【アルテミスS回顧】瞬発力勝負で明暗分かれる フィロステファニが初重賞制覇、白毛マルガは伸びを欠く

勝木淳

2025年アルテミスS、レース結果,ⒸSPAIA

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心待ちにしていたマルガ

阪神JF、桜花賞へとつながる牝馬の登竜門アルテミスSはフィロステファニが勝ち、重賞初勝利。2着ミツカネベネラ、3着タイセイボーグで決着した。

母ブチコ、姉ソダシの白毛馬マルガが東京競馬場にやってきた。フジビュースタンド4階のパドックとスタンド側をつなぐ通路にはソダシのポスターが掲示されている。

この日、そこを通るたびに誰かがそのポスターの前に立ち止まっていた。一人でじっと見つめる方や仲間にソダシの現役時代のエピソードを語るファンもいた。みんな、ソダシの妹マルガの登場を心待ちにしていた。

メインのパドックは土曜メインとは思えないほどの人混みでごった返した。その視線はマルガに注がれた。ただでさえ目立つ白毛に血統の物語が上乗せされる。姉ソダシが走ったアルテミスSへの出走は、注目するなという方が無理だ。

なお、次の最終レースには兄カルパも出走した。陣営の粋な計らいというやつだ。マルガへの熱視線を少しでも次のカルパに移してはくれまいか。正直、この日の過熱ぶりを眺めながら、そう思ってしまった。


理想的ではあったマルガの逃げ

レコード駆けとはいえ、函館の新馬を勝ったばかりのマルガは、まだまだ幼いように見えた。パドックでは最後尾を歩かせ、たまに散漫になるような仕草があった。アルテミスSは通過点ではなく、経験を積む過程とみるべきだろう。

レースではスピードの違いでハナに立った。父モーリスはソダシの父クロフネと同じく持続力に長けた種牡馬であり、ハナに行ってマイペースを決める作戦は悪くない。前半800mは12.4-11.2-11.6-11.8、47.0。飛ばしてはいないが、遅くもない。

コーナーでペースダウンできており、走りは悪くない。逃げながら荒れた内を避け、馬場の真ん中を走らせた。武豊騎手も負担を強いないようできる限りのエスコートをしつつ、レースを進める。2、3番手ハッピーエンジェル、フィロステファニが深追いしなかったことも手伝い、理想的な運びにみえた。

後半800mは12.3-11.8-11.3-11.4、46.8。4コーナーで12秒台と息を整えてから最後のステージへ。次の11.8-11.3でマルガは伸びを欠いた。単騎で進め、前後半800m47.0-46.8だから運びは悪くない。東京特有の速い上がりに対応しきれなかったのは、まずはキャリアとみるべきだろう。

ソダシは2戦目の札幌2歳Sでユーバーレーベンのまくりに応戦し、かなり厳しい経験を積んでいた。マルガに足りないのは経験であり、今回見せたモロさは経験不足ゆえだろう。


馬場もマッチしたフィロステファニ

マルガがつくる適度な流れと中盤でしっかりペースを落とすラップ推移を巧みに利用したのが勝ったフィロステファニだ。序盤は馬群でやや反抗するような仕草も見せていたが、抜け出して3番手をとると、次第にマシになっていった。

最後の直線ではマルガの外に持ち出し、その手応えを冷静に見定め、残り200mでとらえに出た。上がり600mは2位の33.9。マルガと同じく新馬勝ち直後であり、幼い面もあったが、瞬発力の違いを示した。母はスキアであり、ソールオリエンスの妹。雨の影響を受けた適度に荒れた馬場もよかった。

アルテミスSは今年で14回目を数えるが、これまで良馬場12回。残る1回はココロノアイが勝った14年の稍重だけと、比較的天候に恵まれた重賞でもある。いやらしく降り続ける秋の雨が結果をわけた側面はある。フィロステファニは馬場も合っていた。

混戦向きのタイセイボーグ

2着ミツカネベネラは出たなりの外目を追走し、フィロステファニの真後ろをとった。目の前に目標がある絶好の位置につけたのが大きい。こうなれば、最後の進路はフィロステファニの外。馬場のいいところを走った。

母ナスカザンは米国GⅠ・3勝レイトブルーマーの系統。レイトブルーマーとは日本語で「大器晩成」。ミツカネベネラもこれから強くなるのではないか。

3着はタイセイボーグ。スタートで遅れ、後方追走。馬群の内側に入りながら、しぶとく伸びた。ダリア賞も出遅れながら2着に入っており、ゲートさえ通常ならと思わざるを得ない。

課題を抱えつつも、4戦1勝、2着2回、3着1回と崩れておらず、基本の能力値は高い。ゲート克服は今後の宿題になったものの、混戦向きの渋さがある。

2025年アルテミスS、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『もう一つの引退馬伝説2 関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)に寄稿。

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