【新潟2歳S】ハープスターが直線で17頭をごぼう抜き 未来の桜花賞馬と皐月賞馬が激突した2013年をプレイバック
緒方きしん

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新潟が誇る出世レース
今週は新潟2歳Sが開催される。近年はアスコリピチェーノやセリフォスら、のちのGⅠ馬が制した出世レースだ。今回はハープスターやイスラボニータといった翌春のクラシックホースを送り出した2013年を取り上げ、当時の戦いを振り返る。
新潟2歳Sは2007年頃を境に、エフティマイアやセイウンワンダー、マイネイサベルなどクラシック戦線での活躍馬を輩出し、出世レースとしての地位を確立しつつあった。さらに、2011年は、2着だったジャスタウェイをはじめ、ダローネガ(4着)やトウケイヘイロー(7着)ら敗れた馬たちも後に重賞戦線で台頭し、注目度は年々高まっていった。
そして、2013年の主役はハープスター。新馬戦は余力を残して上がり最速での圧勝というレースぶりで、その素質には早くも注目が集まる。祖母は桜花賞、オークスを制した二冠牝馬ベガで、アドマイヤベガやアドマイヤドンといったGⅠ馬を送り出した名繁殖牝馬でもある。そのベガの一人娘ヒストリックスターから誕生したのがハープスターであり、血統背景からもファンの期待は大きかった。
ライバルも多士済々。ダウトレスやマイネグラティアら上位人気馬のほか、ウインフェニックスやモズハツコイ、マーブルカテドラルなど、その後、世代重賞で好走する素質馬が集結した。特に、当日4番人気に支持されていたイスラボニータは、スローペースの新馬戦を中団から力強く差し切っており、タイムこそ平凡だったが内容の濃いデビュー勝ちを飾っていた。
直線だけで17頭を抜き去る
18頭立ての一戦は、多くの馬が出脚のつかない、ばらついたスタートとなった。内枠のイスラボニータがデビューから2戦連続の出遅れで最後方に置かれたかに見えたが、8枠17番からやや出遅れた1番人気のハープスターがスルスルと一番後ろにまでポジションを抑える。
一方、前ではマーブルカテドラルやアポロムーンらが積極的な先頭争いを演じていたが、隊列が決まると、そこからは膠着状態に。イスラボニータはややポジションを上げ、道中12番手付近を追走していたが、ハープスターは最後方から動くことがないまま、最後の直線へと入る。
直線序盤では、イスラボニータが内から馬群を縫って先頭集団を射程に入れるなか、ハープスターはまだしんがり。新潟の長い直線をもってしても後ろ過ぎるのではと、観衆がざわめく。
残り2ハロン付近でも、ハープスターの前にはまだ17頭。しかし、馬場の外めから川田将雅騎手がゴーサインを出すと、そこからはひとり舞台だった。1頭、また1頭と抜き去っていく。他馬とは次元の違う脚色に、スタンドが大きくどよめいた。
最後は、先頭争いをしていたイスラボニータ、ピークトラム、マーブルカテドラルらを並ぶ間もなく交わしてフィニッシュ。2着イスラボニータには3馬身差をつけていた。
上がり3Fは32秒5。次点のウインフェニックスが33秒3だったことからも、その末脚の切れ味は際立っていた。現地だけでなく、中継画面を見守るファンからも驚きの声が聞こえてくるような、圧倒的な走りだった。
1番人気馬の勝利と、馬券的には比較的平穏な決着だったが、2着のイスラボニータが4番人気、3着のピークトラムが6番人気だったことで馬連(1,640円)や三連単(31,910円)はまずまずの配当に。イスラボニータのその後の活躍を思えば、むしろオイシイ馬券だったといえる。また、2着-3着のワイドが2,360円もついた点も見逃せない。
新馬7馬身差Vのリアライズシリウス登場 今年も素質馬が集結
2013年の新潟2歳S組は、その後も競馬界を大いに盛り上げる。2着のイスラボニータは、新潟2歳S以降、4連勝で翌春の皐月賞を制覇。父フジキセキに念願のクラシック勝利を贈った。さらに、次走の日本ダービーでも2着に好走している。
そしてハープスターはというと、暮れの阪神JFはレッドリヴェールに敗れての2着だったが、年明けにはチューリップ賞、桜花賞を連勝してクラシックホースに輝く。
オークスではヌーヴォレコルトにクビ差で敗れて二冠達成とはならなかったが、凱旋門賞への壮行レースとなった札幌記念ではゴールドシップとのマッチレースを制して渡仏。凱旋門賞では道中の位置取りから難しいレースとなったが、それでもトレヴら海外の名馬たちに喰らいつく、日本馬最先着の6着に健闘した。引退後は母として、現役の3勝馬ライラスターらを送り出している。
翌春の皐月賞馬と桜花賞馬が激突した伝説の一戦として、今でも語られる2013年の新潟2歳Sだが、今年も、負けず劣らずのタレント揃いで名勝負への期待が高まる。
デビュー戦で出遅れを挽回し、鋭い末脚で4馬身差をつけた牝馬サンアントワーヌ、逃げながら上がり最速の7馬身差で圧勝したリアライズシリウス、東京のマイル戦を上がり33秒9で制したサノノグレーターなど、新潟の長い直線でも素晴らしいパフォーマンスが期待できる素質馬が並ぶ。今年の夏、そして来春のクラシック戦線を盛り上げる存在となりそうだ。
《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、セイウンワンダー、ドウデュース。
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