【スワンS回顧】オフトレイルが示した進化 一躍マイルCSの有力候補へ

勝木淳

2025年スワンS、レース結果,ⒸSPAIA

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レコードを支えた内容の濃さ

マイルチャンピオンシップの前哨戦・スワンステークスはオフトレイルが勝ち、昨年2着の雪辱を果たした。2着はワイドラトゥール、3着ランスオブカオスで決着した。

2週間繰り上げられた前哨戦は、早くも本番につながりそうな予感がある。勝ち時計1:18.9は10年前にウリウリが安土城ステークスでマークしたレコードを0秒1更新した。

単にレコードだったからハイレベルとは言わない。この日の京都芝クッション値は10.8と高く、馬場は絶好の状態にあり、速い時計が計時されるのはなんら不思議ではない。ましてGⅠ前哨戦の古馬GⅡとくれば、レコード更新は必然にさえみえる。

問題はその内容だ。ワールズエンドがスタートを決め、外からアサカラキングが併せにいく。アサカラキングが並んだことで、ワールズエンドのスイッチが入った。

序盤600mは12.1-10.2-11.2で33.5。上り基調の序盤としては少々速かった。特に2ハロン目の10.2は2頭にとって最後に響いたといえる。

上りから下りに転じる中盤は11.4-11.5。全体的に息を入れられる区間ではなかった。先行勢もさほど離れず追走態勢を崩さなかったため、後半の加速に影響した。

そして、ラスト400mは11.2-11.3。上がり600mは34.0であり、前半と比較すると、ほぼイーブン。ある程度突っ込んで入り、中盤でペースダウンがなく、それでいて後半も速い。そんな落差のない競馬だったことがレコードにつながり、なおかつレースレベルを引き上げた。

後半のハイラップを引っ張りながら3、4着に踏ん張ったランスオブカオス、ウインマーベルはレコードの立役者であり、着順以上の価値を感じる。


進化がみえたオフトレイル

対して差した1、2着オフトレイル、ワイドラトゥールも決して恵まれたわけではない。

上記の通り全体的に緩むところがなく、つまり脚を溜めるような場面は差し馬にもなかった。まして前は11.2-11.3で粘り込もうとしており、これを4コーナーふた桁から差し切ったオフトレイルは見事だ。それも馬群の外を攻めながら上がり33.2を記録しており、ひと皮むけた感がある。

思えば、昨年のスワンSは猛然と追い込んで2着。その前は毎日王冠に出走しており、中距離仕様のまま結果を残した。その後はマイル以下で経験を積み、序盤の追走に余裕が生まれた。追い込みではなく、差しに脚質を変化させたからこそGⅡ勝利にたどり着けた。

3歳時はハイペースのラジオNIKKEI賞で追い込みを決めるなど、体力自慢ではあったが、スピード不足でもあった。これを補って結果を残し、かつハイレベルな戦いを制したことは自信につながる。

父ファーは4歳時にGⅠ惜敗を繰り返し、5歳でGⅠ連勝と覚醒。英国チャンピオンステークスを制した。その父ピヴォタルの産駒は距離適性の幅が広く、母系を引き出す血だ。

ファーも同様の傾向なら、オフトレイルも母の父キングマンボの影響を受け、最終的には体力とスピードのバランスに優れた馬といえる。軽い競馬ではなく、マイル戦のような持続力勝負で体力をいかせる。この勝利で平坦コースの成績は【4-4-1-0】。中5週のマイルCSに挑戦するなら、最有力候補だ。


可能性が広がるランスオブカオス

2着ワイドラトゥールはハイペースの愛知杯を優勝して以降はふた桁着順続きで人気を落としていたが、敗因はペースが合わなかっただけ。今回のようなスキがない流れになると、着実に最後まで脚を使い、上位争いに顔を出す。

さらに今回は人気薄らしく腹を決め、終始インを狙って抜けてきた。レース運びと適性がかみ合った2着でもある。ゆえに緩い流れだと人気に推されても、結果を残せないかもしれないが、今回のように流れがかみ合えば激走する。常に展開を読んで買いどころを仕留めたい。

3着ランスオブカオスは激流になったNHKマイルカップでも好位から5着に粘っていた。今回も同じ位置にいた馬たちとの競り合いに勝っており、能力値は極めて高い。

ハイペース耐性も高く、ハイレベルな戦いでこそ力を発揮する。オフトレイルと適性は近く、こちらは坂コースも苦にしないので、好走範囲は広そうだ。


2025年スワンS、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。

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