【函館2歳S回顧】エイシンディードが逃げ切りV 光ったキング騎手の組み立てと祖母譲りの粘り
勝木淳

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転入初戦、初芝で重賞V
函館開催最終日を飾る函館2歳ステークスはエイシンディードが勝ち、2着ブラックチャリス、3着カイショーで決着した。
新馬勝ち組は6頭。このうちレコードを更新したのがカイショー(芝1000m)とブラックチャリス(芝1200m)。開幕から高速決着が続いた函館は、最終日でも条件戦の芝1200mで1分7秒台が記録されるなど良好な馬場を保った。2歳レコード更新の2頭はそんな高速馬場の象徴といっていい。
この2頭を向こうに逃げ切ったのはエイシンディード。道営5月デビュー、6月に門別で勝ちあがり、転入初戦で重賞をものにした。栗東トレセンではなく函館競馬場で調整されており、環境の変化や移動を最小限に抑えたのも大きい。転入は馬に与える影響もあり、ましてデビューしたばかりの2歳馬は難しい。厩舎間のバトンタッチも見事だった。
もうひとつ。レイチェル・キング騎手の手腕も見逃せない。スタートを決めて先制に成功すると、周囲の動きを冷静に見定めつつ、ハナに立つことを選択した。芝1000mの新馬を逃げ切ったカイショーらが控えると察したからだ。
もちろん、将来を考えると、逃げ一辺倒ではレベルの高いレースだと厳しく、競馬を覚えさせないとならない。だが、結果的にそれら上位人気馬の意図を逆手にとったのがキング騎手。前半600m34.3は遅いぐらい。エイシンディードに負担をかけずに、自然な形で主導権をとっていった。
それでいて、抑えすぎて後ろを引きつけることもない。中盤600~800mは11.0。スピードが緩むコーナーで減速させなかった。ここを速いラップで乗り切り、終盤は11.2-11.9。あくまで強気の姿勢を崩さなかったため、後続もエイシンディードに早めに並べなかった。スプリント戦とはいえ、序盤からの駆け引きは見どころ満載だ。
祖母エイシンルーデンス譲りの粘り強さ
キング騎手の巧みな組み立てに対し、対応して最後まで踏ん張ったエイシンディードも優秀だ。
前後半600mは34.3-34.1。はじめての芝でこれほど均衡したラップを走った。後半600mを34.1でまとめたのはエイシンディードの能力の証である。
母の母エイシンルーデンスは1999年チューリップ賞で桜花賞馬プリモディーネを完封し、5歳春に中山牝馬ステークスも逃げ切った快足牝馬。逃げればしぶとさを発揮するタイプで、スピードというより粘り強さが印象的だった。
繁殖牝馬としても2011年北九州記念2着のエーシンリジルを出したが、それ以上にその産駒から活躍馬を出す。祖母としてより力を発揮する傾向があり、エイシンディードもこのパターンだ。後半600mを34.1でまとめたのは祖母の影響だろう。
また父ファインニードルも好調で、今年のJRA重賞3勝目。重賞通算4勝の内訳は京都3勝、函館1勝。すべて平坦コースで、3着以内も函館と小倉という平坦巧者。夏競馬には欠かせない種牡馬となりそうだ。
ただファインニードル自身は急坂のGⅠで2勝しており、坂は苦にしない。その父アドマイヤムーンや、さらにその父エンドスウィープの血も感じる。フォーティナイナーの一族は平坦やスピードトラックで強かった。時代を経ても血統の格言は生き続ける。
距離の可能性を感じる2、3着馬
2着は終始2番手で流れに乗ったブラックチャリス。一完歩ほど遅れたスタートから番手をとりにいき、その後、わずかに行きたがった。エイシンディードが刻んだ巧みなペースにリズムを乱されたともいえる。
最後は伸びを欠いてしまい、2馬身差をつけられたが、能力的には着差ほど差はない。仕上がりの早さはあるものの、父はキタサンブラックであり、成長力もありそうだ。当然、距離の守備範囲も広そうで、今後は距離を延ばして可能性を探りたい。
3着には控える競馬を選択したカイショーが入った。芝1000mを逃げ切った馬が次走芝1200mで控えるという選択は簡単ではない。大敗してもおかしくなかったが、なんとか流れに乗り、形はつくれた。父スワーヴリチャードという血統を考えると、ブラックチャリスと同じく距離の選択肢はまだ広がりそうだ。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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