【アイビスSD回顧】歴代最速“上がり31.3”の衝撃 ピューロマジックが見せた新境地

勝木淳

2025年アイビスサマーダッシュ、レース結果,ⒸSPAIA

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カルストンライトオが築いた“不滅”の記録

サマースプリントシリーズ第3戦・アイビスサマーダッシュはピューロマジックがレコードタイの53.7で勝利。重賞3勝目をあげた。2着はテイエムスパーダ、3着はウイングレイテストで決着した。

新潟芝直線1000mのレコード53.7は2002年の第2回アイビスサマーダッシュでカルストンライトオが記録した。その後、馬場状態や競走馬のスピード能力が飛躍的に向上しても、破られない。何気に不滅の記録ではないかとすら感じていた。

なぜなら当時のレースラップは12.0-9.8-10.2-9.6-12.1と序盤と中盤に9秒台が2度も入っている。いかに逃げたカルストンライトオのスピードがぶっ飛んでいたかがわかる。これを上回れというのは、スピードの限界の向こうへいくようなものだ。ゆえに不滅ではないかととらえた。

今年も記録はレコードタイ。53.7を上回ってはいない。だが、肩を並べたのは特筆すべきだろう。53.8はアイビスSDでも11年エーシンヴァーゴウ、18年ダイメイプリンセスが2度記録しており、「0.1」の壁が高かった。

レコードタイの価値

カルストンライトオから23年、ようやく並ぶ記録が出た。勝利したのはピューロマジック。国内では葵S、北九州記念を逃げ切るなどスピードを全面に出す形を得意としていたが、心身の成長と海外遠征がきっかけとなり、ドバイのアルクオーツスプリント(GⅠ)では差す競馬を展開し、5着。進化の兆しがみえた。

この日も通過順は11番手。ルメール騎手は自信をもって控える作戦を選択した。ピューロマジックも気負うことなく、中団で流れに乗り、抜群の手応えで勝負所を迎えた。直線競馬は「外が内、内は外」。赤帽子のピューロマジックはごった返す外の馬群に入らず、真ん中よりやや外寄りを通り、スムーズに進路をクリアにしながら、仕掛けのときを待った。

開幕2週目の新潟芝は外ラチ沿いだけがいいわけではなかった。ドバイの経験もあったが、やはり特殊コースである直線競馬がピューロマジックのスピード感覚にハマった。押し引きの非常に少ないコースはかえって脚を溜めやすかったようだ。

繰り出した末脚、後半600mタイムは31.3。新潟直線1000mでこれより速い上がりタイムを記録した例はない。22年の韋駄天Sでルッジェーロが31.4を記録したが、結果は5着まで。どん尻から末脚に賭ける競馬だった。ピューロマジックは勝負圏内に入り続け、メンバー中最速で勝ち切った。この上がり600m31.3の価値は非常に高い。

さて、今後は当然、1200mで期待がかかる。コーナーも多少の押し引きにも対応しないと、スプリントチャンピオンの座にはつけない。ピューロマジックの今年に入ってからのレース内容を線でとらえたとき、その可能性はみえてくるだろう。着実に逃げ一手ではなくなってきた。

母メジェルダの産駒は23年の韋駄天Sを勝ったメディーヴァル、現オープン馬・バグラダスと気性面で難しさを抱えるタイプが目立ち、前進気勢が強めの一族だが、年を重ねるにつれ、控える競馬も可能になるという特徴もみえる。ピューロマジックの脚質転換は血統の特性でもある。

直線競馬への適性を感じるデュガ

2着テイエムスパーダは新潟直線【1-1-1-0】。アイビスサマーダッシュは3→2着。前走韋駄天Sも含め、年を重ねながら成績を上昇させるのは「偉い」のひと言だ。元々は3歳時にCBC賞で1:05.8を叩き出したスピード型。押し引き無用の直線競馬への適性は高い。反面、1200m以上では見事に止まってしまう。買い時が限られるため、今後は実績で評価せず、冷静に見極めよう。

3着ウイングレイテストは昨年の2着馬ながら10番人気と評価を大きく下げた。やはり特殊コースはリピーターを甘くみてはいけない。年齢かブリンカーへの慣れなのか、最近は以前ほど行きっぷりがよくなく、前走の函館スプリントSも昨年の2着から11着へと大きく着順を落としていた。今回は中団からじりじりと伸び、3着に入った。最後の粘りはさすが直線巧者。前走大きく減った馬体重も戻しており、再浮上の可能性はある。

惜しかったのは5着デュガだ。8枠を利してベストポジションで進められたものの、最後の最後に外ラチ沿いの進路を失ってしまった。すぐ内に切り返し、再加速しかけたところがゴール板だった。直線競馬の適性は高い。

2025年アイビスサマーダッシュ、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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