【ヴィクトリアマイル】単勝208.6倍にブエナビスタら名牝の敗戦 波乱に富む春の女王決定戦の「記録」を振り返る

緒方きしん

ヴィクトリアマイルに関する記録,ⒸSPAIA

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”荒れるGⅠ”ヴィクトリアマイル

今週はヴィクトリアマイルが開催される。今年で創設20年目を迎える牝馬限定GⅠで、過去にはソダシやストレイトガール、ヴィルシーナといった名牝たちが勝利を挙げてきた。今年はアスコリピチェーノやステレンボッシュ、ボンドガールといった元気な4歳世代が集結。波乱の多い一戦をどう戦うか注目が集まる。

今回は春の女王決定戦の19年間の「記録」を振り返る。

昨年は14番人気の大穴テンハッピーローズが勝利。それまでも”荒れるGⅠ”として知られたヴィクトリアマイルのオッズ記録を、一気に塗り替える波乱劇だった。

単勝オッズは208.6倍で、それまで1位だったコイウタ(2007年・60.3倍)の記録を大きく更新。枠連こそ2着の2枠が4番人気フィアスプライド・5番人気スタニングローズと人気枠だったため歴代3位だが、それでも111倍。馬連(936.9倍)、馬単(3032.6倍)はいずれも歴代最高オッズとなった。

逆に、歴代の馬連の低オッズランキングは以下の通り。

1位 2.3倍 アパパネ・ブエナビスタ(2011年)
2位 7.5倍 アーモンドアイ・サウンドキアラ(2020年)
3位 10.0倍 ダンスインザムード・エアメサイア(2006年)
4位 16.7倍 エイジアンウインズ・ウオッカ(2008年)
5位 19.6倍 ソングライン・ソダシ(2023年)

1位のアパパネ・ブエナビスタこそ2番人気→1番人気での決着だが、2位は2着のサウンドキアラが4番人気、3位は1番人気ラインクラフトが9着に敗れる中で2番人気→3番人気での決着と、低オッズランキング上位でもやや波乱の様相だ。

同じ牝馬限定GⅠの馬連低オッズランキングの5位でも、エリザベス女王杯が7.0倍(2011年)、桜花賞が6.2倍(2011、2024年)、オークスが5.9倍(2023年、2024年で4位タイ)と、10倍を切っている。歴史に差があるとはいえ、ヴィクトリアマイルの波乱ぶりを示す数字と言えるだろう。

超名牝ブエナビスタを撃破した三冠牝馬アパパネ

馬連オッズが最も低かった2011年がいわゆる「平穏決着」と捉えられていたかといえば、そういうわけではないだろう。

前年に牝馬三冠を達成したアパパネは、秋華賞後もエリザベス女王杯で3着、マイラーズCで4着と大崩れはしていなかった。しかし前年のヴィクトリアマイルを制していたブエナビスタはジャパンCで2着降着を経験しつつも、2010年は連対率100%で年度代表馬にも選出。あまりにも強く実績のある相手だった。

年が明けてドバイワールドCでは8着に敗れていたものの、牡馬を相手に互角以上の戦いを繰り広げてきた稀代の名牝が牝馬限定戦で負ける姿は想像し難く、単勝オッズは1.5倍と圧倒的。さすがのアパパネも2番人気で4.1倍、3番人気のレディアルバローザに至っては11.7倍というオッズ構成だった。

レースが始まるとオウケンサクラがレースを果敢に引っ張り、緩みのないペースでの戦いとなった。後方にポジションを取ったブエナビスタと、そのやや前で機をうかがうアパパネ。好位で進めていたレディアルバローザが早めに抜け出したところを、有力牝馬2頭が追撃した。

最後は激しい追い比べとなったが、ポジションが前だった分、アパパネが粘って勝利。ブエナビスタはクビ差で敗れ、2番人気→1番人気とはいえ波乱の空気もある決着となった。上がり最速はブエナビスタの34.0で、アパパネは3位の34.3。鞍上の蛯名正義騎手による絶妙なポジション取りが引き寄せた白星だった。

