【京都大賞典回顧】7歳ディープモンスターが見せた“進化” 距離延長で光った新たな一面
勝木淳

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最高の形をつくれたサンライズアース
秋の京都開幕週に行われた伝統のGⅡ京都大賞典は7歳ディープモンスターが重賞初制覇を達成。2着サンライズアース、3着ヴェルミセルで決着した。
土曜の開催時間に雨が降り、芝は一旦、重馬場まで悪化。天候が回復した日曜日は稍重になったものの、東京と比べると、やや時計を要する状態だった。実際、芝のレースでは掘れるような場面もみられ、GⅠが続く連続開催の初週としてはそれなりにダメージがみられた。
今年はフルゲート18頭立てで、除外馬も出た。メンバーの中でGⅠ馬は2年前の菊花賞馬ドゥレッツァ1頭。GⅠ馬たちがそろって秋の始動戦に選び、馬券的にも非常に堅いレースだったのは過去のこと。近年は混戦模様であり、波乱もみられる重賞でもある。
かつての京都大賞典を知るベテラン勢は直感的に堅いと判断しがちだが、それも改めないといけない。その分、GⅠ挑戦権を獲得する戦いは些細なことや各陣営の戦略が結果をわける。
レースは阪神大賞典を勝ったサンライズアースの出方がカギだった。春は気を抜く面など難しさをみせ、未完成のまま阪神大賞典を勝った。気性面の難しさをのぞかせつつのパフォーマンスはその向こうにスケールを感じる。
さて、その気性面の改善はあったのか。今回は池添謙一騎手がスタートから先手を主張し、序盤でハミを掛けながら走らせ、気を抜かせない形をつくる。
序盤は12.8-10.9-11.6、35.3で入り、そこから12.1-12.7-12.5とペースを落とし、完璧に近い運び。さらに向正面で早めにドゥレッツァが外から並びに来たことで、サンライズアースは気持ちを切らさず集中したまま勝負所に入れた。
上りから下りに転じる後半800mは11.9-11.9-11.3-11.7。サンライズアースが残す展開だけに外を回って進出すると、伸びきれない競馬となった。
7歳でも進化するディープモンスター
サンライズアースがドゥレッツァを意識したことで、ぽっかり開いたインに飛び込んだのが勝ったディープモンスター。7歳にして重賞初制覇。かつてディープインパクト産駒は3歳でピークを迎え、その後は緩やかに力を落としていくと考えられていたが、晩年の産駒は当てはまらないのか。
勝利は5歳だった2023年11月アンドロメダS以来。3歳時はすみれSを勝ち、クラシック三冠を完走と若い頃から走り、その後もじわじわと復調していき、小倉記念、新潟記念3着と見せ場をつくり、ここにたどり着いた。
差し一辺倒だった時期を思えば、勝負の先行でインに潜り、我慢しながらタイトな馬群を縫ってきた。ここにきて進化を遂げた感すらある。
とはいえ、戦歴をなぞると、ディープインパクトらしさもみえる。ここ3走はすべて直線が平坦なコースであり、急坂があるコースと比べると、末脚は鋭く、しぶとい。
平坦でパフォーマンスを上昇させるのはディープインパクト産駒の特徴でもある。これまでは2000m中心だったが、いい位置をとり、流れに乗れた競馬ぶりをみると、いまは2400mぐらいがいいのではないか。
立ち回りが光った2、3着馬
2着サンライズアースはとにかく己との戦いが最大の課題。その意味でも途中でドゥレッツァが来て、併せる形になってくれたのは大きかった。そのドゥレッツァを競り落とし、外からきたアドマイヤテラも退けた。力はみせた。
母の母はハルーワソング。ハルーワスウィート一族に近く、この血統特有の持続力が武器。もう少しタイトな流れで見直したい。スローになりがちな長距離よりハイレベルな2400mに出走してくれば、面白いのではないか。
3着ヴェルミセルは15番人気の低評価を覆した。メンバー中唯一の牝馬だが、4勝はすべて牡馬相手にあげた。重馬場だった三陸特別では福島芝2600mを2:46.0、上がり37.5で押し切っており、タフな牝馬だ。
ダイヤモンドS3着の実績を考えると、ちょっと人気がなさ過ぎた感もある。一方で、道中はディープモンスターの背後をとり、勝負所まで終始インを回っていた。鮫島克駿騎手の徹底した穴馬としての立ち回りも好走要因だろう。
1番人気アドマイヤテラは4着。上位3頭はみんな内を立ち回るなか、好位から外を回った分、伸びを欠いた。流れをみれば、インに潜るのは厳しく、結果としてそうせざるを得なかった面はある。
ただ、3着だった菊花賞もだが、コーナーで押し上げていく形で加速していくと、最後に伸び負けるような面がみえる。鮮やかだった目黒記念のように直線まで待てる形がよさそうであり、コースや展開に左右されそうだ。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。
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