【セントウルS回顧】カンチェンジュンガが示した成長 好メンバー撃破で高まる期待と本番への課題

勝木淳

2025年セントウルSレース回顧,ⒸSPAIA

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ハイペースが引きあげたレースレベル

サマースプリントシリーズ最終戦であり、スプリンターズステークスの前哨戦でもあるセントウルSは、カンチェンジュンガが先に抜けたママコチャをとらえ重賞2勝目。2着ママコチャ、3着トウシンマカオで決着した。

終わってみれば、休み明けだったGⅠ目標の実績馬3頭が上位を占めた。もちろん、夏に力をつけた組との力差はあるとはいえ、こちらは3週間後に最大目標を控えており、状態面を上げていく途上にある。充実度がその実力差を埋めていく。

それでも実績馬の壁が高かったのは、レースラップの推移から紐解ける。内枠のテイエムスパーダに対し、ブリンカー装着のカルチャーデイが主張していき、序盤のペースは速くなった。11.7-10.5-10.8と10秒台を続け、前半600mは33.0。内回り3コーナーまでの距離がさほど長くない構造を考えると、かなり速い。

1986年以降でみても、阪神芝1200mの前半600m最速は2023年さざんか賞(2歳1勝クラス)で記録された32.6であり、セントウルSに限ると2014年(勝ち馬リトルゲルダ)の32.9に次ぐ2位タイ。タワーオブロンドンが勝った19年の33.0に並ぶ、6年ぶりの記録だった。

タワーオブロンドンはそのレースを1:06.7のレコードで制し、次走でスプリンターズSを勝った。スプリント戦では前半の速さがレースレベルに直結する。今年の「33.0」も、このレースがハイレベルだったことを物語る。


進捗著しいカンチェンジュンガ

前半のタイトな流れがレースレベルを引き上げ、上位争いを演じるハードルを高めた。重賞ウイナー3頭が上位を占めたのは、レベルの高さゆえのこと。最後までしっかり脚を使える馬は限られていた。

レース後半は11.0-11.4-12.0の34.4。最後の200mで失速し、それを差し切ったのがカンチェンジュンガ。流れに恵まれた側面はみえるが、上がり最速33.1での差し切りは地力がなければできない芸当だ。

道中はインに潜り、後方でしっかり脚を溜めた。3~4コーナーもロスなく内を攻め、直線に入って外へ出てきた。開幕週の馬場を読み切った川田将雅騎手の好アシストといえる。

また、カンチェンジュンガも揉まれる競馬ながら集中力を切らさず、闘志を内に抑え込みながら走ることができており、気性面の成長を感じる。外を回ってどこまで伸びるかという競馬から脱却しつつある点は見逃せない。1200mで鋭く伸びた点も大きく、本番につながる。

とはいえ、近年のスプリンターズSは内を回ってくる先行勢に優位な馬場状態になる年が多い。本番では特殊な馬場への対応力が求められる。


松若風馬騎手の“粘らせる力”

後半で失速していくステージだったことを考えれば、ママコチャの2着は立派。相変わらずセンスの塊のような馬であり、今回も好発から先手を主張する馬たちをやり過ごし、その背後のインで脚を溜め、前の脚色をみながら抜けてきた。常に崩れない競馬ができるセンスはまだまだ健在だ。

ただ、どうしても目標になってしまうという弱点はついて回る。今回も残り200mでかっこうのターゲットになった。休み明けの身には少々ペースが厳しかった面はあり、これを使ったことで今度はもう少し粘れるのではないか。一方で、最近は休み明け好走、間隔を詰めた本番でそれを下回る結果に終わることも多く、今回も3週間の調整がカギになりそうだ。

3着トウシンマカオは内枠をとれた2頭に対し、7枠14番という枠順が響いた。道中も外を追走し、勝負所も外と、馬場を考えるとかなり不利な形だったことは確か。とはいえ、馬群に入れるよりも外からねじ伏せるような競馬で末脚を引き出せる馬であり、この形がベスト。当然、本番の馬場バイアスはトウシンマカオにとっても大きな壁となる。

また、休み明けながら馬体重が14kg減だったのも気になるところ。休み前は6kg増の486kgだったため、絞れたものだとも解釈できるが、その京王杯スプリングカップはレコードV。果たして太めだったのか。

4着はテイエムスパーダ。この好走で松若風馬騎手がサマージョッキーズシリーズ優勝を決めた。先頭でリズムをとらないともろい面があったが、今回はカルチャーデイにハナを譲っても、直線で粘る姿勢をみせた。以前からみられたが、この夏の松若騎手の“粘らせる競馬”は随所に際立っていた。この技術はぜひとも馬券の味方につけたいところだ。


2025年セントウルSレース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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