【レパードS回顧】父譲りのスピードを武器にドンインザムードが父子制覇 夏競馬攻略のヒントも発見
勝木淳

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不良馬場に対応できなかった上位人気馬たち
秋のダート三冠、ラスト一冠に向けた戦い・レパードステークスはドンインザムードが制して重賞初制覇。2着ルヴァンユニベール、3着ヒルノハンブルクで決着した。
渇水が心配された日本列島に恵みをもたらせた雨だったが、一気に降りすぎたため、災害級になった。どうも最近の天候はいい塩梅になってくれない。極端な気候との付き合い方の難しさを思い知らされる週末だった。
新潟も朝から雨が降り続き、ダートは競馬が再開されるタイミングで不良馬場。水が浮くほどの厳しいコンディションになった。道悪ダートの巧拙はスピードの有無につながる。キャリアが浅い3歳同士とあってはスピードがどれほどあるか横の比較が難しい。
1番人気ヴィンセンシオは芝の重賞2着の実績がスピードと関連づけられたが、結果は7着。ゲートを出てややバランスを崩し、道中はまともに泥をかぶる形になった。とはいえ、最後はジリジリと伸びており、ダートの走り自体は悪くない。初ダートで重賞、さらに道悪とあっては条件が悪すぎた。
2番人気ルグランヴァンは重の東京ダート1600m2勝クラスで1.34.4の1着、後続に0.3差とデータ的にもぴったり。スピードの根拠もそろっていたが、勝負所で後退し、14着に沈んだ。新潟のコーナーが合わなかった印象がある。
3番人気ロードラビリンスも2勝クラスを突破した実績とダート重・不良【1-1-0-0】。もちの木賞1.51.6とスピード勝負にも対応可と思われたが、結果は10着。見せ場をつくれなかった。
父アジアエクスプレス譲りのスピード
スピード重視の上位人気勢がそろって敗れ、勝ったのはドンインザムード。不利があったもちの木賞6着など強調材料を欠く一方、内枠を利して好位のイン3番手確保と新潟ダート1800mのベストポジションを確保できた。
父アジアエクスプレスは11年前のレパードSで1.50.4を記録して快勝。当時は稍重だった。その2走後にはアンタレスSで1.49.7(良)2着とダートの高速決着に強かった。親子制覇を決めたドンインザムードにとって、時計が出る馬場はむしろ歓迎だった。
この見落としは個人的に痛かった。ドンインザムードはこの春、ドバイのUAEダービーに挑戦して3着。敗れたアドマイヤデイトナとの再戦が楽しみだ。
1000m通過1.01.3は不良馬場を踏まえると、平均的な流れだったが、いかんせん上がりが速かった。特に直線部分のラスト400mは12.2-12.0と速く、差し馬勢はお手上げ状態。この区間でしっかり伸びたドンインザムードの道悪適性はかなり高い。
夏競馬終盤、攻略のヒントとは
2着は伏兵ルヴァンユニベール。当日の馬体重は10kg増え、560kgの超大型馬。角度のキツい新潟のコーナーでもたつく恐れがあったが、実際は内目を立ち回り、3、4コーナーで順位を上げるなど予想以上の走りをみせた。
とはいえ、スタート直後は好位の後ろで出ムチが入るなど、大型馬らしい反応の遅さは示していた。この辺をカバーし、最後も狭いところをこじ開けるように抜け出すなど、ダートの大型馬を動かすことに長けた内田博幸騎手の真骨頂のような競馬だった。
ただ、かなり厳しい競馬をしたのは事実であり、反動が少し気になるところではある。キャリアが浅いゆえ、競馬に対してネガティブな感情を抱かなければいいが。
3着ヒルノハンブルクはユニコーンSで先行策を試したことが好走につながった。基本は先行勢が優位な新潟ダート1800mで不良馬場とくれば、先行は必須条件だった。
ドンインザムードに抵抗をし、最後はルヴァンユニベールを差し返そうとしており、肝の据わった根性を感じる。この闘争心は母の父ステイゴールドの影響もありそうだ。今回のような立ち回りなら、この先もまだまだ楽しめる。
結果として上位3頭はすべてプラス体重での出走だった。昨年までの過去10年で馬体増は【8-3-7-61】勝率10.1%、複勝率22.8%。馬体減が【2-2-1-40】勝率4.4%、複勝率11.1%のため、まるで違う。パワーが試されるダート競馬では馬体増は欠かせない。
さらに夏場はアスリートにとって体重維持が難しい季節。普段通り調整すると体重はみるみる減ってしまう。この時期にしっかり調教した上で、体が増えるのは気力が満ちている証であり、内臓の状態もよく好調のサイン。レパードSに限らず、夏の体調を推し量る指標としても使える。
夏競馬も後半に入っており、そろそろ夏の疲れがあらわれるころ。その見極めは後半戦攻略のカギになる。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。
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