【函館スプリントS回顧】カピリナがレコードで重賞初V　短距離でも輝いた「母父マンハッタンカフェ」の底力

2025/06/16 11:30

勝木淳

ⒸSPAIA

この記事のレース

函館スプリントＳ

GⅢ

6月14日(土)　函館11R

無駄のないレース運びが光ったカピリナ

サマースプリントシリーズ開幕と夏の北海道シリーズ開幕を告げる函館スプリントSはカピリナが勝ち、重賞初制覇。2着ジューンブレア、3着ドンアミティエで決着した。

開幕直後の函館は梅雨前線の影響を受けにくい土地柄、絶好の馬場状態だった。5Rに芝1000mで行われた2歳新馬戦では、カイショーが46年間守られたハギノトップレディのレコードを更新。メインはどれほど速い決着になるかと期待された。結果は1:06.6。2017年ジューヌエコールの記録を0秒2更新した。

小回り、高速馬場でレコードとくれば、距離ロスはご法度。内枠からロスなく立ち回らないと届きようがない。勝ったカピリナは出たなりで先行馬の背後につけ、直線も先行勢の間を抜けてきた。一切、無駄のないレース運びが光った。

レコード更新の要因はソツないレース運び以外にもある。やはり開幕週の意識が強く、全体的に前がかりになった結果、前半600mは11.6-10.1-10.8の32.5とハイペースになった。

函館芝1200m戦で前半が32.5より速かったのは、それこそ前のレコードが出たジューヌエコールの函館SS（32.2）だけ。このレースも今回も2ハロン目は同じ「10.1」で、洋芝でこのタイムは限界値に近い。2番枠からダッシュを利かせたカルチャーデイをインビンシブルパパが交わしにかかるなど、全体的に前への意識が高かった。

前半32.5に対し、後半は34.1。11.1-11.3-11.7と4ハロン目も速く、一切息が入っていない。それでいて、失速ラップながら後半も34.1にまとめており、落差1秒6の前傾であっても前は崩れない。勝負所まで息が入らなくても前は決して息切れしない。このスキのなさは馬場の恩恵だろう。

勝ったカピリナは前走の愛知杯（中京芝1400m）で前半600m32.7の超ハイペースを経験しており、差し決着のなかを粘って3着だった。これが今回にいかされた。

ダンカーク産駒もJRA重賞初制覇

カピリナの父ダンカークはこれが産駒のJRA重賞初制覇。ダンカーク産駒は総じてダートでの活躍が目立ち、前週（6月8日）までの時点で芝1200mのオープン・重賞では【0-0-4-18】。スピード勝負は決して得意ではない。

それもそのはずで、ダンカークはベルモントS（ダート12ハロン）2着、フロリダダービー（ダート9ハロン）2着と中距離で活躍した馬で、ファピアノの流れをくむアンブライドルズソングの色が濃い。

カピリナも芦毛は父ダンカーク譲りだが、適性は母ライトリーチューンから受け継いだ。姉は葵SとキーンランドCを勝った快足レイハリア。母の父マンハッタンカフェが万能で、短距離から長距離まで守備範囲が広い。

母父マンハッタンカフェといえばテーオーロイヤル、タスティエーラ、ソウルラッシュ、ペプチドナイル、サンライズアース、セラフィックコール、セイウンハーデスなど、多彩なカテゴリーで活躍馬を送り続けている。多様な適性と底力を伝える血だ。

スタートが痛かったナムラクレア

2着ジューンブレアはカピリナと同じような位置にいた。着差はハナ差と際どかったが、勝負所で一列外を回った分であり、力差はほぼない。こちらも前走アクアマリンSで前半600m32.7を逃げて刻んでおり、ハイラップの経験があった。内枠に速い馬がそろっていなければ、もう一列前で流れに乗れた。このスピードは魅力だ。

3着ドンアミティエは唯一中団から伸びてきた。初芝でレコード決着に対応したのは今後の選択肢が広がる。ラップに上下動がほぼなく、ダート戦に近い構成だったのもよかった。緩急がなく、突っ込んで入って最後に踏ん張る競馬であれば、芝もやれる。こちらも進路は終始イン。最後までインにこだわった鞍上の判断も好アシストだった。

1番人気ナムラクレアは8着。これだけ速い馬場で先行優位のなか、スタート後手は痛すぎた。リカバーすべくこちらもインを狙っていったが、直線は進路がなく不完全燃焼。前半でポジションがとれない近況を考えると、距離をもう少し延ばして追走に余裕をもたせてもいいかもしれない。

2025年函館スプリントS、レース回顧,ⒸSPAIA

《ライタープロフィール》
勝木淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』（中央競馬ピーアール・センター）にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説　世界を驚かせた金色の暴君』（星海社新書）に寄稿。