【京王杯SC回顧】JRAレコードVのトウシンマカオが示したA級スプリンターとしての資質
SPAIA編集部

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驚異的な回復力を見せた東京芝
今年から2週間前倒しされた安田記念の前哨戦はトウシンマカオが勝ち、2着ママコチャ、3着ロジリオンと人気同士の堅い結末となった。勝ち時計1.18.3は従来の記録を0.7更新するJRAレコード。前日51ミリの雨量を記録した東京は、午後には良馬場に回復するなど絶好の馬場状態だった。
馬場のアシストがあったにせよ、それにしても1.18.3は速い。前半600m33.9、後半600m33.2とレース全体を通しスピード勝負になったのも大きい。京王杯SCで過去、前半600m33.9以下はタイキシャトルが勝った98年など6例。その後半600mは98年35.0など全て後半が遅く、平均も35.0。後半がおよそ1秒以上要する上がりがかかる展開になる。
東京芝1400mではこれが自然。前半33秒台で突っ込めば、後半は厳しい流れになるので、全体時計は1分20秒台前半までかかる。速くてもレッドスパーダが勝った2014年1.19.7なので、今年の1.18.3は常識では考えられない。前半ある程度流れ、後半さらに加速する。もちろん、馬場の恩恵は無視できないものの、間違いなくスピードの持続力の絶対値が求められた。
バラバラの入線はハイレベルの証
1、2着トウシンマカオ、ママコチャは高松宮記念4、3着馬。スプリント重賞4勝、GⅠ馬と文句なしのスプリンターたちで、スプリント適性が勝敗をわけた。1400mはこの距離しか走らないスペシャリストもいるが、時計が速いとスプリンター、遅い場合はマイラーと適性が揺れる距離でもある。
スペシャリストはその揺れに対応できる幅があるが、今回はスプリント適性に大きく傾いた競馬でもあった。レースラップは12.2-10.7-11.0-11.2-11.0-11.1-11.1。スタートからゴールまで11.1か2で駆けられないとどうにもならない。これだと溜めを効かせるマイラータイプの台頭は難しく、スプリンターの中でもA級スプリンターでないと対処できない。
混戦模様になりがちで、着差がつきにくい京王杯SCはゴール前の接戦が売りだが、今回は1馬身半、1馬身、さらに1馬身1/4と入線はバラバラ。対応できた馬が少なく、ハイレベルな一戦だったといえる。
トウシンマカオにみえる祖父サクラバクシンオーの面影
トウシンマカオはこの勝利で重賞5勝目。6歳58キロでこのパフォーマンスとは、頭が下がる。過去の重賞は全て1200mで、1.07.2、1.07.4、1.08.0、1.07.7とスプリント戦でも高速決着に強い。昨年は6着。1.20.2だったから、年をひとつ重ね、1秒9も時計を詰めたのだからすごい。
ビッグアーサー産駒は4月27日までJRA119勝中1200m84勝、1400m18勝のゴリゴリのスプリント血統で、1400m重賞は今年の阪急杯カンチェンジュンガが初。だが、ビッグアーサーも高松宮記念を1.06.7で制しており、高速馬場への対応力は父の影響もある。
その父サクラバクシンオーも引退レースで1.07.1を記録。1400mは4戦全勝であり、トウシンマカオには毛色こそ異なるが、その面影を感じる。
さすがにマイルには向かわないが、夏、秋とローテ―ションを上手く組み、スプリンターズSを最大目標に進むだろう。野芝の高速決着なら勝ち負け必至で、昨年も1.07.0で2着。今度こそ差し切ってほしい。
2着ママコチャも6歳56キロでこれだけ走れれば申し分なし。トウシンマカオに目標にされる形になったのは痛かったものの、こちらは延長分の200mが壁になった。1400m3勝も近年はスプリント戦での経験から1200m仕様になった印象。順調に夏を過ごし、スプリンターズSでGⅠ2勝目を目指してほしい。活力はまだまだ尽きていない。
3着ロジリオンはマイル戦に続けて出走していた分、序盤のスピードで上位馬たちとの差が出た。中団から上がり600m32.7で届かないなら仕方ない。決め手で劣る印象があっただけに、高速上がりになんとか対応したのは未来につながる。理想はもう少し楽に流れに乗れるマイルかもしれないが、1400m重賞もここまで速くならなければ対応できるだろう。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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