【札幌記念】エアグルーヴがジェニュイン蹴散らし独壇場 秋の活躍を予感させた1997年をプレイバック

緒方きしん

プレイバック 1997年 札幌記念,ⒸSPAIA

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GⅡ昇格初年度に参戦した皐月賞&オークス馬

今週は札幌記念が開催される。平成初期にはメジロパーマーやホクトベガらが勝利。2000年以降にはヘヴンリーロマンスやアドマイヤムーン、ソダシやといった馬が勝利している。

札幌の夏を彩る重要な一戦であると同時に、多くの名牝が勝利してきた一戦でもある。今回はそんな中から1997年の一戦をピックアップして当時のレースを振り返っていく。

1997年の札幌記念は、前年の牝馬三冠路線を盛り上げたオークス馬エアグルーヴが参戦。鞍上はここ4年で札幌記念2勝(ナリタチカラ、マーベラスサンデー)の武豊騎手だ。

エアグルーヴは前年の秋華賞で右前脚を骨折し、休養していたが6月の復帰初戦のマーメイドSを危なげなく完勝していた。札幌記念は万全の状態で乗り込んできたと見られ、単勝オッズは1.8倍と圧倒的なものとなった。

エアグルーヴ陣営が最も意識していたのが、一世代上の皐月賞馬ジェニュイン。3歳時は皐月賞勝ち以外にもダービーや天皇賞(秋)で2着、古馬となってからはマイルCSを勝利し、前走の安田記念でも2着に好走するなど、古馬として上位の実績を残していた。

ジェニュインとの勝負で、エアグルーヴと古馬の一流牡馬との力関係を見極められると考えられていた。ジェニュインの単勝オッズは2.8倍。2強対決として札幌の競馬ファンたちは大いに盛り上がっていた。

他にも函館記念を制したアロハドリーム、エアグルーヴと同期の秋華賞2着馬エリモシック、重賞3勝馬ナリタキングオーなどが参戦。

騎手も的場均騎手や岡部幸雄騎手、松永幹夫騎手など一流騎手が勢揃いしていた。札幌記念はこの年からGⅡに昇格。その記念すべき初年度に相応しい豪華な人馬が集まっていた。

強豪牡馬を圧倒 秋の頂上決戦に向け好発進

ゲートが開くとメジロスズマルが好スタートを切る。前年の札幌記念では逃げて4着に粘った実力馬だが、そのメジロスズマルを外から追い抜いたのが、激しいアクションで先手を主張したウインドフィールズだ。

また、エアグルーヴと同期の秋華賞4着馬レインボークイーンも先行する構えを見せ、スタートから激しい攻防が繰り広げられた。そんな中でエアグルーヴは先行勢を見る形で、中団やや外の絶好ポジションを確保。その後ろにジェニュインがエアグルーヴをマークする形で付けた。

最初のコーナーに入る頃にようやく隊列が決まり、レースが落ち着く。すると間髪入れずに動いたのは、武豊騎手とエアグルーヴだった。

少しペースの落ちた向正面でポジションを上げていくと、2番手集団が横に3頭広がっていたこともあり、一旦はエアグルーヴもそれ以上の進出を抑えた。

しかし3、4コーナーに差し掛かると武豊騎手は再び進出を開始。楽な手応えで上がっていく。それに合わせてジェニュインも進出を開始する。しかしエアグルーヴとは違い手応えが悪いのか、鞍上の岡部騎手の手が激しく動く。エアグルーヴは直線入口では内に3頭を置きつつ、外から先頭に並びかけようとしていた。

直線に入り武豊騎手が鞭を一発入れ、ゴーサインを出すとエアグルーヴは一瞬で加速。先行勢も飲み込まれないように粘るが、残り200m付近でエアグルーヴが先頭に立つと、あとは彼女の独壇場だった。

内から抵抗を試みたアロハドリームはあっという間に引き離され、外から追い込んだジェニュインとエリモシックは併せ馬の形で必死に前を追うも2着争いまで。

最後はエアグルーヴが2馬身半差をつけ完勝した。GⅡ初年度は1番人気エアグルーヴ→4番人気エリモシック→3番人気アロハドリームという平穏決着となり、2番人気ジェニュインは4着に敗れた。

しかし4番人気以内での決着とは言いつつ、エリモシックは単勝17.6倍と少し離れた人気だったため、馬連は11.6倍、枠連は11.7倍と意外に好配当となった。それだけ4着に負けた2番人気ジェニュインへの信頼も高かったのだろう。

桜花賞馬ステレンボッシュが復活の勝利なるか

札幌記念を完勝したエアグルーヴは秋初戦に天皇賞(秋)を選択。前年の勝ち馬で同期のバブルガムフェローなど強豪が参戦したレースで、見事にエアグルーヴは15頭の男馬を蹴散らし、秋の盾を制した。

その後、牝馬ながらジャパンカップと有馬記念にも参戦。2着、3着に好走して1997年の年度代表馬に選出された。

エアグルーヴは引退後も繁殖牝馬として大活躍。子供世代からはアドマイヤグルーヴ(エリザベス女王杯連覇)、ルーラーシップ(QE2世C勝ち)などGⅠ馬を輩出した。

また孫世代からはダービー馬ドゥラメンテ、ローズS勝ち馬アンドヴァラナウトらが活躍、ひ孫世代からはローシャムパーク、ミッキーファイトらが活躍している。

今年の札幌記念にも桜花賞馬ステレンボッシュが出走。ステレンボッシュは前々走の大阪杯では大敗を喫しているが、エアグルーヴも秋華賞での大敗を乗り越え復活を果たしている。

ステレンボッシュの母の父はルーラーシップ。その母として流れるエアグルーヴの血が札幌で覚醒することに期待したい。

《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、エアグルーヴ、スペシャルウィーク、ドウデュース。

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