アパパネは引退後、母としても活躍。ジナンボー、ラインベックと重賞好走馬を出していたが、ついにはアカイトリノムスメがクイーンCを制して重賞馬に。さらに秋華賞も制して母娘制覇を達成した。今年の3歳馬アマキヒも、青葉賞で5着とダービー出走は逃したものの、大器の片鱗を見せている。

府中のウオッカに勝利したGⅠ初挑戦馬エイジアンウインズ

4位の低オッズとなった2008年も、1着は単勝13.4倍のエイジアンウインズだった。2着になったのは1番人気馬で、やはり牡馬を相手に互角以上の戦いを繰り広げてきた名牝ウオッカ。3着には4番人気ブルーメンブラットが食い込んだ。

実力馬がしっかりと上位に入っているが、こちらもエイジアンウインズ鞍上の藤田伸二騎手による絶妙なポジション取りが功を奏し、ウオッカの猛追を凌ぎ切った。

ウオッカは上がり最速の33.2を繰り出したが、好位から上がり2位の33.4を出したエイジアンウインズには届かなかった。エイジアンウインズは条件戦から3連勝での戴冠。重賞初出走初制覇→GⅠ初出走初制覇と一気に階段を駆け上がった。

エイジアンウインズの半妹キュートエンブレムはフローラSで3着、同じく半妹のエバーブロッサムはオークスやフローラSなどで2着の活躍馬。エイジアンウインズも母として活躍馬を送り出しており、父ロードカナロアのメジェールスーは4勝をあげてヴィクトリアマイルにも挑戦した。

父ルーラーシップのワールドウインズは4歳でオープン競走・関門橋Sを制した実力馬。7歳でリステッド競走・六甲Sにて2着に食い込むなど、8歳になった現在も活躍を続けている。

アーモンドアイ、グランアレグリアを抑えてレースレコードはノームコア

エイジアンウインズが制した2008年の勝ち時計は1:33.7で、レース史上3番目に遅いタイムだった。最も遅い決着となったのは、馬連の低オッズランキングでも3位となっている2006年ダンスインザムードの1:34.0である。

一方、最速決着ランキングは以下の通り。

1位 1:30.5 ノームコア(2019年)
2位 1:30.6 アーモンドアイ(2020年)
3位 1:31.0 グランアレグリア(2021年)
4位 1:31.5 ストレイトガール(2016年)
5位 1:31.8 テンハッピーローズ(2024年)

2019年〜2021年の3年間がトップ3という結果に。アーモンドアイとグランアレグリアの鞍上はC.ルメール騎手、ノームコアはD.レーン騎手だった。大波乱の昨年も1:31.8とタイムは速い。実際、勝ち馬のテンハッピーローズは秋にBCマイルで4着に食い込むなど、相当な実力の持ち主であった。

半妹と共に競馬界を盛り上げた名牝

ノームコアは2020年JRA特別賞受賞馬クロノジェネシスの一つ上の半姉。ノームコアが父ハービンジャーで、クロノジェネシスは父バゴである。

妹のクロノジェネシスが阪神JFで2着、桜花賞とオークスで3着、秋華賞を勝利と早くから頭角を現したのに対し、ノームコアは牝馬三冠は未出走。それでも3歳秋にはエリザベス女王杯に出走を果たして2番人気5着と、実力は見せていた。年が明けて愛知杯を1番人気2着、中山牝馬Sを1番人気7着と連敗。同時に2000m戦の愛知杯で2:00.1、1800m戦の中山牝馬Sで1:47.9と、様々なペースを経験した。

5番人気で迎えたヴィクトリアマイルでは、アエロリットが引っ張る緩みのない展開に。7番手付近を走っていたノームコアは直線で外から追い込むと、ラッキーライラック、クロコスミアをかわして脚をのばす。

最後は追い込んできたプリモシーンの追撃を振り切って勝利。前年の紫苑S以来となる勝ち星を手にした。ノームコアは翌年にも札幌記念、香港Cを制するなど活躍。初仔のシルバーレインは今年3歳となり、既に2勝を挙げている。

今年はどのようなペースで、どのポジションから進めた牝馬が栄冠を掴み取るだろうか。

《ライタープロフィール》
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ドウデュース。

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