだいを見ると、ディープインパクト産駒のパーシーズベスト、オブセッションは芝中距離で勝ち鞍をあげ、ダイワメジャー産駒ブレーヴジャッカルはダート1400mで2勝した。父の色を引き出す繁殖牝馬でもある。
つまり、ダブルハートボンドは父キズナの影響が強い。キズナ産駒の初年度から今年11/2までの馬場状態別での成績をみると、もっとも勝率が高いのは芝不良13.8%で、次が芝重13.1%、ダートのトップは不良12.9%。
もっとも、重や不良は施行回数自体が少なく、良も芝は10.8%、ダート10.7%と高く、全体的にアベレージが高い種牡馬だが、道悪に強い特徴がある。それも芝もダートも強い。個人的には逆境に強い種牡馬と呼んでいる。
超一流馬も輩出しているが、同期のエピファネイアと比べると、大物の出現数は多くない。総合力の強さを認める一方、物足りなさも感じる。そんなキズナが凄みを見せるのが道悪競馬だ。
不良のダートで6番人気以内なら【24-12-12-70】勝率20.3%、複勝率40.7%と好成績。ダブルハートボンドは3歳8月に既走馬相手にデビュー勝ちをして以来、負けたのは門別でのブリーダーズゴールドC2着だけ(良馬場)。かねてから高い素質の持ち主だったが、不良馬場によって一気に開花した。
展開ひとつだったサイモンザナドゥ
2着はサイモンザナドゥ。これで重賞連続2着。良、不良と馬場がまったく違う状況での好走であり、着実に重賞で通用する力を身につけてきた。今回はゴール前で目立つ脚色をみせており、こちらも高速ダートに強い。差し脚質ゆえ、届かず惜敗も多いが、展開ひとつだろう。
3着ロードクロンヌは序盤で置かれた分、追い込むも届かなかった。本来はもっと前にいけるので、休み明けの影響もあったか。とはいえ、サイモンザナドゥとそん色ない末脚を繰り出しており、新味をみせた。今後は流れに応じた位置取りで競馬できるだろう。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『もう一つの引退馬伝説2 関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)に寄稿。
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