【アルゼンチン共和国杯回顧】ミステリーウェイが絶妙ペースで逃走V スタミナ戦に持ち込んだ松本騎手の“決断”光る

勝木淳

2025年アルゼンチン共和国杯、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

絶妙なペース配分の逃げ

混戦のハンデ戦アルゼンチン共和国杯はミステリーウェイが逃げ切り、人馬ともに重賞初制覇。2着スティンガーグラス、3着ディマイザキッドで決着した。

東京芝2500mは得てしてスタミナを問う競馬になりやすいコースだが、それもスローペースになれば、話は変わる。どのコースもペース次第。瞬発力勝負を避けるには自らも厳しい道を歩まなければいけない。ミステリーウェイと松本大輝騎手は迷わずその道を選んだ。勝因はこの一点に尽きる。

スタートから中盤まで7.7-11.3-11.6-11.8-11.9-11.9とラップを刻む。2500m戦だと1、2コーナーでペースを落とし、向正面で息を入れる形もあり得るが、ミステリーウェイは落としすぎない。ずっと11秒台をキープしながら走っていく。

松本大輝騎手の精緻なラップ構成が平均的な流れをつくり、追いかけなかった後続勢も知らず知らずに体力を消耗していく。1000m通過は推定1:00.1。これ以上逸っても残せない。絶妙なペース配分だった。

後続が仕掛けにくい終盤手前で12.3-12.4-12.4-12.3とラップを落とし、ミステリーウェイにひと息入れさせた。ここでペースを落としても、後ろは間合いを詰めづらい。東京の長い直線を前にここで仕掛けるのは勇気が必要だ。その辺も見越してのペースダウンだった。

デビュー5年目の松本大輝騎手はアルゼンチン共和国杯前まで東京【0-0-1-17】(競走中止除く)。この日が今年初騎乗と経験は少ない。にもかかわらず見事なエスコートであり、相当研究し、考え抜いた作戦だったのではないか。


長期休養なく走るミステリーウェイ

終盤600mは11.5-11.5-11.6、34.6。決して速いラップではないが、勢いよく差を詰めてきた後続勢が最後の200mでミステリーウェイと同じ脚色になってしまった。スタミナ重視の流れをつくられ、体力を消耗してしまった証だ。

2着スティンガーグラス以外にミステリーウェイを差す機会はなかった。いかにして逃げ馬がレースを支配するのか。その教科書のようなレース振りだった。

7歳馬のアルゼンチン共和国杯優勝は史上初。ただ、8歳は昨年ハヤヤッコが達成しており、正反対のレース内容で2年連続ベテラン勢が勝利を収めた。セン馬の優勝もはじめて、騎手、調教師も平地重賞初制覇と初もの尽くしの競馬だった。

ミステリーウェイの7歳シーズンは冬の八坂Sから3着→2着→1着でオープン入り。春の御堂筋Sは後半1000mのロングスパート戦で最後1F12.8を残した。スタミナを前面に出したこの競馬が転機になった。夏の札幌ラストの丹頂Sでの大逃げはその自信のあらわれ。年齢を重ねて培った強みが重賞タイトルにつながった。

未勝利勝ちから2勝目まで約1年8ヵ月、3勝目までは約9ヵ月。じっくり諦めずに階段を駆け上がってきた。この間、半年以上の休養が一度もない。勤勉な姿勢は見習いたいほど。これからも個性派として、重賞戦線を沸かせてほしい。


外枠に泣いたスティンガーグラス

2着スティンガーグラスはゴール前の脚色は抜けており、言い換えれば、少し脚を余してしまった。ルメール騎手にしては珍しいが、大外枠から道中ずっと前に壁を置けず、外を回り続けた競馬を思えば、よく最後にひと脚繰り出せたともとれる。

もう少し馬の後ろで溜めをつくれれば、わからなかった。枠順に泣いた面はあり、重賞通用の力は示した。中山や札幌など直線が短いコースでじわっと動く競馬で力を出すタイプでもある。舞台替わりで見直したい。

3着ディマイザキッドは内で脚を溜める理想的な競馬から、直線で上手く外目に持ち出せた。最後に勝ち馬と同じ脚色になったのは、距離適性の差だろう。ベストは2000m前後とみる。ただ、スタミナを問う流れへの強さは示した。

父ディーマジェスティは持続力に特化した産駒を多く送る。その代表格がディマイザキッドだ。毎日王冠のような高速決着だと分が悪いが、時計がかかる馬場の中距離なら面白い。

4着セレシオンも運びは悪くなかったが、直線でディマイザキッドに前に入られるなど、進路の確保に手間取った。一瞬の鋭さがないのはハーツクライ産駒らしく、直線が長いコース向き。この先はしばらく得意コースでの適鞍がないのは悩ましい。脚部不安から立ち直りつつあるだけに、なおさらだ。

2025年アルゼンチン共和国杯、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『もう一つの引退馬伝説2 関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)に寄稿。

《関連記事》
【アルゼンチン共和国杯】結果/払戻
【アルゼンチン共和国杯予想印まとめ】4歳勢3頭に支持集中 “末脚強烈”ディマイザキッドが一歩リード
【アルゼンチン共和国杯】AIの本命はスティンガーグラス 「前走勝利の4歳」は複勝率55.6%